『鷹は舞い下りた』 戻る  トップへ
 

 ホフォベクウィッチ中尉率いる部隊が撤退を開始した。代わって、6時の方角から接近してきた4機の中量級メックが接近してきた。機種はウルヴァリーン、フェニックスホーク、そして2機の青い形式不明機だ。ウルヴァリーンのオートキャノンが有効射程に入り、砲撃が開始される。だが、マルガレーテは冷静に命令を下した。
 「まだ大丈夫よ! 撤退するザコ達に追い討ちをかけて! 多少なら背面に受けても何とかなるわ!」
 その命令に、撤退中のザコ達に、更なる砲撃が加えられた。満身創痍になっていたザコ達は、さらに1機が撃破される。撤退していく第一波の部隊は、ほうほうの体で逃げていった。この分なら、絶対に戻ってくる事はないだろう。後顧の憂いは絶った。後は第2派に専念するだけである。
 守護天使小隊が振り向いて6時の方向の敵に相対した時、フェニックスホークとの距離は180mほどにまで迫っていた。一方、青い形式不明機とウルヴァリーンは300m程である。

 「またあったな、小娘ども!」
 通信画面に髭面が大写しになった。一般回線で割り込んだようである。守護天使小隊の声がハモった。
 「「「が、我田中尉!?」」」
 「そうじゃ! あれから腕を上げた様じゃの! 少なくとも勝負度胸はいっぱしのもんじゃ! 誉めてやる!」
 驚きに、ほんのわずかだけ守護天使小隊の気が殺がれた。その一瞬の隙を突いて、フェニックスホークが横に回りこみ、ウルヴァリーンが主武装の射程範囲に入った。
 「くっ! みんな! 落ち着いて! フェニックスホークに集中砲火を!」
 フェニックスホークとウルヴァリーンで挟み込まれたら非常に不利になる。マルガレーテの指示に、守護天使小隊は集中砲火を浴びせた。すでにマローダーとアーチャーは弾を撃ち尽くし、ビームしか使えない。グリフィンとアフロディーテの弾薬も残りわずかだ。だが、いまだに装甲を破られてはいない。勝機はある。
 3門の粒子ビームと、2門の中口径レーザー、6連短距離ミサイルが2斉射と大口径レーザーがフェニックスホークを襲った。
キュド!
 粒子ビームがフェニックスホークの左胸に突き刺さった。しかし、それ一発のみである。後はすべて森の中に吸い込まれた。幸いにも火災は発生せず、森の木々がなぎ倒されただけに終わった。この辺りの森が燃えにくい広葉樹が主体である事と一昨日雨が降ったばかりである事に感謝しなければならないだろう。もし火事になっていれば煙が視界を遮り、遠距離攻撃が非常に難しくなる。今までの戦いでも、外れたビームで火事が起きた場所はビームで森をなぎ倒し、粉砕消火を行っている。おかげで森は、だいぶ風通しが良くなってしまった。丘の上の森も、今では半分がとこなぎ倒され、遮蔽物に困るようになりつつある。
 

 ウルヴァリーンがマローダーの懐に入った。中口径レーザーと短距離ミサイルが、キックとパンチが応酬される。
 「そらそら、どうしたどうした!」
 「そんなメックどこから持って来たんですの!? ドラゴンはどうしたんです!」
 「これは予備メックじゃ。ドラゴンは修理中じゃわい!」

 青いメック、BMO−7H高機動型フグがトリッキーなジャンプでアーチャーの中口径レーザーを躱す。反撃に左手に仕込まれた5門の小口径レーザーを撃ちまくるが、これはまったく当たらない。アーチャーの挌闘能力を恐れて、けして近づきすぎないからだ。
 「当たれ!」
 「当たってたまるかあ!!」
 「・・・!? 民生メックの改造型というのに、何という機動性・・・!」
 アミィは、ウルヴァリーンと遜色のない高機動型フグの動きに驚いていた。

 セイは、もっとも機動力の高いフェニックスホークに翻弄されている。
 「わ〜〜ん、お姉ちゃん、あたんないよう!」
 「落ち着いて良く見るんだ、セイ!」
 「くそ! ジャンプしていては当たらんし止まればやられるのはこっち・・・」
 一方、フェニックスホークを操る雷太軍曹もなかなかビームが当たらないのでいらついていた。

 もう一機の高機動型フグに乗った松島曹長は、私的な恨みのためにグリフィンに執拗な攻撃を加えていた。キックで手痛い反撃を食らっているが、お構い無しである。
 「小娘! 貴様俺のジェンナーの足を折ってくれた奴だな! あれが響いて俺のジェンナーは修理不能状態なんだ! 恨みはらさでおくべきか! 食らえ!」
 「こ、来ないでです〜〜〜〜!!」

 メックが縦横にジャンプしまくり、ビームが空を切り裂き、ミサイルが飛び交う。森は大激戦となった。しかも、押されているのは守護天使小隊のほうである。縦横無尽に飛び回る高機動メックに、いいようにあしらわれている。
 ドガガガガ!
 追い討ちをかけるように、10門近いオートキャノンが守護天使小隊に向けて放たれた。それを撃ってきたのは守護天使小隊を撹乱している目の前の4機でない。我田中尉配下のザコの群だ。
 「し、しまった! 増援がいつの間にか!?」
 いつの間にか、300mほどの距離にまで接近し、ザコBが援護射撃を始めたのだ! 途中から目立たないように徒歩で接近したのだろうか!?
 「あう〜〜〜こ、これでは圧倒的に不利デス〜〜〜!!」
 「く!」
 「ど、どうするの、お姉ちゃん!?」
 「落ち着いて! 奴等は足を止めて援護射撃に徹してるわ! 格好の標的よ! なら方法は一つ! さっきと同じ事をするのよ!」
  たったこれだけの指示である。しかし、守護天使小隊のメンバーは、全員がやるべき事を理解した。守護天使小隊の声がそろう。
 「「「了解!」」」
 弾を撃ち尽くしたアーチャーを駆るアミィが周辺を飛び回るメック達の牽制をおこなう。アフロディーテの後部座席のクレアがパソコンを使って標的を選定し、遼機の戦況ディスプレイに情報を送る。選択された目標に対し、粒子ビームや大口径レーザーが降り注ぐ。第一斉射で、ザコの一機が撃墜された。2機目の目標は全身の装甲がズタボロになったが移動能力には問題が起きず、撤退を開始した。
 「むう・・・やりおるわい・・・潮時か・・・」
 我田中尉はつぶやいた。一旦冷静になったとたん、守護天使小隊は一糸乱れぬ連携プレイを見せだした。背面からの攻撃すら無視しての攻撃は見事というほかない。装甲の厚いメックにしかできない戦法である。だが、まだ手は有る。同僚の勇み足で手ぶらで帰りました、と報告するわけにもいかない。ガキのお使いではないのだ。
 バシュバシュ、バシュ、バシュ〜〜ン!
 森の中から、新たなメックが飛び出した。2度のジャンプで一気に間合いを詰め、6機の中量級が横合いから守護天使小隊に襲いかかる。我田中尉と共に先行していた青いメックと良く似ている。移動力は少しおちているようだが、装甲と武装は充実しているように見える。機体識別プログラムによると、BMO−7BフグB型だ。
 ブドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
 フグの左手に装備されたマシンガンが火を噴いた。一機につき5門装備されており6機いるから、無慮30門に及ぶ。
 「・・・・ええい! 無駄ダマを撃ちおって!」
 第一斉射は、ほとんどが外れてしまった。そのために、守護天使小隊のパニックは避けられたようである。それどころか、アーチャーの反撃によって一機が逆に撃墜されてしまった。近づきすぎて、重量級のキックに頭を吹き飛ばされたのである。だが、守護天使小隊が圧倒的に不利な事には変わりない。
 「こ、このままではジリ貧ですわど、どうしたら・・・」

 マルガレーテは絶望の声を上げた。弾薬の残っている機体はもはやない。装甲板は激戦のためにぼろぼろになり、限界を超えようとしている。敵は高機動と数をいかして自分達を包囲している。もはや、360度すべての方向から弾が飛んでくるのだ。打つ手を見出せない。マルガレーテは、降伏を検討し始めた。
 その時である。
 豪!! ほんの一瞬だけ空がかげった。
 キュドドドド!!!
 直後に、天空から無数のビームとミサイルが降り注いだ。この場にいたほとんどの者が、何事かと天を見上げた。ピンク色に塗られたシャネルクイーンの援護射撃だ! それだけではない。
 天から、鋼鉄の巨人が降ってくる。
 3機の巨人が、天から降ってくる。その武装を撃ちまくりながら、天から降ってくる。思いもかけない方向からの攻撃に。我田中尉配下のメック部隊は、大混乱に陥った。
 「弱気になるな! 蹂躪しろ!」
 「マディック大尉!?」
 「パパ!」
 「やったです!」
 「助かった〜〜」
 「感謝する。」
 ズシン! ズシン! ズシン! 増援の3機が、守護天使小隊をかばうように着地した。それを見て、我田中尉は歯がみした。
 「早すぎる。これほど早く飛んでくるとはな・・・計算違いじゃ・・・無念じゃが、退くしかないな」
 「よくも俺の息子をいたぶってくれたな。たっぷりとお返しさせてもらうぜ!」
 マディックは、ギラリとした目でウルヴァリーンを見つめた。
  鷹は舞い下りたのだ!