『古強者の意地』  戻る  トップへ

ズガガガガ、ズガガガガ、シュバババババ
ドラゴンの速射オートキャノンが、長距離ミサイルが間断なく発射される。すでに戦闘開始後数分が経過しているというのfile:///D:/バトルテック/BH朽木/全コンテンツ/B・H/B・H/ss/C/C12辛勝.htmlに、弾切れの気配はない。この絶え間ない攻撃は、ゼウス改改の命数を刻々と削っていく。マローダーのオートキャノンは、とうの昔に撃ち尽くされてしまっている。恐るべき継戦能力である。

 「くそ、だが、まだまだぁ!」

 クレアは、自分に気合いを入れるために叫んだ。こちらとて、主武装は使いべりのしない粒子砲と大型レーザーなのだ。しかも、まだ放熱能力は落ちていない。同時発射をしながら巡航速度で動いても、熱はたまらないのだ。その上二門の6連短距離ミサイルに至っては、全く撃っていない。弾薬切れの心配はない。

 「あんもう、ちょこまかと!」

 クレアよりは、マルガレーテの方が焦っていた。2度に渡って受けてしまったドラゴンのキックにより、マローダーの脚部装甲は両方ともぼろぼろになっている。近寄らせる訳にはいかない。

 「どうしたどうした! 焦りが見えるぞ! はるかに重い機体2機がかりで、わしに圧倒されてどうするんじゃ!」
 「えい! えい! 又はずれ!? 照準が狂ってますわ、これ!」
 「これ、機械のせいにするもんでない。テックに失礼じゃぞ。」
 「なんで貴方に説教されないといけないのよぉ!」
 「そうだそうだ!」
 「お前らがあまりに情けないからじゃ。」
 「「くうううぅぅぅ!!!」」

 二人が真っ赤になって黙る。ゼウスとマローダーを合わせた重量は155トン。対してドラゴンは60トン。2.5倍もの重量差があるのだ。言われても仕方がない。
 ズガガガガ!! 又しても、オ−トキャノンがゼウス改改に命中する。だが、装甲は未だにその役目を果たし、中枢が傷つけられる事を防いでいる。

 「ええい! すでに十数回は命中弾を与えておるのに・・・連邦の新型は化け物か!」
 「そうさ! あたしのメックは、最強なんだよ!」
 「最強なのにわしに圧倒されとるのか? それじゃあメックが泣くぞい。」
 「こんんのおぉぉぉ!!!」

 クレアは怒りのあまりに無茶な攻撃を始めた。全力でドラゴンに接近し、粒子砲と大口径レーザーをうちまくる。しかし、当たらない。我田中尉の機動防御と、間合いを計る戦闘センスが、命中率を悪くしている。クレアは、有効射程に入っていないミサイルまで発射した。

 バシュバシュバシュ!

 左右の胸の装甲が開き、2門の6連短距離ミサイル発射筒が顔を出す。だが、そこから発射されたミサイルは、一発も命中せずに、ドラゴンのはるか横や上を通りすぎるだけだ。が、その時、戦闘開始から今まで、一度も止まらなかったドラゴンがぴたりと足を止めた。そして、我田中尉が、凄まじい声で大喝した!!

 「こりゃあああああ!!!!! 若い婦女子が、なんちゅう破廉恥なメックに乗っとるんじゃ!!! 恥らいっちゅうもんを知らんのか!!」
 「!?」

 クレアとマルガレーテも、訳の分からない中傷に呆気に取られ、メックの動きを止めた。

 「何じゃそのおっぱいミサイルは! 露出狂か!」
 「な、なんだよ、このエロジジイ! なにがおっぱいミサイルだってのさ!」
 「それじゃ! 胸のミサイル発射筒じゃ!! 胸当てを開いてチチの所からミサイルを出すなど・・・どう見てもおっぱいミサイルじゃろうが!!」
 「!?」

 クレアとマルガレーテは、落ち着いて良く考えてみた。ゼウス改改は、言うまでもなくゼウスの改良型である。メックの自動工場内での戦いで破壊された15連長距離ミサイルの代りに、拾ってきたヤマタノオロチから回収したSRM発射筒を取り付け、装甲や羽目殺しになっていたマニピュレーター等の細部をいじったと言う代物である。当然ながら、後づけしたミサイル発射筒を搭載するスペースは、本来のゼウスにはない。そのため、左右胸部の装甲板の一部に穴を空け、その部分に発射筒を外付けし、覆うように装甲板を取り付ける必要があった。かくして・・・ゼウス改改の左右の胸は、まるで女性の胸のようにポッコリと膨らんだデザインになった。6連短距離ミサイルを発射する時は、この装甲板を開く必要が有る。そう、まるで、フロントホックブラを開くかのように。しかも、このゼウス改改は、ピンク迷彩を施されている。胸の膨らみとしか思えない部分は、ピンクに塗られていたのだ。我田中尉が、おっぱいミサイルと表現したのは、正にいいえて妙といえる・・・のだが・・・

 「ち、違う、これは、設計上そうなっちゃっただけで、別にそんなつもりは・・・」

 クレアの言い訳は、段々尻すぼみになり、止まってしまう。顔が真っ赤になっている。我田中尉が、じと目で睨んだ。

 「それで!?」
 「「・・・・・・・・」」

 二人とも、何も言い返せない。たしかに、恥ずかしい武器であると気付いてしまったのだ。

 「今まで気付かんかったのか。全くこんな恥知らずなメックを開発するとは、連邦め、何を考えとるんじゃ。これが大挙して襲ってくると思うとぞっとするわい。」
 「いえ、まだ量産はされていませんわ」
 「ば、ばか!」

 動揺していたマルガレーテは、思わず軍事機密を口走ってしまう。クレアが慌てて止めたが、我田中尉は、しっかりと聞いていた。そして、目をギラリと光らせていった。

 「ほう。するとそれは試作機か。辺境での実戦投入試験を行うためにこんなとこにまで出てきたのか。という事は、実戦成績が悪ければ、量産はされんということじゃな。害毒を世に撒き散らさんため、この場で屑鉄にしてくれるわ! 覚悟せい、その・・・あ〜〜〜、なんてメックじゃ? ・・・・まあええわい。そんなメックの名前なんぞ、露出狂で充分じゃわい!」
 「な!!」

 クレアは、あまりにひどい呼び名に絶句した。そして、このメックがゼウス改改だと言おうとして危うく思いとどまる。ゼウスはライラ共和国の特製メックだ。いかに外見の印象が大幅に違っているとは言え、一発で所属がばれてしまう。この機体の実戦テストの場所として、恒星連邦の片田舎を選んだ理由の一つは、目立たない場所でテストを行いたかったからなのだ。メックの自動工場の発見と、それに伴う数々の事件は、一応表向きだけでも秘匿されている。そう、『表向き』は。自分達は、有名になりすぎてしまったのだ。しばらくの間は、身を潜めていなければならない。クレアは、一瞬でこれだけの判断を下した。
 しかし、いくらなんでも露出狂はあんまりである。急いで何かそれらしい名前を考えないと、これからずっとコードネーム“露出狂”に乗っているメックウォリアー呼ばわりされてしまう。クレアは焦った。
と、その時、マルガレーテから助け船が出された。

 「アフロディーテですわ。海の泡から生まれたとされる、愛と美の女神の名前です。そんなひどい名前で呼ばないで下さいな。」

 アフロディーテ。ゼウスとディオネーの娘。ゼウスの改良型として、実にふさわしい名前である。

 「ふん・・・そう言えば、貝から裸の美女が生まれるとかいう古代の絵があったような気がするな。まあ、おっぱいミサイルを装備したような機体には似合いじゃわい。」
 「「ちょっとおおぉぉ!!」」 

 相変わらずのひどい扱いに、二人は抗議の声を上げた。

 「ま・・・この評価を取り消して欲しかったら、わしに勝つ事じゃな。この戦力差で負けるようなメックウォリアーなら、屈辱に甘んじるのも仕方なかろう。ゆくぞ!!」
 ドラゴンが、再び高速移動を始める。クレアのゼウス改改あらためアフロディーテとマルガレーテのマローダーも動き出した。
 「ふん、たしかにあんたのゆうとおりさ! これで負けるようなら、どういわれようと仕方ない! 実力で示してやるよ!」
 「ええ、撤回させてみせますわ、その評価!」
 「よし、その意気じゃ。口で言い訳するんではなく腕を示せ! 戦いの力こそメックウォリアーの価値じゃと言う事を忘れるな!」

 砂漠に再び、弾丸とビームが飛び交い始めた。双方ともに、一歩も譲らぬ攻防を繰り広げる。 
 我田中尉はにやりと笑って思った。これだけ楽しい戦いは久しぶりじゃ、と。

 しかし。もし、我田中尉が、松島曹長のジェンナーにこの時起こった事を知っていたら、笑ったりは出来なかっただろう。この時、逃してしまったグリフィンが、松島曹長のジェンナーに致命的なダメージを与えていたのだ。

キュドッッ!! メキ・・ズズン。
 松島曹長のジェンナーが、グリフィンの粒子ビーム砲を足に受けた。足を折られたジェンナーは、右足から嫌な音を立てて倒れ込んだ。かろうじて足は繋がっているが、マイアマーは完全に駄目になっている。もう、立ち上がることすら出来ないだろう。

 「くそ! こんな所で故障だと!?」

 松島曹長は、作動しない緊急脱出装置のレバーをガチャガチャと動かしながらいった。

 「これでおしまいか!? やっぱ奴は、死神かよ!」

 と。だが、そうはならなかった。グリフィンが、高速でジェンナーの横を通りすぎていく。そして、通信機から雷太軍曹の声が聞こえてきた!

 「死なせはせん! 絶対に死なせはせん! おれは・・・おれは・・・しにがみじゃなあぁぁぁぁぁい!!!!!!」
 「雷太!? 戻ってきたのか!?」

 松島曹長は驚いた。主戦場の脱出に手間取ったため、最初に逃げたフェニックスホークからはかなり引き離されているとばかり思っていたのに・・・

 「ばかやろう、なんで戻ってきた! あのままなら逃げ切れたのに!」

 松島曹長が叱責する。だが、その声には、隠すことの出来ない喜びと・・・見直したという、信頼にも似た感情がこもっていた。

 「これで、生き残れる確率が出てきた。よし!」

 普段は折りたたまれているジェンナーのマニュピレーターが、カバーの下から出る。松島曹長は、二本の頼りない腕を懸命に使って、射撃姿勢を取った。中口径レーザーのエネルギーは、充填されている。 

 「雷太、敵をこっちに引き付けてくれ! そうすれば、援護射撃が出来る!」
 「了解!」
 二人は始めて、心を一つにしての行動を行い始めたのである。だが悲しいかな、ブレンダはグリフィンが高機動支援機であることを良く知っていたのだ。

 「ふん! そんな見え透いた手になんか、かかりませんです!」

ブレンダのグリフィンは、ジェンナーの武器の射程内にけして入らなかった。そして、フェニックスホークに対しても距離を置いての砲撃戦を行う。長距離ミサイルも粒子砲も、大口径レーザーより射程が長いのだ。危ない真似をする必要はない。

 「くっそおぉぉお!」

 敵を引き付けるという、消極的な戦いを強いられたフェニックスホークは、数発目の粒子砲を受けてしまった。これで、不意打ちでグリフィンに与えたダメージは帳消し・・・いや、こちらの方が不利になったといえるだろう。このままでは駄目だ。雷太は思う。近距離に肉薄して、相手の懐に入るしかない。
 ジャンプジェットを吹かして距離を詰め、岩陰から大口径レーザーを撃った。グリフィンにはあたらず、足元の砂を吹き飛ばしただけに終わる。

 「ふん、そんな攻撃、恐くありません! ほ〜ら、そんな事してるとお仲間がやられますわよ!」」

 ブレンダは、粒子ビームを倒れ伏したジェンナーに向けて撃つ。側の地面に当たっただけだが、フェニックスホークのパイロットを慌てさせるには充分だった。

 「卑怯な!」
  雷太は、一般回線で敵グリフィンに通信を入れて怒鳴った。そして、遮蔽物の陰から出ると、自らおとりとなるために移動攻撃をする。そうせざるを得ない。この時、グリフィンから通信が入った。双方向映像通信だ。そこには、どう見ても子供としか見えない少女が映っている。

 「子供!?」
 「! いったわねえ! あたし、子供じゃないもん! それに、降伏もしてない戦闘能力のあるメックを攻撃するののどこが卑怯なのよ!」
 「ええい、俺達はこんなガキにやられたのか?」
 「違うわよ! 私はもう16なんだから! 結婚だって出来るんだからね!」
 「それのどこがガキでないって言うんだ!」
 「結婚できる年になればもう大人よ! ちゃんと戦えるんだから!」

 ほとんど痴話げんかの会話をしながら、二人は激しく射ち合った。しかし、腕は互角、雷太は有利な地形の利用が出来ないとなると、結果は自ずと明らかだ。フェニックスホークの装甲は、大ダメージを受けているグリフィンより頼りない物になりつつある。

 「これでどうだぁ!」

 雷太は、一気に走りよった。グリフィンが、とっさに下がるが、それでも強引に距離をつめる。そして、至近距離から二門の中口径レーザーとマシンガンを打ち込んだ。

 「きゃん! もう〜〜そっちがその気なら!」

 ブレンダは、粒子砲をジェンナーに向けて撃ち込むと同時に、フェニックスホークに走り拠ってキックを試みた。

 「しまった! 近づきすぎたか?」

 こちらもキックで反撃する。しかし、これは双方とも外れてしまった。 
 ドシン! ドシン!
 まだまだ発展途上の腕前の二人は、そろって転んでしまう。その時、松島曹長のジェンナーから通信が入った。

 「おい、今のうちにこっちに来るんだ! ジェンナーは捨てるから、拾ってくれ! 逃げるんだ!」
 「りょ、了解しました!」

 雷太軍曹はフェニックスホークを立ち上がらせると、一直線にジェンナーの所へ走らせる。

 「ま、待つです!」
 グリフィンが後を追おうと立ち上がろうとして・・・コケた。

 「キャン! え!? うそ!? さっき転んだ拍子に足の駆動装置が壊れちゃったの!? いや〜〜ん!!」
 
 雷太軍曹のフェニックスホークは、ジェンナーの操縦席から這い出してきた松島曹長を拾い上げた。

 「おい! 急いで逃げるぞ! 立ち上がられたら、また粒子砲と長距離ミサイルが打ち込まれる! お前のホロホロドリの装甲はぼろぼろだ。手後れにならんうちに!」
 「了解しました!」
 「あ〜〜〜! 逃げるなんて卑怯です! 堂々と勝負するです!!」

 雷太軍曹のフェニックスホークは、じたばたともがくブレンダのグリフィンを尻目に、全力で走り去った・・・

戻る  トップへ