『牽制作戦』    戻る  トップへ

 

『捕虜返還』 戻る  トップへ

 9月15日正午。ヘスティアの町から南に50キロの開けた場所で、捕虜の返還が行われていた。双方、バトルメックを率いている。
 
 片や、マローダーを操縦している白田少佐率いる4機。
 片や、マローダー改の補助席に乗ったクロフォード中佐が率いる4機が、それぞれ来ている。
 中心から350mほど離れた所まで接近して、双方、相手に渡すもののリストを読み上げる。その後に、今自分達がいた所に交換するものを置く。
 90度回転した所まで移動し、テックが交換物の確認をする。

 「大破したスティンガー2、アーバンメック、ドラゴン、ジェンナー。ホフ中尉、ルーフェイ軍曹、ナン、テックや歩兵の生き残りは、いずれもきちんと手当てを受けております。ゲンハムの遺体はきちんと保存処理が行われており、仮葬儀も行われている模様。これで、トットリ基地と枯れ谷で回収した死体を含め、全ての人員の確認が出来ました。発信機、爆発物などは特に見つかりません。」
 「うむ。」

 「身の代金、コムスタービルにて確認。偽札の反応なし。金額も交渉通りです。発信機などは特に有りません。」
 「よし。」

 確認後、双方はバトルメックを移動し、交換品を受け取った。
 「クロフォード中佐じゃったな。捕虜を、速やかに返還してくれたことに礼を言う。」

 「謹んでお受けします。わが部隊は、紳士的でアレス条約を守った戦いを望んでいる。出来うれば、今後そちらもアレス条約を守ってくださるとありがたい。無理にとは言いませんが。」
 「承知した。出来うる限り、お答えしまする。それと・・・ホフォベクウィッチ達じゃがな・・・罰としてトットリ基地に送ったんじゃ。わしも、あの虐殺は不本意じゃった。それは覚えておいてくれんかのう。」
 「了解しました。では、本日24時00分までは双方攻撃しない。尾行もしない。それでよろしいですね?」
 「うむ。惑星軍の動きまで押さえてくれたこと、感謝する。では、これで。」
 「はい。」

 無事に、大金が手に入った事に、クロフォード中佐はほっとした。それ以上に、アレス条約にのっとった交渉をクリタの人間に行わせる事が出来たことにほっとした。お金よりは、こういった・・・いざと言う時に自分達の安全をはかれる前例を作る事こそが主目的だったのだ。
 こういった交渉は、いつも緊張する。クロフォード中佐はつぶやいた。
 「まあ、今回は白田少佐が多少なりともアレス条約を守る人らしかったからな・・・」
 それに対し、リリム大尉が答えた。
 「でも、あれだけひどいことをしたホフ中尉達を辺境の急造基地に左遷するだけで済ますなんて・・・所詮はクリタの人間ね・・・食糧とかの補給物資も凄かったみたいだし、左遷なんて言っても高が知れてる罰よ。」
 「まあ、それは仕方ないだろう。処世術だよ。クリタでは、むしろホフ中尉みたいな考えかたが主流だ。そんなのを全部処刑していったら、たちまち孤立してしまう。あれくらいが限界なのかもしれない。」
 そんな事を話しながら、彼らはシャネルクイーンの待つ急造滑走路へと向かった。
 

 そこから、かなり北の方角に移動した場所に、タウロス山が有る。比較的小きな死火山で、周辺には林村が点在し、硫黄の鉱山町があるだけのひなびた場所だ。いま、そのふもとに密かに到着した部隊がいた。クリタのバトルメック部隊である。 
 「・・・無事、捕虜の返還が終わったようです。」
 「そうか・・・それはそれとして、仮設基地を作るぞ。これからしばらく拠点にするんだから、しっかりとな。」
 大きな洞窟の中に、バトルメックで背負ってきた大荷物を次々に搬入していく。天井の補強工事を行い、メックの整備作業台を設置する。
 外にプレハブの宿舎やテントを作り、カムフラージュネットを張り巡らせる。奇麗な泉を探して水を確保する。
 仮設基地の建設が終わると、彼らはすぐに休息を取った。
 
 

 『牽制作戦開始』 戻る  トップへ

 9月16日早朝。
 クロフォード中佐は、突然の電話にたたき起こされた。惑星政府からのホットラインだ。
 「どいうしました? 突然。」
 「クロフォード君! 今すぐ、タウロスの町に部隊を送ってくれ!」
 「どういう事です?」
 「タウロスの町から20キロ北にある村がメック小隊に占拠された!」
 「・・・なんだってそんな所を?」
 「知るか! とにかく、これ以上クリタの奴等をのさばらせるわけにはいかん! タウロスを奪われる前に行ってくれ!」
 「ま、そうですね。で、いかほど送りましょう? 料金の方は、タウロスの町を守るだけなら救援任務、追い払うとなると襲撃任務になりますが。」
 「ええい! また金の話か!」
 「そりゃあもう、バトルメックの維持には大金が必要ですから。」
 「とりあえず救援だ! 状況を見て襲撃にするかも知れん!」
 「了解しました。」
 ガチャン
 「さて・・・どうするかな? アイアース基地に送った守護天使小隊は動かすわけにいかん。まだあそこのメックは再稼動のための整備中だ。地形は・・・山と森が多いな。高機動の部隊でないと苦しいか。マディックとフェンサー、リョウとバーニィだな。」
 クロフォード中佐は、素早くこの4人とシャネルクイーンの艦長、リン・ジョーダン大尉に連絡を取った。幸いにも、タウロスの町の近くには、手ごろな平地があったのだ。畑になっていないので、充分滑走路がわりになる。マッハで飛べばすぐつくだろう。

 救援部隊を送り出した後、クロフォード中佐は、メックハンガーを見回してつぶやいた。
 「しかし、まいったな。残った戦力は、メイスンのグリフィン、クラウディアのシルバーホーク、リリムのマローダー、それにライフルマンか・・・まあ、戦車や気圏戦闘機も使えるが・・・まずいなあ・・・戦力をもうちょっと使えるようにしないと・・・しかし、今うちの部隊で一般兵以上のメック戦士なんて全員バトルメックに乗せてるし・・・」
 トットリ基地から得た戦利品によって、今、バトルメックは急速に修理が進んでいる。しかし、それに乗るメックウォリアーが足りない。いるのは、年端も行かない子供か、一旦メックウォリアーとしての適性無しと判断された年を食った奴等。あとは、バトルメックを下りざるを得ないほどの障害を持ってしまった者達と年よりだ。
 10月1日に到着予定のオヴィンニクは、多数の失機者を募集してきた。それらの新入隊員達の編制も、すでに考えてある。しかし、それでもまだ心もとないし、問題なのは今メックウォリアーが足りなくて、基地の防衛に不安が有ることだ。半月後にメックウォリアーが来ても、すでに基地が落とされて全滅していたのでは意味がない。
 「こりゃ、アイアースで採用されなかった失機者の募集、本気で考えないとな。だが、他にも方法ないかなあ。 !! そうだ、もう一人いたじゃないか! よし!」
 何か思いついたクロフォード中佐は、とある人物を司令官室に呼び出す事にした。
 

 さて、そのころ、タウロスの町から程近いとある村では・・・
 「おらおら! 守備部隊がいるならとっとと出てこい! でなかったら即座に占領するぞ!」

 上山の操るUM−R6Oアーバンメックと、皆坂一郎の操るJVN−10ジャベリンとが、村の入り口付近の道で大見得をきっていた。

 「そないなこといってものう・・・」
 「おらたつの村にゃ、何もないでよう。」
 「んだがら役人来た時に税金払うていっておけばいがったんだべ。」
 「ほうすっど、隣村みたいにジープ貸してもらだんだなあ・・・」
 村の主立った者達が、額を突き合わせて話し合っていた。この村は、カウツV政府の統治下には入っていない。カウツV政府は、けして無理強いはしないのだ。ただ、税金を払えばトラックが貸与されたり、無線機や電線を引いてくれたりするから、町に近い村は大抵素直に統治下に入る。町から遠いような村には、そもそも統治の手を伸ばそうともしない。そんな辺境の村など統治に組み込んでも、ろくな税金を取れるわけでもなく、採算が取れないからだ。

 しかしこの村は、町に近いながらも統治下に入っていなかった。単なる気まぐれに近い理由だったのだが・・・おかげで、武装ジープの一つもない、惑星軍の出張所(田舎の交番と村の自警団の中間みたいな組織)もない。無線機がないから助けも呼べないという、ものすごく困った状況にあった。
 当然のことながら、10分後に村は占領されていた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「すでに占領された村が、6つですか!?」
 タウロスの町に到着したマディック達が聞いた報告は、なんとも訳の分からないものだった。
 「それで、なんでタウロスの町が無事なんだ?」
 「確かに・・・この町には軽戦車が2台配備されてるし、武装ジープも何台かある。しかし、1個小隊のバトルメックなら、簡単に蹴散らせる。」
 「この町を一気に押さえてしまえば、周りの村なんてそのまま支配下におけるはずなんだが・・・」

 「まあいい。とにかく、自警団が素直に降伏して戦力の残っていそうな村から助けにいこう。それらの戦力を率いて、クリタのメックどもを蹴散らす。いいな?」
 マディック大尉の決定に、一同はうなずくと進撃を開始した。

 「ええい! なんて狭い道だ! これじゃあ森の中をいった方がまだ増しだ!」
 進撃は、遅々として進まなかった。村に至る道が、あまりに狭かったからだ。木材を運ぶトレーラーが1台、ようやっと通れるくらいの幅しかない。所々に、対向車が来た時にすれ違えるよう、道幅が広くなっている所があるし、カーブの所は大分広い。しかし、所詮は車用の道だ。バトルメックが高速移動するには狭すぎる。そのため、森の中を歩くしかなかった。ジャンプで移動すると言う手も有るが、あまりにジャンプに頼りすぎるとバトルメックを痛める。できるだけ普通に歩いた方がいい。そして30分後。
 マディック達バトルメックの到着を、伏し拝むようにして村人達が出迎えた。しかし、クリタの連中は影も形も見えない。
 「とっくの昔にクリタの部隊は退却したって!?」
 本来なら、村を一つ開放したと喜ぶべきなのだが、4人とも納得いかない様子だ。
 「何考えてんだ?」
 「金を払って食料を調達している。しかも、コムスタービルだ。」
 「ジープや銃は没収している。武器が欲しかったのかな?」
 「これだけではなんともいえんな・・・」
 「・・・・しょうがない。次いくぞ。」
 「・・・・了解」

 「大尉! ホバークラフトがまだ残っています! 歩兵を乗り込ませて、撤退準備をしている模様!」
 「よし、ようやっと見つけた獲物だ! 絶対にしとめて・・・」
 ボム!
 「うわあ! 地雷だ!」
 「なに!? おい、テック達を呼べ! 地雷を探させるんだ!」
 「先行しすぎました! すぐには無理です!」
 「畜生!」

 こんな小競り合いが、丸2日の間続くことになった。
 
 
 

『クライバーンの求婚』 戻る  トップへ

9月17日
 村を開放しても、すぐに別の村が占拠される。部隊を分けようとも思ったが、2機ずつに別れた所を敵が全戦力で攻撃してきたら手痛いダメージを受ける可能性が有る。おそらく敵の狙いは、それなのだろう。
 その夜、タウロスの町に戻ったマディックは、パエトン基地のクロフォード中佐に相談した。
 「中佐! 今の戦力では、確実に追い払う事は出来ません! 増援を!」
 「ん〜〜〜それなんだがな。今日、フェニックスホークの修理が終わったんだ。」
 「は? それを送ってくれると言うことですか? しかし、モートン家にはもう、メックウォリアーはいないはずでは?」
 「うむ。だからクライバーンをレナ・モートンと結婚させようと思う。」
 「ふむ・・・クライバーンの操縦の腕は確かです。射撃の腕は並程度ですが・・・今はそれで十分ですね。」
 「うむ。部隊みんなで、求婚を見守ってやろうと思う。」
 「ほう・・・そういえば、最近、クライバーンが求婚していたと聞きましたが・・・中佐が仲人をするのではなくて、本人に申し込ませるのですか・・・」
 「うむ。実は、今がちょうどその時なんだ。そっちにもまわしてやろう。」
 「え”!?」
 完全に面白がっている様子のクロフォード中佐のとんでもない発言に、マディックは絶句した。画面が切り替わる。基地内の緑地を、増光望遠カメラと集音マイクで捉えたとおぼしきその画面には・・・
 

 鍛え上げた巨体と日に焼けた浅黒い体をもつミッキー・クライバーン准尉は、窮屈そうにタキシードを着ていた。似合わないことこの上ない。借り物なのかサイズが合っていないのが主原因のようだ。手には、大きな花束を抱えている。彼は、部隊長のクロフォード中佐の命によってここにいる。今日こそレナ・モートン(子持ちの後家さんである)との過ちの責任を取るのだ。今日こそは、結婚の承諾を貰うのだ!
 クライバーンは、グモモ〜〜〜ッと盛り上がった。

 ・・・・・・・・普通、服の上から胸を触ってしまったくらいで責任とって結婚するような奴、いないと思うんだが・・・彼女いない暦30年超えてる彼にとっては、求婚するのが当然なのだろう。多分。

 「むむ! レナが来たぞ」
 「いよいよだな」
 ・・・クライバーンの立っている姿が良く見えるようなそこかしこの茂みに、暇な隊員達が隠れていた。目的はもちろん、クライバーンの求婚と言う面白いイベントの見物である。ビデオをまわしているものもいる。要するに、集団デバガメだ。しかし、クライバーンは、緊張のためかまったく気付かない。普段の彼なら、一発で気付きそうなんだが・・・

 クライバーンは、レナ・モートンの前に片膝をつき、丸暗記してきたと一発でわかる臭い台詞を棒読みしだした。誰かの入れ知恵だろうか?
 「おい、良く聞こえない! イヤホン片方まわせ!」
 「ほらよ!」
 「サンキュ!」
 集音マイク片手に肩を震わせて笑いを堪えているデバガメ隊員Aに、デバガメ隊員Bはイヤホンを要求した。クライバーンの台詞が良く聞こえるようになる。
 「(前略)おお麗しの乙女よ、貴方の声は小鳥のさえずり貴方の髪は白銀の滝、(中略)白魚のごとき白い手よ、たえなる星の輝き持つその瞳よ、(中略)ああ、貴方無くしてはわが日は昇らずわが月は夜を照らさぬ。貴方無くしては我が人生は闇のごとし。おお、いとしき方よ、わが愛を受け入れたまえ(以下延々と続く)」
 デバガメ隊員達の半分が、この臭すぎる台詞に、悶絶死寸前だった。しかしさすがはデバガメ隊員達と言うべきか、必死に笑いを堪えて、この見世物を邪魔するのだけは防いでいる。

 一方で、必至こいて邪魔しようとしている人、若干一名。レナ・モートンの娘にして、このプロポーズが成功すればクライバーンの娘にもなるキルシェ・モートン(12歳)である。彼女は、ひいおじいちゃんの部屋に足止めされていた。
 「私はあんなイヤらしくてむさい馬の骨なんて絶対に認めないんだから! 通してよ! 邪魔してやるんだから!!」

 「キルシェ。我が一族には、現役のメックウォリアーがいなくなってしまったんじゃ。クライバーンは真面目で優秀ないい男じゃ。父親としてみとめ、立てなさい。」
 「いやよ! 父親なんて、絶対に認めないんだからああ!」

 「大丈夫か? これ?」
 タウロスの町では、マディックが悶絶していた。
 「・・・なんかこの援軍、あてに出来なさそうだなあ・・・」

 さていっぽう当事者達のレナ・モートンとミッキー・クライバーンだが・・・ 
 「・・・・・・・・しょうがないわね・・・ま、そのひたむきさに免じて結婚してあげるわ。」
 いかに臭いとはいえ、賛辞の言葉を受け続けて気分が良くなったのだろう。満更でもない顔で、レナは承諾した。

 「おお! ありがとうございます! これからも?」「よおおし! めでたい!」「おめでとう!」 「やったな!」「いや、凄い受けたぞ、あのプロポーズ!」

 結婚の承諾を貰って、お礼を言おうとしたクライバーンの言葉は、突如として沸いて出た、自分達を祝福する者達の歓声にかき消された。
 「なななななあ!!!」
 「ど〜〜言うこと!? これ!?」
 とうぜんながら、当の本人達は、うろたえまくって問いただした。
 「そりゃもちろん、ふたりが心配でみまもっとたんじゃ。」
 「いや、めでたい! これで一族にメックウォリアーができた!」
 「そりゃ! このまま披露宴に突入じゃ!」
 モートン家のご老体ズが二人を取り囲み、引っ張っていった。気が変わる前に手続きを済ますためである。クライバーンとレナは強引に婚姻届にサインをすることになり、そのまま済し崩しに結婚式に望むはめになってしまった。

密かに作ってため込んでいた秘蔵の焼酎やブランデーがなぜか出回っていることにクライバーンが驚いたり、いきなり着せられたウェディングドレスのサイズが合わなくてレナがぶーたれたりしたが、結婚式は無事に終わり、参加者全員が二人を祝福した。・・・酒がのめれば後はどうでもいいと言うような輩も多分に混じっていたりしたが。
 この結婚を認めなかったのは、部隊内にただ一人だけであったそうな。

 (ついさっき姓が増えた)キルシェ・モートン・クライバーン「私は認めないんだからああ!!」
 

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