ヘスティア攻防戦−第五話『二日目』作:リオン、ミッキー

クリタ軍によるヘスティア占拠2日目
11月6日 AM9:30 ヘスティア市外 仮設宇宙港

 轟音と共に仮設の宇宙港に影が降りてくる。
 藤果中隊所属ユニオン級降下船「ザムジード」だ。
 ザムジードは滑走路の一番南、町や基地の建物から一番遠いところに窮屈そうに着陸する。
 ヘスティア基地は町の惑星軍駐屯地を、急遽拡張した基地だ。当然ながら、滑走路も畑を地ならしして申し訳程度にフェロクリートで舗装しただけの貧弱なものである。万一のための緊急時用、それも、通常型航空機用でしかなかった。間違っても降下船が下りれるような設備ではない。

 ところが、ここ一ヶ月ちょっとは、頻繁に降下船が発着するようになった。
 ここのところ、ずっと拡張工事が続いていたとはいえ、あくまでだだの空港の滑走路でしかないところに、レパード級降下船がなんども発着していたのだ。
 町の住民達は不安がっていた。
 発着の時に出る凄まじい騒音程度ならまだしも、噴射炎による熱風(というより衝撃波)や、核パルスエンジンから排出される放射能・・・普通ならごく微量だが、戦闘でエンジンが破損したりすれば駄々漏れになる可能性がある・・・といった恐ろしい想像が、彼らを不安にしていたのだ。
 さらに、多数のバトルメックがヘスティア基地を補給拠点として活動し始める。ヘスティアの住人達は、不安を募らせていった。

 そしてクリタに占領され、眠れぬ夜を過ごした次の日。ヘスティアの住民達は、体を貫く轟音に不安な顔で窓から外を覗き、つぶやいた。
 「山が振ってきた!?」

 カウツVのような人口密度の薄い惑星は、土地が有り余っているため、背の高い建物を作る必要が無い。大抵の建物が平屋だ。
 ヘスティアで一番高い建物は樹炭工場と火力発電所だった。2ヶ月前に、それをしのぐ高さの建物が急造された。ヘスティア駐屯地に作られた、高さ20mのメックハンガーだ。
 今日、天から降ってきたユニオン級降下船は、実にその4倍の高さをほこる78m。彼らにしてみれば、「山のように大きな鉄と武器の固まりが天から降ってきた」ようにしか見えない。
 彼らは圧倒され、僅かに残っていた反抗の精神すらずたずたに切り裂かれたのである。

 ザムジードのメックベイから、何機かのメックが降りてくる。
 殆どは民生機に見えるが、バトルメックも混ざっている。
 その中の1機、ウルヴァリーンの改装機が敬礼して、待機していたノズチに通信を入れる。
 「四郎太・古森中尉、フロイ・シュターゼン以下メック隊、只今到着いたしました」
 「ああ、了解した。藤果大尉にも伝えておく。それよりフロイ、ヴェノムの調子は・・」
 「は、大丈夫であります中尉、完全に修理は完了しております」
 「それなら良かった。この次は激戦になる、不調の機体で出撃してお前に戦死されても困るからな」
 「は、中尉。御気遣いありがとうございます」
 その様子をみて四郎太は苦笑する。
 『・・全く、こういうときには私事の入る余地が無いからな、フロイの奴。まあ、それがあいつの良いところでもあるんだが・・』

同日 AM11:10 ヘスティア市内 藤果中隊仮設基地 執務室

 「参ったわね、予定外だわ」
 報告に来た刀葉に藤果が愚痴をこぼす。
 「なにがでしょう、大尉」
 「白田達よ、パエトンを落とせず、その上部隊の半数近くを失ったそうよ」
 「しかし大尉、あなたは『パエトンは落ちない』との仮定の上で計画を立てられたのでは」
 「被害の問題よ、あたしの予定では例え落とせなくても半数・・傭兵部隊も1中隊ぐらいは潰されてる予定だったのよ」
 「?パエトンの守備隊は1中隊では・・」
 「パエトンの方じゃないわ、そちらでは4機ほど落としてるそうだから、最悪の仮定で済んでいるの。問題は囮部隊の方よ」
 「囮部隊・・確か我田中尉とホフ中尉の部隊でしたな、1個小隊を民生機1個大隊で潰す・・いくらなんでも負けるはずが無いのでは」
 「・・負けたのよ、どうやったかは知らないけど、あの布陣でどうやって1機しか潰せないのよ、全く」
 苦虫を噛み潰したような顔をして藤果が呟く、それをみて刀葉は事の次第を理解した。
 確かに愚痴りたい気分だろう、予定していた策を大幅に練り直さなくてはいけないのだから。
 「それにパエトンの部隊も1小隊増えていたそうだし、参ったわ、もっと情報を集めないと・・」
 
同日 PM1:10 ヘスティア市内 藤果中隊仮設基地 メックハンガー

 「大尉、約束どうり我々に例の品を引き渡してくれるかね」
 「ええ、Mr九龍(クリュウ)、こちらに用意がしてありますわ」
 DESTの士官が案内されたところはメックハンガー、そこは4機のメックの搬出の準備が整っていた。
 「フム、これは何かね」
 「引き渡す予定のBR兵器はこれら改造民生機に取り付けてあります、このままお渡ししてもよろしいですし、BR兵器だけ取り外してお渡ししても構いませんわ」
 「そうか。まあそれは改造民生機とやらの性能次第で決めさせてもらおう」
 「ええ、性能の方は保証いたしますわ、これら4機はほぼバトルメックと遜色ありませんから、詳しくは技官に説明をさせますので・・」

同日 PM5:30 ヘスティア市内 藤果中隊仮設基地 執務室

 「よう藤果、例の件は終ったか」
 銅鑼右ェ門が加奈子に話し掛ける。
 「ええ、都市戦闘の情報隠蔽は九龍少尉も了承してくれたわ。あとはDESTに任せておけば大丈夫よ」
 「しかしなあ、RFシリーズまで引き渡すのは・・」
 「仕方ないわ、このぐらいは覚悟していたもの、それにこうでもしなきゃ彼らは動いてくれないわ」
 「済まん」
 「・・いいわよウピエル、気にしなくても。それに今回はDESTにパイプができただけでも良しと思わなきゃね、彼等の信頼を得られるなら、あたしたちの立場も一層確かなものになるわ、いまはそっちが先決よ、そのためには多少の犠牲は付き物だわ」
 「奴等のようにかい」
 笑いながら銅鑼右ェ門が応じる。
 苦笑して加奈子も答える。
 「あれは不幸な事故よ、事故。でもあなたも十分楽しんだみたいね」
 「はっ、楽しめたもんかい、花島の野郎が要らん口を入れやがったおかげでな」
 苦々しげに言い放つ銅鑼右ェ門に加奈子は笑っていう。
 「あはは、ウピエル、『名誉の戦死』をした彼の悪口は言うものじゃないわ、襤褸が出るわよ」