『ホフ小隊撃滅』 原案:M−鈴木&正太郎 作:ミッキー
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林と森をサイドステップでかわし、一挙動で150mまで距離を詰めると背面を向けたままのウォーハンマーに近距離セットの4門の中口径レーザーを叩き込む。ブラックハウンドの熱状態が瞬時にイエローゾーンに跳ね上がった。
4本の光条の内2本が胴体の中央付近に集中し、脆弱な背面装甲を貫徹して内部機構に食い込むのを手応えで感じる。この感覚は熟練の域に達したMWの多くが一度ならず感じる非科学的な感覚であるが、多くの場合現実でもある。
それを証明するが如く、破孔から勢い良く高温のガスが噴出する。恐らくエンジン遮蔽の一部に損傷を与える事に成功したのだろう。赤外線映像では真っ白い剣を突き立てられた様に見えるだろう。
「ウォーハンマー、火力30%減少を予測」
そう呟きながら、驚くべき事に恐慌状態に陥る事も無くきびすを返し、射撃態勢に入る敵小隊との間に先ほどかわした濃密な木立を押し込む様に機動。上体を捻るとサンダーボルトに1対1での射撃戦のお相手を強制する。
「視界から消えた?」
「います、林の向こう!」
「何ぃ!?」
「こいつ!」
サンダーボルトが放った4門のレーザーはブラックハウンドを逸れ、荒れた地表にその爪跡を刻み込む。一方ブラックハウンドの放った4門の中口径レーザーは、その内3門をヒットさせた。ブラックハウンドはいまだ無傷である。
「どうした? 一発も当たらんぞ?」
ニヤリと笑うマディック。対して、ホフォベクウィッチ中尉(以後ホフ中尉と表記)は、一撃必殺に懸ける命令を下した。
「 ナン(ハンチバック)! お前が突っ込め!! そのACなら!」
確かにAC20は強力な火器であるが、如何せん射程が短か過ぎた。
斜め方向に走行する事で思いきり良く後退するブラッドハウンドには照準が定まらない。
その一方でハンチバックの中央胴体にはPPC着弾による放電が走っていた。
「1発位で!!」
ナンは委細かまわず突っ込んだ。それに答えるようにマディック大尉は通信を入れた。ついに敵小隊の通信周波数を探り当てたのだ。
「だがどんな重い損害も1発目から始まるんだ」
獲物と言葉を交わし・・・戦いをより楽しむために、通信を入れる。
「この声、敵か?」
ホフ中尉が驚愕の声を上げる。通信を傍受されているなら、作戦は筒抜けという事になる。また、秘匿情報も奪われているかもしれない。周波数を変えて通信する事を命じはするが・・・スクランブラーの周波数情報を奪われていたら終わりだ。
「とにかく死角を無くすんだ! さっきのような1対1の状況を無くせ! ・・・・・布陣(フォーメーション)は良いな?」
「逃がしません」
「何?!」
突如前方に加速したブラックハウンドは瞬時に300mを駆け抜けるとホフ中尉の5時方向にある木立の向こうへ姿を隠した。熟練のメックウォリアーのみが行えるメックの高速機動だ。
「ばか正直にお相手するには火力差が、な。」
マディックはニヤリと笑った。
「追え!逃すな!!」
「俺の目の前を・・コケにしやがって!!」
「待て!ゲンハム、突出するな!!」
「AC20、遠過ぎる?!」
ナン頭の駆るハンチバックを始めとした3機は敵の黒いメックを有効射程に捕らえられない。又しても状況は一対一に持ち込まれたのだ。150mの距離で、部分遮蔽の相手と火力の応酬をする破目に陥ったゲンハムのサンダーボルトは、致命的なPPCの直撃をうけた。
キュドッッッッッ!!!
紫電の雷が、サンダーボルトの頭部装甲を打ち抜いた。余波の幾ばくかが、強化プラスチックの窓を突き破り、操縦室内にまで入りこむ。
「何!? ・・・ゲンハム!!」
サンダーボルトが頭部を失って左側から沈み込んで行く。
緊急脱出装置の作動は確認できなかった。最後の言葉すら吐く暇もなく、死んでいたからである。
しかし、ゲンハムの最後の射撃は的確にメックの急所を突いていた。
ほとんどの射撃が命中し、しかも、頭部や、中央胴の・・・それも装甲の合わせ目をこじ開ける様な場所にまで命中弾を得ていたのだ。
「よし、これだけ被害を受ければ・・・ゲンハムの置き土産で貴様の負けだ!! 嬲り殺しに・・・何?」
ナンは、黒いメックが何らかの被害を受け、戦力の低下を招いたと判断した。が、不可解にもその黒いメックは揺らぎもしない。
「なんともないと言うのか?」
「ちい! 運のいい奴!」
「(ここは下がるか?)」
ホフ中尉の本能が退却を促す。しかしその思考を読んだかのごとく通信が入った。
「退かせはしない、墜ちるか投降するか、どちらかがそうなるまでだ。その為に遥々ここまでやって来たのだろう!? 張りぼての砲台とロングトムでおびき出され、同じく張りぼてのメックと相手をして・・・少しは、名誉挽回しとかんとなあ・・・はぁっはっはっはっは!! ・・・おっと、忘れていた。お遊戯している間にたかが歩兵部隊に基地を落とされたってのも有ったな。すまんすまん」
「この声は先程の・・・黒いメックの戦士か!」
ホフ中尉は、マディックの挑発に完全にむきになった。
「おのれ!! 絶対になぶり殺す!!!」
挑発したブラックハウンドは丘の裏側に回り込んだり森林を間に挟んだりを繰り返しつつ、射界外から同等以上の闘いを強要する。何れも騎士らしからぬ攻防がしばらく続く。互いに、ちまちまと装甲を削りあった。だが、3倍の戦力でありながら、削りあいは黒いメックの圧倒的優位に進んだ。ホフ中尉以下の3機はいずれも装甲の厚い機体だからまだ持っているが・・・弾薬と装甲を前の戦闘から回復していない現在、このような戦いは非常に不利だ。
「退きましょう! こいつは長々相手をすべき敵じゃありません!!」
ルーフェイ(ウォーハンマー)が叫ぶ。
「させないよ、おっさん、どっちかが部品取りになるのさ」
そんな焦りを見逃すマディック大尉ではない。ウォーハンマーが遅れ、孤立したハンチバックに向かう。
「早い、後ろ?!」
黒いメックが回り込む。ハンチバックの背面につけたマディックは、4門の中口径レーザーを発射した。とっさに向き直り、牽制の中口径レーザーで反撃するハンチバックだが、間に合わない。側面から複数のレーザーを浴び、側胴の装甲板が破られる。弾薬に誘爆し、内部崩壊を起こすハンチバック。ナンは、反射的に緊急脱出装置のレバーを引いた。脱出装置がMWを宙高く射出する。
もし、ナンが冷静であれば、脱出はしなかっただろう。オートキャンの弾薬は、一発だけしか残っていなかったのだ。
結局AC20が火を吹いたのは只の4度。全て大地を掘り返しただけだった。
「く! なんてやつだ・・・」
ホフ中尉は歯ぎしりすると、視界外を疾走して回り込もうとしているブラッドハウンドに通信を入れる。
「ものは相談だが、連邦のパイロット、その2機を持ちかえるのと引き換えに我々を見逃す気は無いか?」
「ハンチの方はMWが居るだろう? どうせ還す物だ、大した小遣い稼ぎにもならん」
「なんならハンチバックのパイロットはこちらで始末して機体を進呈しても構わんが?」
「いいねぇ、あんた。ときに、あの3機からそう言う提案があったら受け入れるのかい?」
あの三機。守護天使小隊のアーチャー以外の事である。
「別にわしらの体に興味のある様な倒錯癖の持ち主ではあるまいに。」
ホフ中尉は少し困惑したような声で返した。捕虜が女だった場合、美味しく頂く。ドラコのメックウォリアーであれば当然の行動だ。生かしたまま捕獲するために、丁重な扱いをするべきである。だが、自分達はむさ苦しい男。対して連邦のウォリアーも男である。
「成る程ね、あんた、好きになっちまいそうだよ。・・・・・・・・機体の部品一つ還さん。」
ホフ中尉達がナニをするつもりだったか良く分かったマディックは、一切容赦しない事を決意した。近親憎悪にも似た思いである。もし・・・あの時ドラコを脱走しなければ、自分は目の前のおぞましい輩と同じような行動を取るようになっていたに違いない。
そんな気迫を感じ取ったのだろう。ホフ中尉は秘匿通信を切るとルーフェイ軍曹に叫ぶ。
「ちぃっ、下がるぞ!! この相手では騙し討ちも効くまい!」
「りょ、了解しました!」
どこかほっとした声でルーフェイ軍曹は答えた。ようやっと、この凄まじい敵から逃れられるのだ。
その時、ピピピ! とアテンションアラームがなった。戦況ディスプレイを見ると、遠距離に連邦の物資輸送部隊の反応が見える。だが、わずかに遠い。どうやら、あの黒いメックにまんまとおびき出されてしまったようだ。これでは、無防備な輸送隊を襲うという当初の目的が果たせない。輸送部隊のメックが、重い荷物を降ろして戦闘準備を整えようとしている。まずい。6対2では、話にならない。
「くそ! こうなれば行きがけの駄賃だ! 続け!」
ホフ中尉はオリオンを回頭させ、撤退を開始した。そのついでにまだ無防備な輸送部隊を遠距離から砲撃しようという作戦だ。ルーフェイのウォーハンマーも続く。
「させるかぁ!!」
マディックのブラッドハウンドが、茂みをかきわけて、道をふさぐように躍り出た。
「中尉!出て来ました!!!」
「正面!?」
今までの、機動防御に主眼を置いた戦いではない、正面からの削りあいが始まった。見る見るうちに双方の装甲板が傷ついていく。
「おい! 援護はいいからとっと逃げろ! そう持ちこたえられんぞ! クライバーンは討ちもらした時の牽制に残って、他は全速で逃げろ!!」
マディックは、援護のために止まっている守護天使小隊に、逃げる事を命じた。
「そんな・・・でも!」
「ええい! そのために俺が先行していたんだ! 遠慮するな!」
「・・・! わかりました! 急ぎますわよ!」
守護天使小隊がわずかに先行したトラックや戦車の列を追いかける。豊作一番号がその間に陣取り、最後の押さえの戦力となる。
この間にも、3機のバトルメックは互いに相手を破壊せんと至近距離からの砲撃を続けた。
辺り一帯が、灼熱地獄のような温度になる。流れ弾やビームが地面に突き刺さり、舞い上がった土埃が漂っている。ブラックハウンドは、過熱によって動きが鈍くなってきた。周囲の温度の上昇が、放熱器のスペック能力の大半を削り取っている。そのために機体温度が上昇し、マイアマーの最適稼動温度を越えてしまっているのだ。戦塵による減衰や大気の屈折によって、レーザーの威力も減少している。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
マディックは、射撃を一旦ストップすると、雄たけびを上げて傷だらけのブラックハウンドを突進させた。両腕を振り上げ、オリオンの頭めがけて振り下ろす。
オリオンの頭部と左胴に、鋼鉄の固まりが激突する。すでに傷ついていた頭部装甲は、それに耐えられずにはじけとんだ。寸前に、ホフ中尉は緊急脱出装置のレバーを引いていたから助かったが・・・一瞬でも遅ければ、ジャンクにされていただろう。
マディックは、ただ一機残ったウォーハンマーに向かって通信を入れた。
「どうする。降伏するかい? それとも、まだやるかい?」
多数のマシンガンと、中口径レーザーで武装した豊作一番号が、すぐ近くまで迫っていた。残りはたったの一機となれば、守護天使小隊の面々も帰ってくるかもしれない。
ルーフェイ軍曹は、がっくりとうな垂れて答えた。
「降伏する。」
かくして、1対4の激戦は幕を閉じたのである。
『捕虜護送任務?』 作:ロックウッド
RR指揮下の偵察分隊は、輸送部隊の殿を勤めていた。
何故ならもしものために敵基地に再度地雷や歩兵用のワイヤートラップなどを仕掛けていたからだ。こう言った対歩兵用の罠ならば工兵のクライバーン准尉よりも偵察隊の方が慣れている。何故なら普段彼らはそれらの罠を掻い潜っている側だからだ。
自然に一般人から見ると随分いやらしい所やいやらしい罠を仕掛けている。放棄されたと思われるレーションにワイヤー式の爆弾、壁に突き刺さったナイフを抜くと其処にも爆弾、地面に張り巡らせたワイヤーはおとりで実は赤外線反応式のやっぱり爆弾etc、etc
もう一つ理由があるとすれば彼らは早過ぎるのだ。
標準的なホヴァーの速度は時速100キロを軽く超えており、被弾した主力部隊との連携は難しい。そのため荷物の運搬に半分を出すとRR曹長達は基地に残ったのだ。
「隊長、随分主力に遅れてしまいましたね。このままの速度ですとおいつくまでもう少しかかります。」
「まあいいさ、それより索敵を怠るな。何所に敵がいるか解ら・・・ん?・・・あの煙は?」
数分後。R・R達はマディック大尉のブラックハウンドと合流した。事情を聞いてみると、一個小隊に単独で勝利し、戦利品のメックをかくしている最中のようである。
持って帰るのは、中破状態にあるウォーハンマーだそうだ。
「すごいですね大尉殿、メック1個小隊と戦って勝利を収めるとは・・・」
どこか、憮然とした態度でR・Rは誉めた。
「でも俺頭部に食らってるんだけど・・・」
たしかに、衝撃であちこち擦り傷や打撲をしているらしい。ちょっと苦しそうだ。
「では敵の捕虜は我々が護送致しますので」(聞いてない)
「いや俺は・・・・」
「では失礼します!」(やっぱり聞いてない)
R・R達は捕虜3人と死体を護送し、そのままマディックを置き去りにした。
「勝っておいてなに言ってやがる」(ボソ)