『メック搬出』   戻る  トップへ

『加奈子小隊の赴任』   戻る  

 9月18日。カウツV政府は、大騒ぎとなった。貿易目的と申請されていた降下船との通信が衛星軌道で突然途絶えたのだ。レーダーによればおそらく砂漠地帯におちたと思われる。監視衛星は全滅していたため、残骸の確認すら出来ない。とんでもない大事故だ、と思われた。

 だが・・・分析が進むにつれ、衝撃の事実がわかり出した。
・・・最後に確認出来た軌道変更は、どう考えても制御不能で墜落している降下船の噴射ではなかったのだ。さらに、人為的なジャミングも行われており、降下船の墜落地点を特定できない。いや・・・墜落、とは違うだろう。分析されたデータは、意図的に降下地点を隠蔽するための機動変更と思われるのだ。となれば、答えは一つである。

 「・・・つまり、なんだね? クリタの増援という事かね?」
 「ま〜〜、そうでしょうねえ・・・」
 あいかわらずどこかひょうひょうとした態度をとるクロフォード中佐に、執政官は苦虫をかみつぶしたような顔で問いかけた。
 「今は、大事な時期だ。アイアース基地のメックで再稼動にこぎつけたものはまだ少ない。護衛戦力は4個小隊のみだ。これでは、増援まで来たクリタの奴等にやられてしまうのではないかね?」
 「そうでしょうなあ・・・しかし、他にまわせる戦力もないですし・・・まあ、クリタ側とて、こちらの戦力を正確に把握してはいないはずです。そう簡単に攻めてはきませんよ。それとも、タウロスにいる小隊をアイアースにまわしますか? 移動に多少の時間がかかりますが。」
 「いやそれはまずい。クリタにおめおめと町を一つくれてやるようなものだ。何とかできんかね?」
 「大丈夫ですよ。地下施設にこもれば、数日は耐えられます。その時には、大量の民生メックの再稼動が終わっています。それに、最優先で再稼動したのは、遺失メックです。戦力としては、申し分ないですよ。だいいち、クリタの降下船に突破されるのなんて、毎月のようにあった事じゃないですか。今回も補給品を届けに来ただけかもしれませんし。」
 「むむ・・・それもそうか・・・」
 「ま、とりあえず、なるべく早くタウロス山方面のけりをつける方向でやってみます。いいですか?」
 「しょうがない。頼む。」
 「了解しました。」
ガチャン
 「まいったな・・・連邦から派遣された小隊と守護天使小隊、遺失メック2個小隊。しかし、遺失メックは機種転換訓練もしていない。民生メックだって新兵で機種転換訓練前となったらまったく役に立たん。さっきはああ言ったが、はっきりいって心もとないことこの上ないぞ。となると、どこからか増援を絞り出すしかないが・・・やはり、タウロス方面を手早く終わらせるしかないか。それと、タウロスの周辺警戒にも少し人をやった方がいいな。」

 クロフォード中佐は、残る偵察小隊員のほとんどを、タウロス山方面とアイアースの2個所にわけて送る事にした。
 

 その頃・・・クリタの侵攻部隊が本拠地としている山深い場所には、1隻のユニオン級降下船が到着していた。
 
 降下船から、数機のバトルメックと、多数のメックウォリアーが下りてきた。彼らは、降下直後の状態であるにもかかわらず、整然と並び、隊伍を整えた。

 隊長徽をつけたバトルマスターが、先頭に立って出迎えのバトルメックと兵士達の方に歩み寄る。バトルマスターが操縦席のハッチを開けた。メックウォリアーが立ち上がると、敬礼をしつつ到着の言葉を述べる。到着したばかりのメックウォリアー達も一拍遅れて敬礼した。
 「白田少佐、増援の加奈子小隊、ならびに補充兵489名、到着しました。着任確認を願います。」
 マローダーに乗った白田少佐が歩み出ると、歓迎の言葉を返した。
 「カウツV侵攻作戦総司令官、十兵衛・白田少佐じゃ。着任を歓迎する。これからの活躍に期待する。」
 その言葉と同時に、出迎えに出ていた歩兵達とバトルメックが答礼した。
 こうして歓迎の儀式は終わった。

 侵攻部隊が基地代わりに使っているユニオン級降下船。その周囲には、巧妙にカモフラージュされた丸太小屋やテントが立ち並び、人が忙しく行き交っている。新しく赴任してきたメックウォリアー達は、それらの小屋に落ち着いた。一方で、加奈子大尉とその副官はユニオン級降下船の中にある白田少佐の執務室に呼び出された。

 「やれやれ、ごく僅かの失機者を除けば、実践経験のない新兵が大半を占めるか・・・まあ、何とかするより仕方ないのお・・・」
 白田少佐は、新規着任者の大まかな評価を記された書類をめくりながらつぶやくと、加奈子大尉に向き直った。
 「加奈子君、早速だが、君たちの小隊に一仕事頼みたい。牽制任務じゃ。惑星政府軍と傭兵共の目を、遠いところに引き付けておいて欲しい。」
 「来て早々に、ですか?」
 加奈子大尉は、暗に一日の猶予もないほどせっぱ詰まっているのかと問うた。
 「まあ、そういわんでくれ。今は、大事な時期じゃ。なんとか、奴等の目をそらしておかないといかん。今、一番必要なのは時間なんじゃ。」

 カウツVのかつての首都は、2804年7月、核攻撃を受けて消滅した。衝撃の余波で出来たクレーターに程近い場所に3つの遺跡がある。かつての首都防衛の3つの要だ。その一つが、ローストマン基地の跡である。
 そこには、今、クリタの探索部隊が蠢いていた。カウツV政府内に飼っている内通者から、この遺跡にまだ生きているバトルメックの倉庫があるという情報を得たからである。十兵衛・白田小佐は、万難を排して遺跡の探索を命じたのである。
 しかし、探索は難航していた。遺跡の場所を探すだけで、かなりの時間を浪費した。地上施設のほとんどは核攻撃の余波で破壊されて目印らしき物はなく、クレーターに刺激されて降る豊富な雨が周囲を密林にして、効果的なカモフラージュとなっていたのだ。
 遺跡の発見後も困難は続いた。崩れかけた天井や壁からは土砂が頻繁に落下して危険極まりなく、床も腐食して落とし穴状態。かと思えば、完全に生きている部分もあって、そこには侵入者撃退用のトラップが未だに稼働中だった。
 白田少佐は、極力被害を出さないよう、慎重に探索を行わせていた。

 「そういうわけでな・・・どうしても、もうしばらくの間、ローストマン遺跡に目をつけられるわけにはいかん。そうそう・・・何人か、こちらからも人を出す。ホフォベクウィッチ中尉とその部下達じゃ。ま、メックは修理中じゃがな。むろん、選考しておる部隊を指揮下においてかまわん。」
 「ホフォベクウィッチ中尉?」
 加奈子は、問い返した。少し考え込む顔で記憶を引き出す。
 「たしか、それなりに腕の立つ小隊だったはず・・・バトルメックもいいものを持っていたはずですね。それなのに、私が使っても良く、メックはない?」
 「失態を重ねたせいじゃよ。住民の虐殺、基地の陥落、2度にわたる敗北・・・しかも、銃殺されるはずの所を連邦の傭兵どもに情けをかけられておめおめと戻ってきた。お前さんの下につけるのは奴等に対する罰をかねとる。どう使おうとかまわん。詳しいことはこの書類にまとめておる。それと、牽制任務の詳細に関してはこっちにまとめておる。たのむぞ。」
 「了解しました。これより我が小隊は牽制任務につきます。」

 
 この時、パエトン基地の演習場では、クライバーンのフェニックスホークが盛大に転んでいた。
 「中佐!! 豊作一番号とあまりにも違いすぎます!!!」
 「しまった・・・機種転換訓練のことを忘れていた・・・」
 豊作一番号の倍の高速性を誇り、軽やかにジャンプするフェニックスホーク。いきなりまともに乗りこなせるはずなど、なかったのである。かくしてマディック大尉は、いたちごっこを更に続けることとなった。
 
 

 『メック搬出』  作:MT.fuji   戻る  トップへ

 9月20日、惑星政府から派遣されたメック戦士達が次々と中に納められたメックを整備し直し、稼動させ、回収していった。彼等は当初報告されたメック倉庫存在の可能性という報告によって連邦から派遣されてきた士官学校出たての新兵達である。
 結局、ここにあったのは民生メックではあったが、それでも戦力の一端くらいは担えるだろうと、敵に利用される危険も考え、彼等がやって来たという次第だ。もちろん、中にはバトルメックではないと分かり帰還することを決めた者も多かった。
 こういった“帰還組”は特に失機者に多かった。中には、遺失メックを手に入れ、意気揚揚と帰還していくものも含まれていたが。この遺失メック達は他の遺失パーツと共にNAISで研究に回される事になる。だから、メック戦士に復帰した彼らも、帰還組と言えば帰還組なのだ。

 新兵達の方は然程帰る事はなかった。
 彼等の大部分はメック戦士の家系の中でも三男四男(ないし三女四女)もしくはそれ以下の、殆どバトルメックが回ってくる可能性のない子弟達であった。彼等からしてみれば、バトルメックではないにせよ戦闘可能なメックを手に入れ、かつ惑星政府の要人と婚姻関係を結べるという話は充分に美味しい話だったのである。
 この民生メックシリーズの名は『ジミ』とその上位機種『シム』というらしい。
 然程強力でもなんでもないが、数が揃えばある程度の防衛線を張る事は出来る。下手に車輛を使うよりは余程効果的だろう。少なくとも、惑星政府がある程度クリタに対抗出来る戦力を得たのは事実であった。
 また同時に民間用車輛から転用されたと思しき『クーゲル』という名の戦車もどきも発見された。

 その光景をR・Rはじっと見詰めていた。遺失バトルメックの補修用のパーツを含むこの発見にダヴィオン王家からは多額の報酬が出るらしい。どうやらメックでの物納も考慮してくれるという事でカウツV惑星政府は大喜びらしい。
 そう、この基地の所有権はカウツV政府にある。
 ブラッドハウンド中隊はふっかけはしたものの、あくまで調査を依頼されただけであり、この基地の物品に対して直接の所有権はない。
 予想外の困難、そして予想外の発見。
 これだけあっても、トットリ基地の事もある。実際に惑星政府が回してくれるのはクーゲル、ひょっとして運が良ければジミでも・・・という程度だろう。

 だからこそ、R・Rは普通のバトルメック達を隠匿したのだ。
 同時に発見された多数の普通のバトルメックのパーツ、そして何より5機分の新たなバトルメック。これらと合わせ、どうやらブラッドハウンドは大儲けしたと言える状況になったようだった。
 幸い、恒星連邦、惑星政府とも予想以上の発掘に大喜びであり、疑う様子はない。どうやらうまく隠しとおせそうだった。
 

『失機者募集』   戻る  トップへ

 「おっと、それどころじゃない。募集のチラシを配っておかないと・・・」
 R・Rは、ブラッドハウンドの新規入隊者募集のチラシを、腕の良さそうな失機者達を選んで渡していった。ブラッドハウンドは、極度に消耗している。多数の戦死者を出したため、メックウォリアーがろくに残っていないのだ。今も、バトルメックが何機も余っている。隠匿メックを含めればさらに増える。優秀な人材は、喉から手が出るほど欲しいのだ。
 「少尉。いつまで油うってるんですか! タウロス山での戦闘はまだ続いているんですよ!」
 「いや、しかしな、俺はここん所ずっと休暇がなかったし、少しくらい休んでも罰は当たらないと・・・」
 「しかしですねえ・・・仲間がスキマーやジープで必死に偵察してると言うのに、こんなとこにいると言うのは・・・」
 「休むことも戦士の勤めだ。今日、休息になったのは単なるローテーションの問題だ。焦るな。ウツホ軍曹もトレス軍曹も優秀な奴だ。心配ない。」
 「はあ・・・」

 そんな会話をしているR・R達の所から30mばかり離れた所で、一枚のチラシをもって興奮している男達がいた。どちらもメックウォリアーのようである。

 「ライフス、これを見てください!」
 「アルベルト・・・これは!」
 「そうです、ライフス! もう一度チャンスが巡ってきたんですよ!」
 「やった! これで、選考試験で手を抜くなんて屈辱的なことをする必要、もうないぞ!」
 「そうですね・・・」
 アルベルトの持って来たチラシを読んで、二人は興奮して・・・だが小声で話した。彼ら二人は、共通の秘密を抱えているのである。ライフスが声のトーンをさらに落とした。
 「・・・すまなかったな・・・今回は・・・」
 「いいですよ、別に。ちゃんとチャンスが巡ってきたんですしね。」

 この二人は、とある目的を持ってカウツVに来た。
 ライフスは、教えを受けていたNAISの教授を殺した裏切り者を倒し、奪われた研究成果を取り戻す。いわゆる、仇討ちだ。
アルベルトは、ライフスの敵討ちに力を貸すことである。親友に頼まれて、サポートを頼まれたのだ。

 この仇討ち、一応は、所属する派閥からの許可は得ている。ただし、限りなく非公式に近いものだ。下手に首都惑星のニューアヴァロンに戻ったりしたら、即座に拘束され、半年程度は謹慎を言い渡され、残る期間、監視付きで大学へ奉仕するはめになるだろう。
 ライフスは大学に入学するさい、卒業後は恒星連邦の正規軍か大学に10年は奉仕することを誓った身である。復讐心に駆られて勝手な行動を取ったりすることは許されない。勝手な出奔を手助けしたアルベルトも、拘束されることになるだろう。
 だから二人は、バトルメックの獲得と言う、もう一つの目的を果たすことが出来なかった。
 遺失メックは、全てニューアヴァロン科学大学に送られて研究対象にされる。選定試験に合格することは、捕まることと同義なのだ。試験で手を抜くしかなかった。

 「バトルメックを手に入れなくては 仇を討つ事も出来ん。必ずメックを手に入れて見せる!」
 「そうですね。あとは、藤果がこの星に派遣されてくることを祈るのみです。」
 「ああ。ドラゲンスバークの戦力は、あまりに大きい。殴り込むのは不可能だからな・・・」

 二人は、帰還組の宿舎にされている丸太小屋に向かうと、履歴書を書き始めた。絶対に合格してやるとの決意を込めて・・・
 

 この日の夕刻、タウロス山を巡る小競り合いは一応の終結を見た。マディック大尉がアーバンメックを撃墜し、もう一機にも手痛いダメージを与えたのである。このため、クリタの歩兵部隊達も撤退を開始したのだ。捕虜返還交渉が直ちに始められ、2日後の9月22日に上山とアーバンメックは帰っていった。
 ブラッドハウンドは、この時の戦闘で手に入れたものとして、隠匿したメックのうち一つを持ち帰った。 そのメックの名はメルデゲンガーである。

 翌9月23日。パエトン基地で、失機者の入隊テストが行われた。このテストで、ライフス、イ・ホンユイ、アルベルト、アイン、モーラ等の合計9名が採用された。
 レシュプ・サアンダという者もテストを受けに来たのだが、検査でドラコのスパイだということがばれ、人知れず処刑された。

同日。クリタの部隊が、再度タウロス山付近で活動を開始した。
 
 

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