『遺跡探索』  戻る  トップへ

『魔界盆地と密林』   

 3026年9月8日午後8時。カウツ星系第3惑星、カウツV。
 東西を貫く街道にあるコンビニステーションの横で、ブラッドハウンドの偵察小隊が野営をしていた。たき火を中心にテントを張り、周囲にジープやスキマーをぐるりと配置する。これが、もうちょっと背の高い装甲トラックだったりすると、野営地を囲む即席の防壁として役に立つのだが、無い物は仕方ない。
 「曹長、クライバーン准尉から連絡です。野営地への到着は後1時間ほどかかるそうです。食事を残しておいてくれ、とのことです」
 「うむ。来たらすぐあったかい食事を出してやるようにな」
 「了解」
 R・R曹長・・・本当は少尉なのだが部下共々慣れないでいる・・・は、適当に部下に答えると、書類に目を戻した。一日の終わり毎に書く勤務報告書と、特殊迷彩服に関するアンケートだ。
 砂漠・森林用特殊迷彩服。これをマルガレーテ中尉から無償貸与してもらうかわりに提示された条件。使用に関するアンケート。すなわち、実戦試験を行うモルモットの義務。
 このアンケートが、R・Rを悩ませている。勤務報告書を書いている間に、すべての部下達は、書き上げて提出してきた。それらをチェックし、一部を再提出させ、はたと気付いた。
 「俺は、どう書いたらいいんだろう?」
 一通り提出されたアンケートを見た限り、自分はもっともこの迷彩服をうまく使っていたように思う。部下達が提出してきたアンケートには、あそこまでこの迷彩服の性能に頼った戦闘はなかった。せいぜい、全身用防弾服程度の使い方だろう。
 しかし、自分は違う。例えば、敵兵の死体で直撃を避け、腕の一部などを弾がかする程度にしたあの時は? 戦車の装甲が斜めに取り付けられて砲弾をはじく・・・いわゆる被弾傾弛を意識していなかったか? あるいは、ナイフの攻撃に対しての防御。部下達は、この服が防弾服と同じと思ってか、ナイフの攻撃に対しては素早く避けているだけだ。あるいは、通常の防弾服と比べての軽さと動きやすさ。アクロバット的な行動をしたのも、自分一人のようだ。
 「う〜〜〜ん・・・・・・・・」
 これらの事を考えると、悩んでしまう。色を除けば非常に優秀な迷彩服であるだけに、できればもっと改良してもらいたいと思うからだ。
 「・・・・改良? 色を除けば?」
 ふと気付いた。別に、全ての改良をマルガレーテ中尉に任せることはないのではないだろうか? そう、自分達がやってもいいはずだ。
 「・・・・・よし!」
 R・Rは、改良に関しての考えをまとめるために、猛然とアンケートを書き始めた。

 9月6日、午後9時
 ズシン、ズシン、ズシン、ズシン、
 豊作一番号が、ようやっと到着した。
 「あ〜〜あ! ようやっと到着したぜ! R・R曹長、飯はありますか?」
 「ああ、用意させてますよ。」
 いかにもつかれたと言う声で話すクライバーンに、R・Rが答えた。
 鈍足の豊作一番号は、高速をむねとする偵察小隊にはついていけない。だから、どうしてもこうなってしまう。それどころか明日は、スキマー隊だけが先行して、アイアース基地への移動ルートの確保を行う予定だ。発掘などの土木作業用具は、遺跡の場所を特定してからでも間に合う。
 「どっこいせ!」
 豊作一番号が、背負っていた荷物を降ろす。マシンガンを片胴のみに装備した軽装できたかわりに、色々と持って来てくれている。
 クライバーンがメックを下りて、食事を始めた。豊作一番号にはテックが群がり、日常点検を始めている。それを脇に見ながら、R・Rはコンビニステーションへと向かった。目的物は、ペンキである。

 9月8日午後
 “アイアース基地遺跡”が有る所まであと十数キロ。そこまでは順調だった。なにしろナイトストーカーだ。道無き道など慣れているしそこまではスキマーでも何とか通過できた。しかし、あまりに木々が密生してきた。後方から追いついてきたクライバーンに道の整備を頼み、スキマーに留守番を残し、徒歩でジャングル地帯に入る事になった。そして・・・

 9月8日午後3時
 R・R達は、密林の中で休息をとっていた。この前、クリタの基地を探しに踏み込んだ時よりも、少しばかり南になる。僅かな差なのだが、このあたりは緑の息遣いがはるかに濃い。魔界盆地を囲む外輪山が雲を刺激し、周辺に豊富な雨をもたらすためだ。その影響で、魔界盆地の西は雨が少ない。エリュシクトン砂漠がこの真西にあるのもそれに関係しているだろう。
 全体的に乾燥気味のカウツVの中では、この辺りの雨の多さは、かなり好条件といえる。気候だけを見れば、の話だが。

 「なんでここには村がないんです?」
 ブリン伍長が素朴な疑問と言う感じで聞いてきた。
 「そういえば。森がある所なら、どこにでも農村、山村があったのに・・・しかもここは、雨も豊富みたいだし。」
 トレス軍曹も、同じくふとした疑問と言う感じで聞いてきた。
 「魔界盆地とその周辺は、カウツVの住人にとって禁域となっている。かつてのカウツVの首都、シギリアの跡だからだ。」
 「え?」
 R・Rは、苦笑しつつさらに説明した。長くても数年しかいない駐屯惑星の歴史を一介の傭兵に把握しろ、というのは、ちょっと酷だろう。疑問を持つだけ、増しだ。

 「魔界盆地はな、クリタ家によって行われた核攻撃の直撃を受けて誕生したんだ。直径15Kmほどのクレーターを作る核だ。50万人が一瞬で消滅したとされてるよ。この周辺には死者の怨念が漂い、真ん中にはいまだに放射性の高い湖が有るとされてる。だから、誰も近づかない。」
 初めて聞く凄惨な歴史に、皆が息を呑んだ。
 「このクレーター内部ではな、多数のミュータントが生まれて、特殊な生態系が発達していたという調査結果がある。まあ、外輪山によって隔絶されて、滅多に外に出てこないのが幸いというべきだろうな。」
 隊員達が、薄気味悪そうに回りを見回した。ミュータント生物や亡霊が、今にも襲ってきそうに思ったのかもしれない。
 「これだけ巨大なクレーターが出来た場所にある遺跡なんて、何も残っているはずがないのでは・・・?」
 キリーが、なんだかやる気を無くしたと言った声で聞いてきた。
 かつて、シギリアの周囲を取り囲むように、120度の角度で、三つの首都防衛基地があったと言う。その一つ、アイアース遺跡が今回の探索任務の目的地だ。たしかに、あれだけのクレーターが出来たのだ。当然の感想だろう。
 「なんでも、地下施設になら何か残っているかもしれないって見解が出されたんだそうだ。何も残っていないならそれでいい。しかし、何か残っていて、それをクリタの連中に掻っ攫われるのはまずい。そういう事だろう。」
 「なるほど。この辺りにはクリタの基地があるらしいと、最近わかりましたからね。」
 「ああ。アイアース基地は、他の二つと比べて、特に地下構造が充実してたらしい。ここなら、残ってる可能性がある。サルベージした品の一部も報酬として貰えるそうだから、がんばろうや・・・ん!?」
 R・Rは、何か異様な気配を感じて立ち上がった。素早く銃を抜く。部下達もそれに習った。
 
 ウウ〜〜〜グルルルルル・・・
 
 なにか、動物のうなり声のようなものが聞こえる。それも、ひとつやふたつではない。
 ウォン!
 偵察分隊を犬のようなものが出迎えた。
 「なにっ!?」
 パンパン!
 とっさに銃で反撃する。
 死闘が開始され、密林に銃声とほえ声が交錯した。そして・・・
 

『獣達の皇1』作:ロックウッド  戻る  トップへ

 9月8日、午後3時30分
 R・Rはもうやけになって出現した“犬”(と思われる生物)に銃弾を放つ。
 通常弾でも頭を狙えば一撃らしい。
 「これで何匹目・・・?」
 「二十二匹・・・」
 同じように疲れた表情をしている部下が答える。
 他のもの達はもう話す気力も無いらしい。
 異様に進化した犬だった。普通の歩兵部隊ならとうの昔に全滅している。流石はナイトストーカーだった。しかしその彼らももう限界だった。
 「やる気がおきねえ・・・」
 「何でここには角付き犬が多いんだろう・・・?」
 この“犬”達は、まるで復讐に猛るかのごとく襲ってくる。彼らは普通の犬なら、ちょっと銃で脅せば逃げ散るものだと言うことも知らなかった。角のある犬など、存在するはずがないことも知らなかった。おかしな犬だなぁと思う程度だ。様々な品種がいるので、その一つだろう、ぐらいの認識だったのだ。
 だから、動物愛護機関が見れば真っ青になるようなやり方で次から次へと“犬”を葬っていった。
 「ガウウー!」
 右のブッシュから再び犬が姿をあらわした。あせることなくR・Rが愛用の銃剣で首をはねた。
 「はぁ・・・」
 R・Rもため息を吐いた。どうにもやる気が起きない。げんなりするだけだ。と、その時、部下が、震える手で何かを指差した。
 「隊長・・・あれ!?」
 「どうしたアドルファ?」
 部下の指差す方を見るR・R。

 パオーン!!

 独特の長い鼻に平べったく広い耳、見上げるような巨体。そう。がそこにいた。
(「流石にやばいか?」)
 R・Rはそう思いながら命令を下す
 「撃ちまくれ!!」

 9月8日、午後4時30分

 「隊長? どうしたんすか?」
 スキマーの置き場所で留守番していた兵がR・R達の姿を見て絶句する。
 返り血を大量に浴び何処か空ろな目をしている。
 「確か熊スーツは豊作一番号に積んであったな?」
 「ええ・・・」
 「いったん帰る。武器もいる。」
 何処か凄惨な笑みを浮かべ始めた仲間を留守番兵は恐怖の目で見ていた。
 

『獣達の皇2』 作:ロックウッド

 9月8日、午後4時45分
 「あれ?」
 豊作一番号で木を引きぬき、地面をならし、道を作る作業をしていたクライバーン准尉はR・Rを見つけて疑問の声を上げた。随分早いお帰りだ。
 「准尉、熊スーツを出します。」
 「ああ、はいはい・・・え!?」
 あのピンクの迷彩服を(リバーシブルで熊さん着ぐるみにもなる優れもの)誰よりも嫌っていたR・Rが自ら熊スーツを着る? そんなにやばいものでもいたんだろうか? クライバーンは心配になって聞いてみた。
 「曹長? 俺が出ようか? それとも、援軍呼んだほうが良いんじゃない?」
 「いいえ・・・バトルメックなど来られたら逆に迷惑ですから。あれは・・・あれは俺達が倒す!!」
 何か決心をした様子のR・R達である。クライバーン准尉はそれを見て、何かしら間違ったものを感じた。
 R・Rはそんなクライバーンを気にする事も無く銃を点検しだした。
 念の為持ってきていた、やたらとかさばるが威力の高い銃である。

H&K社製 G30突撃銃、
 これは地球連盟が植民惑星護衛部隊に配給した由緒正しき銃である。
20mm径の擲弾コンパートメントと4.56mm無薬莢ライフル弾の運動エネルギーコンパートメントの融合と言う当時流行りのスタイルの銃である。独逸国製らしい、高い工作精度による作動の確実性と命中精度の高さは折り紙付きである。運動エネルギーコンパートメントは60連マガジンを二本(銃身の下に並列に配置)装備し合計120発と言う高い火力を持っている。ニ液混合式の発射薬は高効率のマガジン式の物を銃杷部分に装填する。それゆえ外見上は銃身の下と銃杷から突き出ている物とマガジンが複数システム存在するように見える。
 擲弾コンパートメントはコンピュータ制御された20mm擲弾を敵陣へと正確に放り込む。今RR達はその擲弾を全て通常のHE弾ではなく対装甲用のHEAT弾に変更している。弾数は極限まで合理化したマガジンにより十二発。
 これだけ強力な火力を誇りながらG30は僅か4.25kgという自重を誇っていた。

 次にR・R達は熊スーツを取り出し着込み出した。
それを見てクライバーンが驚きの表情を浮かべる。熊スーツにはそれまでの外見が無かった。ピンク色の迷彩は通常色の迷彩パターンに塗装され、さらにその上に適当な色のボロ布などが縫い込まれている。
「曹長、それどうしたんです?」
「ああ、まだ言っていなかったかな? 熊スーツは素材や動きよさと言う面は評価できる物だったから改造したんですよ。」
「改造って・・・それもう別物じゃあ・・・」
 顔の部分がすでに切り取られた(その分胸が厚くなっている)熊スーツを着こみ終わったR・R達を見る。
 「じゃ、行って来ます。」
 R・R達は言うが早いかスキマーに乗りこみ森の奥へと消えていった。
 そのR・R達を見てクライバーンが熊スーツ改の意味を納得する。
 「あれはギリアムスーツ(狙撃手が着込む迷彩服)の代わりだったのか。ま防弾性は抜群だな。」
 だが、R・R達がグレネードマシンガンのような重火器まで持っていったのを見て、ふと不安にかられた。
 さっきのR・R達は何処かおかしい感じがしなかったか?

 9月8日、午後6時 
 R・R達が、今夜の夕食として引きずってきた象を見て、クライバーンはひっくり返った。
 

 『探索開始』

 9月9日午前10時00分

 「ようやっとたどり着いたな・・・」
 「アイアース基地の遺跡に来るだけで、ここまで苦労するとは思わなかったぜ・・・」
 「おい、そっち持ってくれ。」
 「ああ。」
 なんだか、かなり疲れた顔の偵察小隊の面々が、ようやっとアイアース基地遺跡に到着した。彼らは、休むまもなく、密林の中でベースキャンプ作りに励みだした。
 豊作一番号が木をひきぬいて空き地を作る。チェーンソーを持った数人の男達が枝を払い、丸太にする。テントだけでなく、丸太小屋も作る。周囲に簡単な柵を作り、空掘りを掘って、その土で盛り土をして土塁を作り、逆茂木を植える。しばらくこの周りで探索をすることになるし、もし基地遺跡からの発掘品が予想以上に多かったら、運び出す作業をするための拠点にもなる。
 ただの野営と違い、今日の作業は本格的だった。もっとも、豊作一番号が大ざっぱな所はみんなやる。あまりに苛酷な労働というわけではない。単純計算で、60kgの男1000人分の作業能力を持っているのだから。
 

 9月9日午後2時00分
 わずか数時間で、小さな開拓村とでも言うようなベースキャンプが形になりだした。
 その一方で、テック達も精力的に動きまわっていた。それぞれ数名の護衛を引き連れた彼らは、厚く積もった落ち葉を地面から取り除け、センサーを地面に設置し、様々な機械を使って地面の下の様子を探っている。目的は、基地の入り口探しだ。
 軍事基地というのは、通常かなり広い敷地を持つ。建物や地下施設がある場所は敷地に比べれば少ない。滑走路や演習場、危険物の貯蔵庫から一定範囲にもうける必要のある緩衝エリアなどが大勢を占める。かつての記録がろくに残っていない(基地の情報は機密事項だ!)ために、大体この辺という見当をつけてきただけなのだ。あとは手探りの探索だ。

 「爆薬を使って人工地震を三度、続けて行います。これの反響データを、9個所に設置したセンサーで収拾、パソコンで解析します。地面の下の構造が、立体的に分かるようになります。地層まで明確に見えますよ。」
 ボッ! ボッ! ボッ! 
 「・・・・・・解析結果、でます。」
 「・・・・・はずれ、みたいですね」
 「500mほど南にいってみましょう。」
 「ああ。」

 「これが、人工衛星から集中探査した赤外線データです。遺跡周辺の地熱が明らかに高いということは、核融合炉がまだ生きている可能性が高いです。そして、この辺りに排熱口があるはずなんですが・・・」
 「だめだ。見つからない。」
 「あったか?」
 「いや・・・」
 「これは?」
 「・・・メタンガスが発生してる沼・・・水底に積もった落ち葉が発酵した時に出る熱だったのか・・・」
 「では、次の候補にいきましょう。」

 「磁気反応が段段強くなってきましたね・・・この辺りを捜索して下さい。」
 「落ち葉が邪魔だなあ・・・」
 「何もない・・・」
 「おい、これは?」
 「メックの残骸か・・・朽ちきってるな・・・」
 「はずれ、ですね・・・」
 「だが、こういう物があるということは、まるっきりの見当はずれでもないか。」
 「次にいきましょう」
 「ああ」

 9月9日午後4時00分
 ようやっと地下への入り口を発掘した面々は、いよいよ基地内部の探索を始めた。
 さすがは星間連盟の遺跡である。まだまだ生きている部分が各所にあった。当然ながら、基地防衛用のトラップも生き残っている。先頭に立つのは偵察小隊の面々とテック達だ。放射能の有無を確かめる。発見されたコンピュータをハッキングして調べる。崩落しそうな天井や床を切り出した丸太や板で補強し、堆積した土砂を取り除く。他に入り口として使えそうな場所を探し、非常口にする。警備ロボットを絶妙の技で無傷で捕獲し、動力を切って戦利品に加える。通信機のターミナルを各所に設置して奥と通信できるようにする。
 そんな中、一人のテックが上ずった声でR・Rに報告してきた。

9月9日午後6時30分

 「R・R少尉・・・なんか、とんでもない事が・・・」
 「どうした?」
 「この基地の地下に、大きなバトルメックの倉庫が生き残っている可能性があります!」
 「なんだって!?」
 「知らんぞ!」
 「ただの遺跡探索と聞いたぞ!」
 「メック倉庫なんて、惑星政府は言ってない!」
 「どうゆう事だ!?」
 口々に驚愕の声を上げる部下達を押さえて、R・Rは聞き返した。
 「・・・本当か?」
 「間違いありません。」
 「では・・・メックが無事に生き残っている可能性は!?」
 「それは・・・あれだけの核攻撃を受けた所のすぐ側に有ったんです。地下施設が生き残ってるだけで驚異的です。それに、200年もたってます。保存状態が悪ければ使い物になりません。部品取りくらいにはなるでしょうが・・・あるいは、シギリアが核攻撃を受けたその時に、地上に出て演習を行っていたりしたら、全滅している可能性もあります。ただ、その場合でも交換部品が残ってる可能性は有ります。詳しいことは、電磁障害で破壊されてるファイルが多すぎて・・・」
 「・・・おい。気合いを入れろ! ないならないでいい。しかし、もし、バトルメックがあるのに見つけられずに帰って、それをクリタの糞野郎どもに横取りされでもしてみろ。おれたちは、圧倒的な敵に踏み潰されることになる。それと、この情報は第一級の機密だ。通信も暗号で行う。万が一ばれたりしたら、襲われること請け合いだ!」
 全員の顔が、一気に引き締まった。
 

9月10日
 アイギナ宇宙港に一隻のユニオン級降下船が降り立った。民間のドロップシップである。その船は、多数の交易品とともに、一個小隊のバトルメックと、多数の軍人を輸送してきた。そして、バトルメックと軍人達は、そのまま惑星首都のアイギナへと向かった。
 「ほう・・・そして、そのまま惑星政府の直接管理下に入って、こちらには挨拶も無しか・・・」
 クロフォード中佐は、偵察小隊員の一人からの報告を受けて面白そうな顔をした。
 「この間戦利品を渡さなかったから、というのはありえない。その前までは、きっちり渡していたんだから、それで増援を呼んだとしたら早すぎる。となると・・・元々はこちらの指揮下に入れるつもりだった増援を、癪に障るからと、我が部隊への牽制のためにという事で子飼いにするつもり・・・かな? あるいは・・・遺跡がらみか・・・」
 「ふむ。ありえますな。」
 メイスン少佐が、相づちを打つ。
 「うむ。だが、まだまだ情報が足りない。結論を出すのは、もう少し、様子を探ってからだな。」
 クロフォード中佐は、そう言って、この問題を少しばかり先に延ばす事にした。

 一方その頃、カウツV政府内では、今日到着した増援部隊の責任者と、執政官が話し合って・・・
 「話が違うよ! 君! バトルメックがたった一個小隊とはどういう事だね!? これでは、アイアース遺跡を守ることが出来ん! 契約違反だ!」
 「しかしですな! 我が連邦も、戦力が余ってるのではないのです! 倉庫が本当にあるかどうかも分からん状況で大規模な増援など送れるはずがないんですよ!」
 「いいか、大規模な増援をよこす代りにバトルメックの一部をそちらに渡すことになっていたんだ! 契約違反もはなはだしい! そのうえ、派遣されてきたメックウォリアーも士官学校を卒業したての新兵ばかりじゃないか!」
 「有能な失機者も多数含まれている! 不確実な情報で、これ以上腕の立つメックウォリアーを集めるなど無理だ!」
 「30人に満たないで多数だと!?」
 「・・・・・・!!」
 「・・・・!!!」
 「・・・!」
 「・・・・・・・・・・!!」
 二人の話し合い・・・というか、怒鳴りあい・・・は果てしなく続いた。この決着がつくのは、しばらく後にR・R少尉の書いた報告書が届けられてからになる。

戻る  トップへ