『追激戦』   戻る  トップへ

 

 ズシン! ズシン! ズシン! 増援の3機が、丘の上の守護天使小隊をかばうように着地した。それを見て、我田中尉は歯がみした。
 「早すぎる。これほど早く飛んでくるとはな・・・計算違いじゃ・・・無念じゃが退くしかないな」
 我田中尉は、撤退命令を出そうとした。その気配を目ざとく察知したマディックは、ニヤリと笑ってとあるスイッチを押した。スクランブラーも暗号もない一般回線で、付近の全てに映像通信を放送するスイッチである。応じる相手がいれば、即座に双方向通信になるモードだ。マディック大尉は、凄まじいまでの操縦技術だけでなく、毒舌によって相手の冷静さを奪い、自分達に有利な状況を作る事をも得意としている。今回マディック大尉は、敵を怒らせて撤退をはばみ、撃墜スコアを伸ばすつもりでいた。クリタの数十機に及ぶメックと守護天使小隊のモニターに、マディック大尉の顔が映し出される。
 「貴様ら、よく・・・」
 「タキシード仮面様!」
 いきなり横やりが入った。目を潤ませ、手を胸の前で組み、夢見る乙女モードに入ったマルガレーテ中尉である。
 「ああ・・・なんてステキ・・・タキシード仮面様が私達を助けに来てくださったのね・・・しかもちょうど五人いますわ・・・」
 「ほんとデス! タキシード仮面様デス!!」
 「ウワァオ! こんな事を体験できるなんて思わなかった!」
 「は!?」 
 訳のわからないことをいわれて、マディックは思いっきりペースを乱された。
 「セ○ラ○ム○ン!?」「セ○ラ○ム○ンだよな?」「セ○ラ○ム○ンだ・・・」「ナニ考えてんだ!?」「趣味が悪すぎるぜ・・・」「へ、変態よ! 変態だわ!!」「連邦め・・・なに考えておるんじゃ!? こんな変態をのさばらせとくとは!」
 クリタの陣営からも、口々にわけのわからないつぶやきが帰ってくる。あれだけ激しい戦闘が行われていた森は、今や完全に停止していた。深さ2000mの海洋深層水のごとく高重圧でぴくりとも動かない雰囲気が立ち込めている。

 「な、なんだ!? 一体俺がどうしたんだ!?」
 マディック大尉は、どうにも不安になって問いただした。
 「おぬし・・・まさか、その格好でごく普通だなどと言い張るつもりか!? このコスプレオタクめ!!! 名誉ある戦いを汚すにも程があるわ!!!」
 「そんな!? タキシード仮面様を悪く言うなんてひどいですわ!」
 「そうよそうよ!」
 「・・・!?」
 マディックは、恐る恐る自分の服装を確かめ、驚愕した。
 ・・・タキシードである。普段着ている軍服ではない。タキシードだ。キャンディ作戦発動直前に、マルガレーテからプレゼントされたタキシードを試着し、緊急事態だから着替える時間も無く、そのままメックに乗り込んで忘れていたのである。その姿を、一般回線で放送してしまったのである。マディックは、ようやっと半分だけ理解した。どうやらこの、戦場に似つかわしくない服装で非難されたり感動されたりしているらしい。しかし、タキシードを着ていただけで、これほど騒がれるだろうか? 答えはノーだ。マディックは、自分の服装を確認後1ミリ秒でここまで思考した。そして・・・10年前まで放送されていたとある番組を思い出した。
 

 豆知識:『セ○ラ○ム○ン』
10年ほど前まで、蛮王国ですら放映されていた無国籍特撮ドラマ。配給元はコムスター。


 士官学校に通うキャピキャピの女の子達がひょんな事から発掘メックを手に入れてしまい、突如降下強襲をかけてきたメック部隊を相手に戦うというストーリー。
 遺失装備満載の発掘メックは、一年目は5機だったが年を追う毎に増えていき、最終的には9機にまで増殖した。
 タキシード仮面とは、彼女たちがピンチになるとどこからともなく助けに駆けつける黒いメックのパイロットの事である。彼はなぜか、メックに乗る時に必ずタキシードを着ている。
 それらしい外見に加工された本物のバトルメックを使用した戦闘場面は臨場感200%であり、ファンは大人にも多い。しかし、本放送終了後10年もしてから、自分のメックを黒く塗り、コスプレして戦闘参加するようなマニアとなると・・・!?

 「ち、ちがあ〜〜〜う!!!! 俺はそんな趣味じゃなぁぁい!!!」
 マディックは絶叫した。魂の叫びである。
 「そ、そんな、タキシード仮面様、私たちを見捨てるような事いわないで下さいまし。」
 「タキシード仮面さまぁ。私達五人を見捨てるんデスかぁ!?」

 マディックの否定は、即座にだいなしにされた。
 「知らんかった・・・隊長って・・・そういう人だったのか・・・」  「・・・いやまあ・・・やる事やってくれれば別にいいんですけどね・・・さすがに、そのかっこで放送するのは止めた方が良いんじゃないかと思いますよ?」
 フェンサーとクライバーンという直属の部下ですら、マディックを極度のコスプレマニアと認識してしまったようである。
 「違うんだ、俺はそんな変態でなくて・・・」
 マディックはさらに言い訳しようとしたが手後れである。
 「ええい! こんな変態なんぞ相手にする価値も無いわ! 無視して帰るぞ!」
 我田中尉が、部下達に撤退命令を下した。クリタのメック戦士達は、落ち着き払って撤退を開始する。あまりに早い援軍の空からの攻撃に度肝を抜かれ、恐慌状態に陥っていたのだが、別の意味で驚きすぎたために、かえって落ち着きを取り戻したらしい。いや、驚きを軽蔑が払拭したというべきだろうか!?
 ・・・マディック大尉は精神的大ダメージをうけ、得意の毒舌は完全に沈黙したのであった。

 「ええい! こうなったら一機でも多く落としてやる!!」
マディックはやけくそ気味で叫ぶと、フェンサーとクライバーンを率いて撤退しようとするクリタのメック部隊に襲い掛かった。
 「守護天使小隊、援護を頼む!」
 「「ええ、タキシード仮面様!!」」「了解」「ほい、タキシード仮面様」「・・・」
 この返事に、マディックは操縦を誤った。ジャンプしていたブラックハウンドが失速する。
  ズシン!
 墜落した。
 ボディイプレスをする形で、一機のフグを押しつぶす。フグを操るメックウォリアーは、恐怖の叫びを上げた。
 「うわあ! 変態に押し倒された! ホモだ! 犯される!」
 「誰がホモじゃあぁ!!」
 「キャア、タキシード仮面様!?」「た、タキシード仮面様が・・・」「パパ!?」「・・・・」
 マディックの精神に、さらに追い討ちがかけられた。必死で逃れようとするフグの放つマシンガンがブラックハウンドを傷つけるのもかまわず、パンチを乱打してフグを破壊する。すでに八つ当たりモードである。
 フグが機能停止すると、ブラックハウンドもうごかなくなった。ショックで立ち直れないのだろうか。
 しょうがないのでクライバーンとフェンサーは、マディックをそっとしておく事にし、独自の判断で追撃を始めた。幸い、マディック墜落の動揺にもかかわらず守護天使小隊からの援護射撃は続いている。クレアのアーチャーが丘を下りてブラックハウンドを助け起こそうとしているので、心配ないだろう。

 フェンサーのナースホルン、クライバーンのフェニックスホーク、ブレンダのグリフィンがジャンプジェットを吹かし、逃げようとするザコやフグに襲いかかる。それを阻止しようと我田中尉直属の小隊がまとわりついた。追撃側は155トン、我田中尉の小隊は180トンである。しかし、高機動型フグは民生用改造機だ。武装は5門の小口径レーザーしかなく、装甲も貧弱である。追撃側の戦力が、わずかながら上と見るべきだろう。

 「小賢しい!」
 フェンサーは、高機動型フグが着地した目の前にナースホルンをジャンプさせ、3門の中口径レーザーを斉射し、一発を命中させた。止めとばかりにキックを放つが、これも外れてしまう。一方松島曹長も左手の小口径レーザーでお返しをしたが、1発もあたらない。高機動で飛び回るメック同士で命中弾を期待するには、エリート顔負けの腕前が必要なのだ。2機の高機動型フグとナースホルンの舞踏は、しばらく終わりそうにない。仲間が撤退するための時間稼ぎ、という意味では、フェンサーの判定負けと言えそうだった。

 「未熟! フェニックスホークという傑作機の半分の力も引き出しておらんぞ、貴様は!」
 クライバーンは、フェニックスホークのジャンプジェットを最大限有効に使って250mもの距離を一気に飛んだ。このとんでもないジャンプを見て、雷太軍曹は驚愕の声を上げた。
 「そんな!? ただの噂じゃあなかったのか!?」
 フェニックスホークは”ザ・ベストデザイン”とあだ名されるほど、素晴らしいバトルメックだ。照準装置の正確さ、高性能な通信機、優秀なジャンプジェット。これらの秘められた力を解放できるメックウォリアーは少ない。しかし、クライバーンは熟練の技でそれを見せ付けた。雷太軍曹の驚愕した隙を突いて、マシンガンを撃ちこみ、キックを放つ。
 「うわ! あれ!?」
 ・・・キックもマシンガンも外れた。雷太軍曹は、今の凄まじい操縦技術を見せられた後のスカぶりを見て、落ち着きを取り戻した。ただでさえ膨大な熱を発するジャンプをあれだけ長距離!? しかもレーザーを使わない! これは、機体のエンジンに相当な負担を与えるに違いない。ならば、まだ勝算は有る。
 「くそ! この落ち着いた対応ぶりは・・・一発で見抜かれたか!? ならば!」
 クライバーンは、雷太軍曹のフェニックスホークを無視して、撤退していくザコの群に狙いをかえた。長距離ジャンプで一気に間合いを詰め、走行もしくは通常ジャンプで至近距離まで接近、中口径レーザーとマシンガン、キックを併用して着実にダメージを与えていく。森と林がほとんどで、平地の少ないこの地形では、連携プレイなど取れるはずもなく、個人戦になりがちだ。ゆえに、格闘戦能力が物を言う。B型ザコは格闘戦能力に乏しい。クライバーンの操るフェニックスホークはザコを押しまくった。
 しかし、雷太軍曹の操るのは同じ機体である。そのプレッシャーは無視できない。ゆえに、戦果は比較的少なくなった。

 傍らでは、逃げるフグやザコの群に、守護天使小隊が粒子砲やレーザーを撃ちこんでいた。
 追いすがってきたブレンダのグリフィンとの十字砲火である。射程距離から出るまで、この攻撃は続いた。

 「邪魔だ! どけ!」
 「変態に部下をやらせるわけにはいかん!!」
 「いうなあぁっっ!!!」
 復活したマディックは、まとわりつく我田中尉のウルヴァリーンを扱いかねていた。着実に中口径レーザーを命中させているのだが、格闘戦に長けたウルヴァリーンは装甲が厚く、そう簡単には落ちそうにない。こんな事をしていては獲物の軽量級に逃げられてしまう。
 「ならば!」
 マディックは、一瞬の隙を突いてウルヴァリーンから距離を取り、うっかり近づきすぎたザコの隣にジャンプして狙い撃ちにした。
 「うわああああぁぁぁぁ!!!」
 一機のザコが足を砕かれ、地に倒れ伏した。
 「貴様! わしを無視するとは良い度胸だ!」
 我田中尉が怒りの咆哮を上げる。
 「ええい! うるさい!」
 過熱がひどい。マディックはジャンプしてウルヴァリーンに背後に回られない位置を確保した。目の前に飛んできたウルヴァリーンにキックを仕掛ける。鋼鉄の固まりがウルヴァリーンの足を襲う! しかし、我田中尉も負けてはいない。短距離ミサイルと中口径レーザーつきでキックを返してくる。マディックと我田中尉の戦闘は互角だった。が、ザコとフグという戦果の分、マディック側が判定勝利と言えた。

 「食らえ!」
 フェンサーが、30mほど離れた林に着地したザコめがけて中口径レーザーを放った。フグは攻撃を避けようと後方へジャンプする。3門の中口径レーザーが林をなぎ倒しつつそれを追いかける。しかし、途中に生える林にはばまれ、一発も命中しない。全てのビームエネルギーは、木によって吸収されてしまった。
 「なに!?」
 フグを操るパイロットは、目の前の事体を理解できず、一瞬戸惑った。目の前で林がなぎ倒され、ナースホルンとの間にがらんとした空間ができたのだ。フェンサーはニヤリと笑うと、再度トリガーを引き絞った。先程の中口径レーザーは、フグを狙ったと見せかけて、邪魔な林をなぎ倒すために放ったのだ。
 「これを狙ってたんだよ!」
 手ごろな距離にいるフグに向かって、3門の中口径レーザーが伸びる。遠距離武装はおろか、中距離武装すら持たないフグは、反撃もできずに3門とも食らってしまった。しかしフグはこれくらいで装甲を撃ちぬかれたりはしない。ザコの倍の厚さの装甲を誇るのだから。さらに後方へとジャンプし、丘の陰に入る。
 「む? あの丘は・・・」
 フェンサーはふと、120mほどの場所にある丘に目をとめた。あの丘を制圧し、そこからナースホルンの主武装である長距離ミサイルを撃てば、ジャンプによって距離を詰める必要なく、多くの敵メックを射程に捕らえる事ができる。ジャンプ時に発生する膨大な熱を気にする必要も無くなる。ビームとジャンプの併用でやや過熱しているので、丁度良いかもしれない。フェンサーはジャンプジェットを吹かし、丘の上に着地した。
 「なに!?」
 フェンサーは驚いた。丘の向こうには、撤退したザコやフグ達が集結していたのである。
 ブドドドドドドドドドドドド!!!
 ザコのオートキャノンが、フグのマシンガンが火を噴き、フェンサーのナースホルンに集中砲火を与える。ザコとフグは、追撃を受けて混乱した指揮系統を修復しようと集結していたのである。運悪くその目の前に出てしまったのだ。ジャミングと丘という遮蔽によってレーダーが撹乱されていたのもあるだろうが・・・自分が射線を確保するということは、敵もまた射線を確保できるという事を忘れたフェンサーのミスだ。
 上半身にまんべんなくダメージを受けたフェンサーは、たまらず逃げ出した。ジャンプジェットを吹かし、一発も反撃する事無く後退する。と、そこに更なる不幸が飛び込んできた。

 その女性メックウォリアーは、フグをほとんどジャンプさせずに撤退していた。他の機体が目立つジャンプを主体にして撤退しているのを見て、森の中を歩いて撤退していたのである。これが意外と功を奏し、一度も攻撃を受ける事無く撤退できた。そして、主戦場から離れ、後少しで集結地点にたどり着くと安堵していた所に・・・ナースホルンが降ってきたのである! 距離は5メートルも無いという、至近距離に! マディック大尉というコスプレオタクを見て過敏になっていた彼女は、一瞬恐慌状態に陥った。
 一方、集中砲火を受けておお慌てで逃げ出したフェンサーも、レーダーに反応の無かったメックが突然目の前に現れたために恐慌状態に陥った。
 「キャ〜〜〜来ないで〜〜〜〜!!!」
 「おわああぁぁぁ!! なんだなんだ!?」
 フグの目が怪しく光り、右手に仕込まれたヒートロッドが振り回され、左手のマシンガンが火を噴く。ヒートロッドはナースホルンの頭に命中した。2度目の負傷に、フェンサーの意識が薄れかける。フェンサーは、最後の気力を振り絞り、緊急脱出ボタンを押した。
 ボボン! ズズゥン・・・・
 ジャンプ直後に恐慌に陥ってバランスを崩していたナースホルンは、地に倒れふした。これが、今回のクリタ側の唯一の戦果となった。

 そして・・・
 結局の所、追撃を振り切り、逃げ延びたフグB型は3機、ザコは7機だった。フェニックスホークとウルヴァリーン、高機動型フグの一機にも逃げられてしまった。
 いや、逃してやったというべきか。
 フェンサーの撃墜を見たマディックは追撃中止を命じたのだ。
  あまりにもひどい精神ダメージに、追撃する気力を失ったからかもしれなかったが。

 
 総合戦果
 我田中尉配下:ザコ5機、フグB3機、高機動型フグ1機。
 ホフ中尉配下:ザコ8機

 個人成績
 マディック:ザコ1、フグB1
 フェンサー:撃墜されて緊急脱出。
 クライバーン:ザコ1、フグB1
 マルガレーテ:ザコ4(天使降臨でスティンガー、)
 アミイ:ザコ3、フグB1(山賊退治で1)
 ブレンダ:ザコ3、高機動型フグ1(天使降臨でジェンナー)
 クレア:負傷のため0(天使降臨でドラゴン、月面で量産型ヤマタノオロチ)
 セイちゃん:ザコ1

 戦闘終了後。フェンサーは、エマージェンシーパックの中の包帯を取り出し、顔に巻きつける作業に没頭していた。女顔のフェンサーは、守護天使小隊好みの容貌と性格なのだ。下手に彼女たちの前に出ようものなら、玩具にされる事請け合いだ。最近はセイちゃんにそのエネルギーが向けられているので被害は少ないが、用心に超した事はない。しかし、今回、その努力は無駄に終わった。フェンサーなど眼中に無くなるほどの玩具がいたからである。

 「「ああ・・・タキシード仮面様・・・」」
 体操服にブルマー姿のマルガレーテとブレンダがマディックに迫る。目はすでにトロンとしており、ナニやら非常に危ない雰囲気である。
 劇的な救援劇に、惚れられてしまったらしい。それとも、熱心に見ていた番組の登場人物と自分を重ねあわせて、感情移入しすぎているのだろうか?
 「ち、違う! 俺はタキシード仮面じゃない!」
 「でも・・・助けに来てくださいましたわ・・・天から颯爽と下りてくる黒いメックの勇姿・・・あれはどう見てもタキシード仮面様ですわ・・・」
 「私達を助けてくれたデス」
 「だ、だからこの格好はたまたまで・・・時間が無かっただけなんだ!」
 「そんなつれない事をいわないで下さいませ、タキシード仮面様・・・」
 マルガレーテとブレンダが、じりじりと迫る。マディックが、じりじりとあとずさる。

 ムニッ

 背中が何か柔らかいものにあたった。振り返ると、アミィに手当てをしてもらっていたクレアがトロンとした目で立っている。どうやら、クレアもはまってしまってるらしい。その後ろでは、冷めた目をしたアミィが救急箱をかたづけている所だった。
 「照れなくて良いですよ、大尉。私達のために命を懸けてくれた・・・それは確かなんですから。」
  ピト! ピト!
 クレアに気を取られたすきに、マルガレーテとブレンダに捕まってしまった。

 その光景を、うるうるした目で見るポニーテールの美少女が一人。いや、違う。体操着にブルマーという格好だから間違えたが、男の子である。セイちゃんだ。  「ううう・・・パパが・・・パパが・・・コスプレオタクだったなんて・・・その上・・・その上・・・パパなんて嫌いだ! 浮気してたってママにいいつけてやる!! うわあぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
 セイちゃんは、泣きながら走り去った。
 「ああっ!? セイ!? ご、誤解だ! こ、こら、離してくれ!」
 「いやですわ。離しません。」
 「ちょっとだけでいいデスからこうしててくださいデス。」
 「そう・・・ほんのちょっとでいいから・・・夢を見させてくれよ・・・」
 「し、しかし、セイ!? 誤解だ! 俺は・・・俺は・・・うわああああぁぁ!!!」

 「どうしたもんかねえ・・・これ・・・」
 フェニックスホークのコクピットで、クライバーンがマディックの窮状を見ていた。なんだかかなり投げやりである。
 「・・・基地に帰ったマディック大尉・・・ユミナさんにぎゅうぎゅうに絞られる事になりそうだな。冥福を祈っとくか。」
 ジャミングがと切れ、パエトン基地がクリタの本隊に襲われた事を彼らが知るまでの・・・ほんのひとときの、平和な光景であった。