『後方での出来事』  作:朽木   戻る  トップへ
 

 ヴィイイイン・バチバチバチ
 「良いかぁ、上げるぞ!」
 ガン・ガン・ガン・ガン・ガン
 「オーライ、オーライ、よ〜しストップ!」
 様々な騒音と、それに負けない怒鳴り声が充満する建物・・・ブラッドハウンド中隊の基地整備工場では、現在急ピッチで損傷したメックの修理が行われていた。
 大体が3ヶ月前の戦闘で受けた損害を修復すら出来てない上に、今回の戦闘である。整備小隊にとってはこれから毎日が戦いの日々といっても間違いはないだろう。
 それに前進基地を攻略できたとはいえ、メックの損傷がないはずもない。特に守護天使小隊のメックはクリタ部隊のメック小隊との戦闘でかなりの損傷を受けていた。
 彼女らのメック小隊は、現在部隊が運用できる中では最大の重量であるから、修理の優先度が高くなるのは当たり前であろう、がしかし・・・。

 「メックが中破3、小破3。装備はSRM6にAC/5に放熱器。ついでに駆動装置がいくつかっと・・・結構やられたなぁ。でも捕獲機もあるし、収支は合ってるか? 問題は部品だよなぁ、駆動装置まだ有ったっけな、ちょっと調べてみるか。」
 と独り言を言いつつ工場の端末を操作しているのはアカギ・エンドウ技術少尉である。彼は軍医と並ぶもう一つの本職である整備員として、整備工場に来ていた。

 「姐さん、どうします? やっぱり部品が足りませんよ。」
 傍らで休憩していた恰幅の良い女性に尋ねるエンドウ。
 「やっぱりそうかい、それじゃあ仕方ないねぇ。あんたは若いの連れて、とりあえず全損のスティンガーをばらしちまいな。遠慮しないでアサッシンもばらすんだよ。」
 答えたのは整備小隊長であるシェリル・マーカライト中尉である。
 「でも良いんですか?、隊長からは極力多数のメックを使えるようにって言われたんじゃあ?」
 と疑問を返すエンドウに、シェリルは逆に質問する。
 「良いんだよ、確かに軽いメックの方が部品も少ないし、手間をかけずに直せるけどね、戦力という点じゃあ、重いのに重点を置いた方がいいんだ。特に今回みたいな戦闘じゃね。どうしてか分かるかい? エンドウ。」
 「そりゃ、重いやつの方が強いってのは分かりますけど、数を減らしてもって言うのがちょっと・・・」
 「良いかい?、クリタの前進基地をつぶしたってことは、おそらく今度はそこにうちの部隊が展開する事になるだろう?」
 「はい、あそこは降下船や気圏戦闘機を運用するために、必要な場所と聞いてます。」
 「じゃあ、クリタの連中はどうすると思う?」
 「そりゃあ向こうだって重要な地域って事が分かってるんですから、取り返しに来るんじゃ無いですか? 大体そのために基地を作ったんでしょうからね。」
 「じゃあ防衛で使い勝手の良いメックというのは、どんなメックだい?」
 「そりゃあ、多少足が遅くても射撃能力と耐久力に優れたメックじゃ無いですか?・・・って、そういうことですか。」
 「そういうことだよ、分かったようだね? あんたも一応メック戦士なんだ。常に部隊の現況とそこから判断できる様々な状況を考えてないとダメさ。いくら本職が軍医や整備屋でも、バトルメックに乗る以上は、いざっていう時にはあたしらの指揮官になる可能性もあるんだからね? さあ、判ったんならとっととお行き!」
 話を終わらせたシェリルは隊長室へと向かっていった。一方エンドウは頭を掻きつつ
 「やっぱり姐さんにはかなわないな・・・第1分隊はスティンガーの所へ集合、ばらすぞ!」
 と指示を出し、全損状態のスティンガーの元へと向かっていった。

 しばらく後、シェリルは隊長室で部隊長であるクロフォード・ユウキ中佐と話していた。
 「隊長、スティンガーとアサッシンの分解を行いたいのですが、よろしいでしょうか?」
 「どうした、部品が足りないのか? 彼女らが持ってきたパーツがかなりあったはずだが。」
 「ええ、彼女らの修理を行う分には問題ないのですが、他の機体に必要な部品が足りません。武器・弾薬・装甲については惑星政府から調達することが可能ですが、マイアマーと駆動装置、それにジャイロとエンジン遮蔽用の部品がもうあまり有りません。特に要請のあったライフルマンとウルヴァリーンDの修理を行うとジャイロとエンジン用交換部品については完全に底をつきます。」
 シェリル中尉の報告を聞いて、クロフォード中佐はちょっと考え、答えた。
 「そうか・・・仕方がない。必要ならばヘルダイバーもばらして良いぞ。なお修理の優先は現在稼働状態にある機体の修復を最優先でやってくれ。俺の機体を含めた大修理が必要な機体は後回しでもかまわん。」
 クロフォード中佐の方針決定である。しかしこれに対し、シェリル中尉は疑問を呈した。
 「良いんですか? それに隊長の機体を後回しで問題は無いんですか?」
 「かまわんさ。現状で必要なのはブラディの様な機体よりも、敵の追撃にも使える機体を優先すべきだからな。俺の機体は奴らとの決戦までに直せればそれで良い。」
 クロフォード中佐は言い切った。
 「隊長がそう言うんなら、そうしますが・・・ところでユウ?」
 シェリル中尉はいきなり口調を変えた。
 「何だ、シェリー?」
 対してクロフォード中佐・・・いや、ユウキも昔からの友人に同じく愛称で返す。口調もすっかり変わっている。
 「聞きましたよ、久しぶりにあの娘から連絡があったんですって? いったい何だったんです? 今頃。」
 「ん、いや、個人的なことだ。」
 と言うユウキだが、つきあいの長い彼女にはその表情から何か判る物があったらしく、小さく笑いながら
 「それで?」
 と続きを促した。ユウキは苦笑気味に返す。
 「シェリーには隠せんな、昔から。実はな、俺の子がいるって言ってきた。今年で3歳になるそうだ。」
 「あら・・・まあ。ダメじゃないユウ、リムが聞いたら泣くわよ?」
 驚きながらもからかうシェリル。
 「あいつは未だ知らん。言えるわけがない。大体何で今頃になって言ってきたんだか。しかしマディックの事と言い、こんな話が続くとはな・・・」
 「まあ、しょうがないわね。自分で蒔いた種なんだから、自分でどうにかするのね、ユウ。それじゃあ私は作業に戻るわね。後、またクラウディアから連絡が有ったら、私も元気って言っておいてね。」
 と言って部屋を出ていくシェリル。それを見ながら
 「相変わらずシェリーにはかなわんな。しかし子どもと養育費かぁ・・・・」
 と椅子に座りながらつぶやくユウキであった。