『会議は踊る』  戻る  トップへ

 「う〜〜ん・・・」
 リリム・フェイ大尉は悩んでいた。
 そろそろ砂漠に建造された敵の前進基地を叩いておかないと、この基地が危なくなるリミットが近づいている。本来なら、今ごろロバート・ロックウッド曹長率いる優秀な偵察兵達が破壊工作を行い、かなりの時間を稼いでいたはずである。しかし、部隊長であるクロフォード・ユウキ中佐は、部下のあまりの惨状に同情し、R・R達に遺跡探索の護衛任務を命じた。彼らほど潜入・破壊工作に長けた兵は、現在この部隊に存在しない。なにか、他の手を考える必要が有ったのだ。

 その日の午後。第1会議室には、現在当直中の仕官、ほぼ全てが集まっていた。そのため、当直中でない守護天使小隊の面々は一人も来ていない。全員街に映画を見に行っている。もちろん、そうなるような時間に故意に開かれた会議である。現在、クロフォード中佐が状況の説明を行っている。
 「さて、どうする? 現在、完動状態のメック小隊はうちにはない。守護天使小隊が貸与してくれた部品で、一週間後にはアーバンメックが完動状態になるし、ウルヴァリーンD型も稼働状態になる。ライフルマン2機も、改造型としてもうすぐ実戦配備できるだろう。そうすれば、メック3個小隊がなんとか稼動状態になる。ま、訓練を始めたばかりで戦力にならんメックウォリアーも含めてだが・・・しかし、それまで敵は待ってくれんだろう。」
 「隊長、守護天使小隊は完動状態ですが?」
 リリム大尉の指摘に、マディック・ウォン・ヴァレリウス大尉が、頭を抑えながら言った。
 「彼女たちの事は忘れたほうがいい。いざって時の予備戦力、あるいは、敵に対する見せ金戦力と思ったほうがいい。それを含めた意味では、現在3個小隊、2週間後には4個小隊だ。」
 「2週間後でも実際に使える戦力は9機ですか・・・」

リリム大尉は、自分のついさっきまでのかっこうを思い出しながら言った。色は青ながら、守護天使小隊長のマルガレーテ中尉とおそろいのドレスを着ていたのである。そのためか、近頃兵士の中にはリリム様親衛隊なる物まで発生している。確かに、あてになりそうにはない。仕方ないか・・・気を取り直して会議に注意を戻すと、アカギ・エンドウ技術少尉が、補給状況を報告していた。

「遅れていた報酬が振り込まれたので、エージェントが部品の買い付けを行い、発送も終えたそうです。ですが、部品の到着は早くても4週間後です。それさえ届けば、完全修理できる機体がもう少し増えます。スティンガー2機とブラッディカイゼルも動かせるようになるでしょう。」
 「うむ。しかし、それまで待ってはおれん。そうなると、まともに動く機体だけで小隊を再編成して、強襲をかけるしかあるまい。ただ、正面から行ったのでは被害が大きすぎる。そこで、」
 クロフォード中佐が、リリム大尉の考えた作戦を説明しようとした時、突然会議室のドアが開き、ピンク色のモノが飛び込んできた。

 あ、よかった〜〜〜。会議に間に合ったですわ〜〜〜!
 会議室の空気が凍り付いた。恐る恐ると言った感じで、もっとも入り口近くに座っていたミッキー・クライバーン准尉がたずねる。
 「あの、マルガレーテ中尉殿。映画を見に行っていたのでは?」
 「ええ、それがですね、ちょうど昨日でその映画、上映終わってたんですの。他の皆様は、別の映画を見ようということになりまして街に残ったのですけれども、私は見たい映画がございませんでしたの。ですからちょっとお買い物して戻ってきたんですのよ。そうしたら、歩哨に立っていた兵隊さんが、仕官は会議してるって教えてくれたものですので急いで駆けつけたのですわ・・・」
 期せずして、この場にいる士官達の心の中に同じ思いが浮かんだ。

(「ええい! だれだ、よけいなことを言った奴は!」)

その後の会議は、もめにもめたが、終わった時には次の事が決められていた。

1、奇襲は守護天使小隊、歩兵第1、第2小隊が行う。
2、使用する機体は、レパード級降下船シャネルクイーン号、守護天使小隊の4機のバトルメック、ミッキー准尉の作業メック、偵察分隊のおいていった2機のスキマー、ならびにそれらの周辺装備、偽装装備など。
3、決行は2日後夜明けに行う。
4、作戦名「天使降臨」

 なお、この作戦でお守り役(本人談)を押し付けられ、自機をピンク色に塗る羽目になったミッキー准尉は、即座に医務室に向かったそうである。

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