9月23日早朝。
タウロス山付近において、またもドラコの部隊が行動を開始した。ただし、バトルメックはともなわず、偵察部隊のみの浸透である。しかも、通りすぎた村には手を出さないでいる。あきらかに、前回の行動とは違う。惑星政府軍は、当初生存者の救出が目的と考えた。捕虜返還交渉中の軍事行動は双方自粛していたため、撤退の時に逃げ遅れたような人員の捜索が出来なかったのではないかと考えたのだ。
しかし、時間が経つに連れて、その考えは覆された。
午後には、クリタの偵察部隊の数は予想外に多単位かつ広範囲におけるものであった事が判明した。そして、村人の目撃情報から、綿密なる地勢調査が行われている事が判明した。
・・・つまり、今後の軍事行動の予備調査なのだ。「クロフォード君。特に軍事目標となるものがないはずのタウロス山の周囲で、一体クリタの連中は何をしようというのかね?」
執政官は、クロフォード中佐に電話をかけて質問した。
「さて・・・私にもわかりません。まあ、メック分隊二つとスキマー中隊がまだタウロスの町にいます。あの付近で何を企んでいるのか、こちらでも調べてみます。」
「頼む。」
「でもって料金についてですが・・・」
「またそれか〜〜〜〜!」
「ええ、そりゃあもう、バトルメックの維持には膨大なお金が必要ですから。」
「メック部隊はまだ出さんでいい。スキマー隊だけで頼む。予算が苦しいんだ。・・・まったく、君たちのおかげで行政改革が進んで助かるよ!」
あまりに軍事予算がかさむので、行政改革をして無理矢理にでも予算を絞り出さないといけない、という皮肉である。
「まあまあ、政府予算を食い物にして私腹を肥やしている官僚どもを一掃するチャンスじゃないですか。この前も、改革に不満をもってクリタ側に内通した官僚を一人つるし上げたそうじゃないですか。」この執政官、軍事面はからっきしだが、政治面では結構やり手である。こういった事態ですらカウツVに元からいた小領主達への支配力強化のネタにしているのだ。もっとも、裏でナイトストーカーが支援していたりもするのだが。そのため、執政官とブラッドハウンドの仲はそこそこいい。そのかわり、高級官僚、つまりは元からカウツVの支配者層にいた者達との仲はいまいちだ。
「なんでしたら、うちのメック操縦訓練プログラムでも送りますか?」
「どういう意味だね?」
「いやあ、民生メックは元々作業用です。百機も見つかったんですから、それで土木工事をすれば、かなり惑星開発が進むはずですよ。同時に、メックの操縦訓練にもなります。うちの部隊は、いつもそうしてるんです。」
「そういえば、パエトン基地の周りには、随分と耕作地が増えたそうだな。」
「ええ。その通りです。大量の民生機の維持費を捻出するためにもどうです? 特別に無料ですよ。」
「・・・ありがたく、頂いておこう。」
かくして、各地に配備の始まった民生機は、操縦訓練と称して道の整備や丸木橋の架設、ダムや運河を造っての灌漑などに精を出すことになった。
実弾射撃訓練のような費用のかかる訓練よりは増しだと、官僚会議は満場一致で決定したのである。
見習いのメックウォリアーともなると、防御陣地作成や野営地作成は日常茶飯事なので、不満もさして出なかったようだ。
それはさて置き、クリタの偵察部隊に対処するよう命じられたマディック達は・・・
「う〜〜〜〜〜〜!!!!」
9月25日。タウロスの町に提供してもらった宿舎の中で、マディック大尉は、ひたすらうろうろと歩き回っていた。
「大尉。そんな熊みたいに歩き回らんでも・・・」
副官のフェンサーの言葉に、マディック大尉はぴたりと止まった。
「クリタの奴等が地勢調査を終えれば、こっちはその分不利になるんだぞ! こんな状況で見ているだけなんて我慢できん! それなのに、まだ出動命令がでない!! クロフォード中佐は何やってんだ!」
「そりゃ、お役所仕事な政府との交渉では・・・」
「う〜〜〜! よし、なら、パトロールに出る!」
「・・・いいんですか?」
「駐屯地の周辺パトロールは現地指揮官の権限内だ! その時に敵部隊と出会ったら叩き潰すのもな!」
「はあ・・・わかりました。」
マディック分隊は、パトロールと称して大規模偵察部隊の抹殺に出発した。しかし・・・クリタの偵察部隊は、満足な挑発行動すらせず、ひたすら逃げるだけで・・・マディック大尉の苛立ちは、さらに高まるのであった。