『キャンディ作戦』 作:ミッキー  戻る  トップへ
 
 

 惑星カウツV、駐屯メック部隊基地、パエトン。その通信室。ネラルト・ヴィンター(ハラルト・ヴインターの郎党)はひたすら暇な当直任務についていた。と、突然、ピピピ! と通信機が警告音を上げ、優先度Aの通信を送ってきた。
 「ザー・ちらしゅごてんザー・・・こちらザー・・・・・敵はあっとザーーー・・・」
 雑音がひどい。妨害電波をかけられているらしく、かなりの大出力で送信されているらしいのによく聞き取れない。
 「どうした!? 雑音がひどくて聞き取れない! もう一度言ってくれ!」
 ネラルトはマイクに向かって叫んだ。しかし、スピーカーからはさらに雑音がひどくなるばかりで、意味のある言葉は全く聞こえなくなった。すると今度は、全周波数帯で、単純に電波発信をオン・オフするだけという・・・いわゆるモールス信号で通信が来た。R・R曹長の発案で、エンドウ少尉がプログラミングしたモードである。暗号もヘッタクレもない、緊急時にしか使用されないモードだ。モニターに出た文字を読み上げる。
 「シュゴテンシ ショウタイ アットウテキ タスウノ テキ メック ト コウセンチュウ シキュウ エングンヲ コウ なんだって!?」
 ネラルトは驚愕した。守護天使小隊は、現在動かせる小隊の中で、もっとも重量がある。それが圧倒的多数と称するのだ。即座にクロフォード中佐に連絡を入れて報告すると同時に返信する。
 「テキ センリョクノ ガイヨウ ハ」
 その返信は、驚愕するべきものだった。
 「ケイリョウキュウ ヲ シュリョク ト スル 18キ サラニ タスウガ セッキンチュウ」
 「!!」
 なんと言う圧倒的な数。
 基地は、一気に活動を開始した。
 
  
 ウィーン・ウィーン・ウィーン・・・
 警報が鳴る中、クロフォード中佐の声が、基地中のスピーカーから流れた。
 「事態 1V3 発生。これより我が部隊は、キャンディ作戦を執り行う。参加可能人員は、装備Aにて集合せよ。繰り返す。事態1V3発生。これより我が部隊は、キャンディ作戦を執り行う。」
 事態1V3。これは、味方部隊が数倍の敵と対峙している事を意味する。キャンディ作戦とは、レパード級降下船による降下強襲部隊の派遣をさす。
 (1ヴァーサス3=数倍の敵、降下>ドロップ=キャンディ)
 
 この放送を聞いた時、マディック大尉は即座にメックハンガーに向かって走った。そして、腕の通信機でフェンサー少尉とクライバーン准尉に連絡を取る。非番では有るが、基地に居るかもしれない。幸い、二人ともに連絡がついた。
 「フェンサー! クライバーン! 放送は聞いたか?」
 「はい隊長! 現在、メックハンガーに向けて移動中!」
 「よし、上等だ!」
 「現在メックハンガー! 先に行きます!」
 「おう!」

 続いてクロフォード中佐に連絡を入れる。
 「ヴァレリウス小隊、3名参加可能! お姫さんは誰です!?」
 お姫さん。塔の上で騎士を待つお姫様と、救援を要請した部隊を引っかけた質問である。
 「いいえて妙だな。お姫さんだよ」

 「げ!」
 対するクロフォード中佐の答えは、大統領の娘とお姫様をかけた・・・すなわち、守護天使小隊だという答えだった。こうなると、いやが応でも助けなければならない。守護天使小隊の面々は、全員クリタに捕まったら最後、「無事」に帰ってくることは期待できないほど美しいからだ。先だっての交渉で、白田小佐と我田中尉は信用できそうな印象を受けたものの、他のメンバーについてはどんな性格かわかったものではない。なにより、自分の息子までついていっているはずである。認めるのが照れくさいものの、なんだかんだいって可愛いのである。
 メックハンガーに到着すると、すぐにブラックハウンドを起動させ、降下船シャネルクイーンに向かって走る。程なくして、ナースホルンも追いかけてきた。シャネルクイーンは、急ピッチで燃料の補給作業中だ。
 「離陸1分前! 参加するならあと45秒で乗って!」
 リン・ジョーダン大尉の高く澄んだ声が告げる。
 戦場の真上を通過するレパード級降下船から、ジャンプジェットを使用して強襲降下すると言う作戦である。
 熟練兵並み以上の腕を持つウォリアーが、高機動メックに搭乗していなければ不可能な行動だ。さらにメックは完動状態でなければならない。少しでも不具合があっては危険過ぎて参加できないのだ。
 「間に合ってくれよ・・・」
 マディックはつぶやいた。結婚式用のモーニングを着たまま・・・
 
 

『華麗なる乗艦』作: M-鈴木
 

 ブラックハウンドが、そしてナースホルンがジャンプジェットを噴かすとNOE飛行の如き、低く這うようなジャンプ機動でレパード級のサイドベイに突入し、内部に高温ガス噴流を吹き込まない様考慮したステップで、ベイの縁に手をかけると一挙動でもってハンガー定位置に(即ち後ろ向きに!)侵入してのけた。
 しかも、2機の侵入したベイは機体側面に各2箇所設置されたベイの、左右両方のベイであり、重量バランスまで考慮されたものだった。
 「ばーほー、  ボディフィックス・・・・コクピット・オーバー! ユーハブ」
    「なーほー、ボディフィックス・・・コクピット・オーバー! ユーハブ」
 殆ど間髪おかない、まるで男性声楽のフーガを聞かせる様なタイミングで2機のメックからレパードブリッジのリン大尉の元に機体の固定終了、機体(降下船)機動自由との申告が入る。
 小気味良いテンポで進む収容作業に、何よりレパード級を鈍重な降下船としてでは無く軽快な航空機として評する申告方法に、リン大尉は緊急事態にも関わらず、緊張と焦りよりも高揚感に包まれる。
 (注;マディックとフェンサーは敢えて「ブリッジ」とでは無く「コクピット」と呼称しています。これはある意味侮蔑ですらあるかも知れませんが、現状に於いてシャネルクイーンが求められている機能と、現クルーならば「それ」を実現可能であろうとの期待とが込められています。)
 「OK! 出すわ・・管制塔、貰ったわよ!!」
 文字通り管制塔から離陸許可をもぎ取ったリン大尉がタキシングもそこそこに機首回頭を行う。
 そして後方噴流影響範囲に障害物が無くなると同時にメインスラスターに発進時モードでの燃料供給を、全開で行った。
 (レパード級の後期型には都市内部をはじめとする居住地域近傍で運用する場合に備えてパルス推進だけでは無く、熱交換式の推進系が設定されており、それがエンジン全体の放熱機能に影響を与えているものの、大気圏内での運用性を大いに高めている。これは設計ルールから推測したものでオフィシャル設定ではありません。但し、同重量のエンジンでは容積型降下船のエンジンの方が高い放熱能力を設定されているのは事実です。)
 弾かれた様に加速を開始した機体は、加速開始僅か10秒後には秒速300mに達し、理想流線型にはほど遠い機体各部には早くも部分減圧による白い霧の筋が纏わりつき初めていた。
 「捉えた! 上げるわよ、出力、サイドに回して」
 充分な対機速度の獲得と、層流化を感じ取った大尉はエンジンが絞り出す推力の半分以上を姿勢制御系に振り分けた。
 すると、STOL機能用のモーフィングリムとベクタードスラスターの機能をも一杯に駆使したシャネルクイーンが、おもむろに機首を振り上げる。
 極高速領域でのリフティングボディエフェクトを意図された機体下面に、圧縮された空気が一瞬滞留し、それが開放されるのと同時に再び出力系が推進系につぎ込まれる。
 轟!!!

 文字通り、フェロクリート製の大地に、全力を叩きつけて、搭載物が軽減されているとは言え尚1400tを越える巨体が蒼空に向けて駆け上がる
 惑星重力にその一部を持っていかれているとは言え、最大3G加速を可能とする機体は、機体重量が最大積載状態に無い現状を利して垂直に成長する奇妙なオブジェの様に、機体は後方噴流が作る陽炎の塔の先端で輝いていた。
 「あの加速なら、到着まで・・・」
 クロフォード中佐が独りごちる
 彼等は間に合うのか??
 だが、埒も無い感慨に身を任せて惚けている暇は、中佐には無かった。
 「スキマー隊を2分隊に編成して、一方にメディカルオフィサーを付けるのを忘れるなよ。それと残る重量級に『手』を付けておいてくれ」
 最後の一言は整備分隊に向けた言葉だった。
 

『早すぎる初陣』 作:ミッキー
 

 ピピピ! 警報が鳴る。戦況ディスプレイに、新たな敵影が現れた。数は4。6時の方向である。後部モニターを見ると、ジャンプする2機の機体がちらりと見えた。遠すぎて機種は分からないが、2機とも中量級のようだ。
 「く! これはキツイな・・・」
 アミィは歯噛みした。ジャンプ能力を持つ機体がグリフィンだけのこの小隊は、あまり森林戦が得意とは言い難い。どうしても動きを制限されてしまうのだ。それでも、軽量級だけを相手にするのであれば勝算は有った。しかし、中量級の機体まで敵に加わるとなると、予断は許されない。強襲型のアフロディーテが参加しないのでは、戦力的に大きく異なるのだ。
 「急いでよ、クレア。なんとか、セイちゃんを上手く指揮して戦力にしないと・・・全滅よ!」
 アミィは切迫した口調でつぶやいた。直後に通信が入る。

 「だぁいじょうぶ。ご注文通り戦力にしてやるよ。」

 クレアだ。苦しい息の中、それでも軽い口調で・・・見ると、サイドモニターにアフロディーテの雄姿が見える。セイちゃんはなんとかメックを操っているようだ。アフロディーテの右手が、やや緩慢に粒子ビーム砲を構え、左胴に装備された大口径レーザーが動き出す。強襲型メックが、マルガレーテのマローダーと肩を並べ、粒子砲と大口径レーザーを発射した。
 どうやら光明が見えてきたようだ。
 一機、また一機と敵の形式不明機が撃墜され、あるいは大ダメージを受けて後退していく。これなら勝てる! 誰もがそう思った。しかし戦勝気分に水を差すように、クレアの驚愕の声が割ってはいる。
 「なんだとお! そんな・・・」
 その声に、即座に皆が反応する。
 「どうしたんですの?」
 「どうした?」
 「どうしたデスか?」
 「なに? お姉ちゃん?」
  ほぼ同時に4人が心配そうな声をかけた。この小隊の同僚を気遣う気持ちと統一行動能力は抜群だ。新入隊員ですらちょっと遅れただけである。熱心に続けられたスキンシップの賜物(!?)だろう。
 「いや・・・設置したパソコンで敵の形式不明機の識別をやってみたんだが・・・基地のメインコンピュータからダウンロードした古いデータに引っ掛かった。見てくれ。」
 戦況ディスプレイに敵形式不明機の機種識別表示がなされる。機種名は「BMO−6J ザコ」武装Aタイプ、ならびにBタイプ。今までの戦闘で推測したデータとほぼ同じだ。異様に低いスペックが裏付けられた。失敗作の量産機なのだろうか? いや、違う!
 「・・・・!!」
 アミィは即座にその意味を悟り絶句した。マルガレーテは、接近してくるザコの腕を粒子砲で吹き飛ばしながら叫んだ。
 「そんな! 作業用メックの骨格やエンジンを使用した量産メックですって!? それじゃあ・・・アイアース遺跡のメックと同じなんですの!? と言う事は・・・ドラコの方々、別の遺跡を手に入れたってことになりますわ!」
 「ああ。そういう事だ。」
 「・・・それしか考えられませんデス!」

ブレンダも、粒子砲でザコの足を撃ちぬきながら答える。すでに彼我の距離は100mにまで迫っている機体もいるほどで、足を止めての撃ちあいに移りつつある。こちらもかなりの命中弾を受けているが、いずれも装甲の厚い機体ばかりなので気にするほどではない。すでに、ザコの半分が各坐している。残るメックも動揺は隠せない。むしろ厄介なのはスティンガーだ。高速で飛びまわりながら、的確に攻撃をヒットさせてくる。かといって180mものジャンプを繰り返す高機動メックが遮蔽物を利用しているとなると、命中はあまり期待できない。
 「今は、生き残る事が大事ですわ! とにかく敵の数を減らしましょう!」
 守護天使小隊はスティンガーを無視すると、ザコを狙い撃ちして敵の数を減らす事に専念した。

 一方ドラコ側の部隊を率いているホフォベクウィッチ中尉は、焦りを隠せなかった。自分はスティンガーも含めて14機もの戦力を率いていたはずだ。それなのに、今指揮下で戦闘を継続している機体は半分しか残っていない。こちらに圧倒的に有利な地形と、圧倒的な数によって敵を包囲職滅する。それが今回の作戦だった。
 自分の指揮する14機と、我田中尉の指揮する22機によって完全に包囲し、ブラッドハウンド中隊でもっとも重い小隊を蝕滅する。しかる後に、応援に来るはずの4機を撃滅する。あとは、主戦力を欠いたパエトン基地を攻撃するシロタ小佐の仕事だ。
 だが、ホフォベクウィッチ中尉は不満だった。偵察小隊を率いていた我田中尉の方が、より多くの戦力を率いるように命じられた事が。だから、自分の部隊が早く位置についた時。そして、我田配下の部隊がいまだ位置についていないらしい事に気付いた時。ホフォベクウィッチ中尉は、功を焦り、自分達だけで攻撃を開始してしまったのだ。
 ホフォベクウィッチ中尉は忘れていたのだ。士官学校でたての自分の腕が、いかに頼りなかったかを。今の自分や直属の部下と同じ感覚でメックの性能を引き出すなど、新兵には絶対に無理だと言う事を。

 又一機のザコが撃破された。アフロディーテと言う強襲型の放った粒子ビーム砲が頭を射抜いたのだ。あれではパイロットは生きていまい。ザコの操縦席は粗悪品だ。ちょっとした事で脱出装置が作動しなくなる。
 「そんな・・・ばかな・・・砲火を開いてから3分も経っていないのに・・・こんな壊滅的な損害を受けるなんて・・・ 化け物か・・・奴等は・・・」
 呆然とつぶやいたホフォベクウィッチ中尉に対し、強制モードで通信が入った。ジャミングのせいで、ひどく雑音が入る。
 「こりゃあ! 何をやっとるんじゃ! 早く生きとるパイロットを回収して撤退せんか! 本当に全滅するぞ!」
 「が、我田!? いつのまに!?」
 「お前が馬鹿な事をしたから部下より先行したんじゃ! 早く撤退しろ! ここはわしが引き受ける!」
 ホフォベクウィッチ中尉は歯噛みした。そして、力なく部下達に告げた。
 「て・・・撤退だ・・・撤退する・・・」