『ケパロス探索2』  戻る トップへ


『遠吠え』  作:皮肉屋 改定:ミッキー

<11月3日午前 魔界盆地ケパロス方面密林>

 私に預けられた部隊の機材は悪くない。重量級60トンのおんぼろムドーを筆頭に40トン中量級の・・・これまたおんぼろなフグが1機。さらにあまりの老朽化によって武装などの部品を取り外された状態でかろうじて動くザコ・・・こいつらはいまでは21トンしかない・・・が2機。あとは歩兵やわずかな技術者など数十人となっている。これらのメックは試作段階かそれに近いほどの製造初期に建造されたものらしい。多分プロトタイプに近いんじゃないかという見解の技術者もいるらしい。そんな機体な物だから、とうぜんかなり使い込まれている。幾度も手ひどい損傷を受けながらも修理(や応急修理)を繰り返してドラコ軍と戦い続け、機体の限界がすでに訪れたというしろものらしい。そしてスクラップにされるために後方に戻されたところが書類の間違いか解体されず、そのうち核が投下されたという曰く付きだ。機体各部の損傷から来る欠陥から戦闘にはまず使えないとされ、遺跡探索任務のこちらに回された。情けないことにムドー以外は武装がない。遥か昔に火器を取り外され、再起動された現在も取り付けられる事はなかった。止めにムドー以外は分析装置の類や生命維持装置に火器管制装置まで無い。まあしかし、作業用重機と考えれば頼もしい限りだ。これらに搭乗するメック戦士(プロトタイプのおんぼろメックだろうが戦闘用のメックに乗っている以上彼等は主張している)は新米で優秀な部類ではないが、発掘という地道で気が滅入るような作業に向いた忍耐強い面子だ。彼等はしきりにパエトン攻略戦に参加できない不運を嘆いていたのを覚えている。

 彼等とその愛機達は暫らくは道を切り開く以外出番が無い。遺跡自体を発見するまでは私達の仕事だ。最も優先されるべきはメックハッチの発見であり、その中に眠るであろう混成連隊を組織し得る装備の確保だ。その為に必要なら土砂を取り除き、罠の類が確認されなければハッチを抉じ開け、宝の山を掻き分ける事こそ彼等に期待する仕事だ。

だがその巨体と巻き起こすであろう騒音をはじめとして、排熱や磁場、電波などが問題であった。これらは私たちが存在する事を惑星軍に声高に叫ぶ事となる。ダヴィオンに私達の存在を悟られぬ為にも彼等はその役目が訪れるまで息を潜めてみつからないように進軍しなくてはならない。私達は上空の監視を避ける為に夜間と空を雲が覆う時のみ移動できる。昨日より空を覆う雲は雨を降らすでもなく私達を気圏戦闘機や偵察衛星の監視から守っており、この加護は4日まで消えないらしい。上手くすれば雲が切れぬ間にケパロスの探索と発掘に理想的な場所にキャンプを張れるだろう。

 その時私は先頭に立ち道を切り開きながら進んでいた。しかし、私は兎も角として部下達にはこの道程が厳しいらしい。メックが先に進んで多少は道がふみかためられているし荷物の大半はザコやフグが持ってくれているので身軽だというのに全く根気の無い連中だ。
 「ここで小休止。メックの偽装を忘れるなよ。」
疲労の濃い部下の顔を見かねて小休止の号令(命令?)を出す。
 へたり込む徒歩組は愚かメック戦士までハッチを開け放っている。
 「大分疲れているようだな。この程度でも音を上げる様では森で生きていけないぞ?」
 仁王立ちでへたり込む連中に言ってやる。

 「「「 誰もこんな所で暮らすつもりはありません!! 」」」

 事もあろうに奴等の返事はこれだ。こんな時だけ息が合いやがる。全く情けない。
 メックに偽装シートをかぶせながらメック戦士どもも賛意を示している。生命維持装置に守られた操縦席の中は一応快適に考えられている。しかし、交換部品が枯渇し、整備する技術者が不足している現代である。そのシステムは「異環境で人が死なない」程度の効果しか無く、ましてや民生型で生命維持装置が取り外されている機体とあれば生存には適していないだろう。例外に連盟期の遺産を使っていれば非常に快適らしい。珠理少佐や藤果大尉の機体にはウルトラエアコンなる物が搭載され通常の3倍の快適さを誇るらしい。何やら人を舐めたような話だが世の中はこんなものだ。お偉いさんに常識など期待する事自体が間違っている。
「まだ予定距離の6割だぞ。これでは残りの道程が消化できんかもな。」
 思わず溜息が出てしまう。まあ、こそこそしながらの移動は必要以上に時間を喰うからな。
「強行軍で悪いが夜になる頃にはキャンプで休める。それまでは我慢してくれ。」
 私の言葉に今度は連中が溜息をついている。まあ、ゆっくりしてくれ。まだ先は長いから。

  <11月3日午後7時ケパロス方面ドラコ軍キャンプ地>

 結局予定の道程を進めなかった。途中でプロトムドーが何度も機能を停止したからだった。どうやら、搭載されている粒子砲にエネルギーを喰われるらしい。「そんな粒子砲捨ててしまえ!」と幾度となく命じたものだが、その度に「粒子砲へのエネルギーチューブが固定されています、これが無ければ機体は動きません。」と返された。昔の技術者は何を考えてたんだろうね、こんなろくでもない改造をするなんて。
というか、ほんとに機能停止するんだろうか? 今度の任務に必要が無くても、しばしば機能停止するとしても、武装が有るのとないのとではメックとしての価値というものに影響を与える。だから、そういった嘘をムドーのメックウォリアーがついているとしたら・・・
 ま今回は大目に見てやるか・・・? いざというときのために仕える戦力は強いほうがいいかも知れんし。
 しかしそうなると、別の心配が出てくるな・・・ろくでもないガラクタを配属する辺り、あの爺さんは私達に死んで欲しいのだろうか。まあ、戦闘に使える機体は私達には本来必要無いが・・・基地の防衛機能が生きていたらどうするのだ? 自動反撃砲台とかが生き残っていたら一瞬で全滅しそうな気がする。そうなったら・・・対人兵器を無効化できる人員は一人しかおらず腕もいまいちでしかないからお手上げだろうな・・・

 何所の軍でも携帯食は美味くない。実際には美味い軍隊もあるだろうが一般的には固くそう信仰されている。レーションを温めるだけなのだから当たり前と言えば当たり前だが今日ばかりは美味く感じられる。18時間の強行軍はそれに貢献していないだろう。何故なら単に美味いものがでたからだ。担当の軍曹に聞けば、どうやら間違ってカウツ特産の鯨の缶詰を渡してくれた馬鹿がいるらしい。すぐに気が付いたものの特に困る訳では無いのでそのまま持ってきたそうだ。かくして当分は鯨肉入りシチューが定番となった。

 何やら騒がしいと思えば、シチュー鍋を載せたホットプレートの周りで会話に花を咲かせているようだ。メック戦士も彼等だけで固まらず、他の連中とも会話している。まあ、いい傾向だと思う。士官と兵士の対立などは両者の不理解と誤解から来るものだ。少佐が選ばれた士官たちは兵士達と上手く付きあえているようだ。この点は少佐の人選には感謝せねばならないだろう。腕が立つが兵士達を見下すような奴はこの手の仕事に向かない。
 そうこうする間に彼等の会話は佳境を迎えているようだ。何処の惑星で生まれたか、軍に入る前は何をしていたか、何故この惑星に来るような事になったか、彼等はそんな事を語り合っている。

 私は小さく呟いた。
 何故此処にいるのか? それは簡単な事だ。

「何処にもサムライなんていなかったからさ。」

 

 

『穴掘り』  作:皮肉屋 改定:ミッキー 戻る トップへ
  <11月5日>

 少佐が用意した資料はこの上なく詳細で正確だった。当初、我が軍がローストマンより得た情報で座標は取り敢えず特定できた。だが、実際の地理には全く参考になり得なかったのだ。過去の幕辺大佐の核兵器使用により当該地形の変化が甚だしく、過去の情報は役に立たない。衛星軌道や航空機からの偵察を行っても、地上施設は吹き飛んでいるため効果は薄い。
 これらのことから、ケパロス遺跡の発見は両軍にとって困難を極めるであろうと予想されていた。だが、少佐は惑星政府に管理されない住民達を懐柔し当該地形の情報を引き出したのだ。ホフ中尉の略奪行為を考えれば情報を引き出すにはどれ程の困難と忍耐が必要とされたのだろう?
 いや、それ以前に、魔界盆地近くはカウツVの住人にとって禁忌の場所だ。詳しい情報を知るものの絶対数が少ないはずなのだ。核で殺された者達の亡霊やミュータントが、魔界盆地を囲む外輪山を越えてやってくると信じられている。実際、魔界盆地を囲む密林に作られた開拓村は、しばしば全滅したという記録もあるらしい。どれだけ信用できるのかはわからないが。それなのに、これだけ詳しい情報が調べられている。恐らくローストマンの発掘開始より少しして彼等の説得にかかった筈だ。彼等を宥め注意深く説得し、多くの食料・医薬品等の物資を提供する事で成功したらしい。

 昨日の間に与えられた地形図を元に、様々な探査を行い、それらしき場所を複数特定した私達は日の出と共に行動を開始した。今一度有望そうな地点を重点的に調査し、その候補を3箇所までに絞る事が出来た。

 今頃は、パエトン、ヘスティアに民生機を中心とした部隊が襲撃をかけているだろう。この戦闘によりダヴィオンの注意がこちらに向く事はない。例え、気付かれたとしても戦力の再建には双方とも長い時間を費やす事になり、手を出す余裕などは無くなる。お陰で私達はケパロスの発掘に専念できる。今はヘスティア攻略に参加しているらしいDEST部隊もしばらくすればこちらに着くだろう。少佐は事の如何に関わらず増員を送ってくれると約束してくれている。技術者と共に、護衛兼作業用の民生メックを2小隊ほど送ってくれるらしい。

 私達は民生メックを用い最有力候補のC地点の土砂を除け始めた。

  <11月7日午後3時>
 最有力とされたC地点は予想を外れ、その場所には有り余る装備も無く見渡すかぎりの民生機の格納庫もなかった。どうやら即席の補修施設だったらしく、明らかに手抜きで作られた整備台にただ一機のみの機体しか存在しなかった。この機体は遠目にPPCとパンツァーファウストSRMの搭載が見て取れた。通路は完全に潰れておりこの場所からこれ以上の進展は望めないだろう。

 私は当てが外れ思わず溜息が出てしまった。薄闇の中に見える機体が民生メックでなくバトルメックだとしても如何したものだろう? 今や、私達が主力とするのは精鋭が乗るバトルメックではない。新兵達が操る民生メックだ。真に私達に望まれるのはより強力でより多数の民生メックだ。そう。極少数のバトルメックでは決してない。それらは言わば重要局面で投入される予備戦力なのだ。

 私は最有力候補が空振りに終わわなかっただけでも増しであると自分を勇気づけた。取り敢えずの成果はあったのである。仮ハンガーで方針会議を開く事にした。この時、「野営地を捨てこの場所を拠点にする」との意見が出た。その後、部隊の規模が増えるに従い地上のキャンプを拡大する労力が有るなら、「遺跡内を早急に探索し利用可能にする」との方針が纏まった。また、発見された機体はどうやらバトルメックらしく、そのレストアを行う事と相成った。

 <11月10日>

 C地点の探索から3日が経過した。あれから状況は遅々として進んでいない。第2候補のG地点の探索には未だ到っていない。地盤が脆くなっており補強作業を行いながらの土砂撤去となっていた。その時私達は自分達が土竜になった気がしただろう。ようやく掘り抜けたのが正午だ。皮肉な事にC地点に鎮座していたバトルメックのレストアは順調に進み10日中に完動状態となると思われる。

私はメックハッチであろう空間と私達を隔てる巨大なシャッターを調べていた。

 「取り敢えず、トラップは死んでいるな。電源も入ってない事だし・・・開けるか。それから総員退避だ。」

この手の作業は本来私以外のDESTが担当する筈だった。だが奴等は作戦行動の処理とやらで遅れているらしい。自然、星間連盟の仕掛けを弄れるのは私だけになる。巨大なクレーターができるほどの核攻撃の余波で、トラップの大部分が死んでいたのはありがたい。全てのトラップが生きていたら、10回死んでもまだ足りなかったのではないかと思う。
 「少尉殿の呼吸器であります。お使い下さい。」
 扉から離れる際に呼吸器とエアボンベを手渡される。軍用だが何処の惑星でも手に入る品だ。
 「ああ、すまんな。しかし此処もあれを使っているのかな?」
 「恐らくそうでしょう。」
 ローストマンではどうやらメックの保存用にヘリウムガスを使用していたらしいが、すでにほとんど抜け出ていた。アイアースでは未だ健在だったそうだが笑い事で済んだらしい。どちらにせよ用心に損は無い。

 「めーでーめーでー。こちらムドー、シャッターを開放します。」
 「OK。ムドー、開放してください。」

 そのやり取りの直後にムドーがシャッターを引き裂く轟音が鳴り響いた。しかし、予想されていたガスは一向に噴出してこない。状況を確認した通信士がすぐさま報告を求める。ムドーには随行した機体の中で唯一各種分析装置が装備されており、このような局面では非常に頼りになるからだ。

 「ムドー、応答を願いします。ムドー?」
 「こちらムドー、こちらムドー、ついにメック倉庫を発見しました。結構な数があるようです。どうぞ?」
 「ムドー、大気の分析をはじめてください。」
 「了解、分析開始、分析開始。」

・・・・・・・・・・・・・・

 「こちらムドー、ヘリウムは少量しか検出されなかった。繰り返す、ヘリウムは検出されなかった。なお、大気組成に酸素は極微量です。濃厚な二酸化炭素を確認。どうぞ?」
 最悪だ。酸欠地獄の上に二酸化炭素ときている。入ったら全滅じゃないか。二酸化炭素は重い分低い所に溜まる。基地の最下層に儲けてあるメック倉庫から、自然に流れ出てくれることはない。ヘリウムなら自然に抜け出てくれるというのに・・・すぐさま調べたいがまずは空調をどうにかすべきか?
 ・・・まともな技術者が一人ではどうもできんな。仕方ない。じゃあ、あっちのほうを確認しておくか。私は不安に駆られたまま通信機を借りる。
 「こちらエイボン、卵の中身は腐ってないか?」
 「こちらムドー、確認できる限りでは問題がありません。目視では8機まで確認できます。施設の規模から大隊クラスの数は有りそうです。より詳しい事を調べるなら、倉庫内の自動防衛システムなどの心配が有りますが・・・どういたしましょう?」
 「了解した。引き返してくれ。」
 さあ、どうするべきか? かなりの規模のようだが生身で入ることはできない。あのあたりの電源は死んでいたから、元から有る換気装置に期待することもできないだろう。かといって、トラップの電源が別系統である可能性を考えると迂闊に踏み込むこともできない。邪魔な呼吸器込みでは、トラップの探査&解除なんていうぎりぎりまでの緊張を強いる作業なんぞまともにできるはずがない。これでは修理はおろか発掘品の確認もできない。
 せっかく見つけたのに中に入れないとは・・・何しに此処まで来たんだ、私達は? 餓鬼の使いじゃないんだぞ。しょうがない、とにかく、有り合わせのものでもなんでもいいから、換気装置を作らせるか? しかし、今手元に確保している技術者達ではたいしたことは出来そうに無い。
 
 私は深く考え込んだ。どうにか上手い手はないものかと。その時・・・まるで天啓のように素晴らしい考えがひらめいた。あるじゃないか、技術者を確保する方法が!

11月10日夕刻

 突貫作業で行ったアレスの再起動が終わった。問題なく稼動する。さっそくムドーのメックウォリアーに頼んでヘスティアに運んでもらうとしよう。このアレスというバトルメックは、ムドーの原型機らしく、操縦特性やコクピットのレイアウトが似ている。しかも、さらに好都合なことに主武装が粒子砲である点までオンボロムドーに良く似ている。これなら、機種転換訓練も要らない。すぐに乗りこなせる。何とか連邦との決戦が始まるまでにヘスティアまで届けてくれるだろう。
 これで、ちゃんと仕事をしたと認識してもらえたら、テックなんかの増援を回してもらえるかもしれない。
 とにかく、今の状況では、これ以上の探索は効率が悪すぎる。増援がどうしても必要なのだ。その事を訴えた嘆願書を持たせてやった。頼むから、もうちょっと技術者をくれ!

 

『アレス到着』 作:MT.fuji 戻る トップへ

惑星カウツV ヘスティアの町南方の架設宇宙港に着陸したユニオン級降下船ザムジード内にて。

 「お呼びですか、白田司令。」
 「うむ・・・が、その呼び方は止めてくれ。儂はまだ一介の少佐にすぎん。お前さんとは同じ階級なんじゃからな。」
 苦笑して珠理少佐に応えた白田少佐だったが、珠理少佐は上位の相手に対する立場を崩さなかった。もちろん、白田少佐が本来なら大佐の階級を得ているはずの人物であるという事もある(辞令の到着が遅れている為に未だ表向きは少佐のままなのだが)。が、同時に命令系統をきっちりと確立しておかねば、勝てる戦も勝てなくなるという事もあった。
船頭多くして船、山に登る。この格言ではないが、普段の態度はふとした拍子に表に出てしまう。自分が日常から誰を最上位にあるか意識した行動を取れば、それは下の者への示しとなるだろう。珠理少佐にはそうした考えもあった。
白田少佐も珠理少佐の態度からその意志を感じ取ったのだろう。それ以上は何も言わず、傍らの書類を珠理少佐に差し出した。
 「???白田司令、これは・・・!?」
 「DMU−4A、ドゥーム。ケバロス基地から発掘された純粋な重量級バトルメックじゃ。お前さんにはこいつに乗ってもらう。」
 「・・・しかし、私にはザコS型がありますが・・・あれもバトルメックですが。」
 珠理少佐がこう言ったのは乗り換えが嫌だった為ではない。むしろ嬉しい。
 だが、いかにバトルメックとはいえ、軽量級であるザコSを上手く使うにはコツがいる。誰にでも戦場で活躍させる事が出来る機体ではないのだ。彼女の言葉にはそういう事もあったのだが。
 「生憎ながら、今の我々にはお前さんのような最精鋭の人材を軽量級に乗せとく程の余裕はない。いかに優秀なメックとはいえ、ザコS型は所詮軽量級じゃ。・・・もし、お前さんがこのドゥームに乗っておったら・・・果たしてあの傭兵部隊の本拠地攻略戦で撤退の必要があったのはどちらじゃったかな・・・?」
 言われて珠理少佐も思い出した。あの時、改造マローダーの攻撃に自分は撤退せざるをえなかった。腕では自分が圧倒していたものの、自機の頑丈さを信じ、静止行動を取って、とにかく命中率を稼ぐ行動を取られた時、75トンと30トンという耐久力の差が如実に出てしまったのだ。
 改めて、珠理少佐は乗り換えの辞令に添付されたドゥームの性能を記した用紙に目を落とした。そこには写真も添付してあった。

DMU−4A ドゥーム
重量60トン
通常速度54.2km/h、走行時85.4km/h、ジャンプ能力なし
装甲重量11トン
武装
ローズライト荷電粒子砲1門(右腕部装備)
シュツルムファウスト6連短距離ミサイルランチャー1基(右胴部装備)
フラッシュライト中口径レーザー砲3門(左胴部装備)
弾薬(短距離ミサイル)1トン分(胴中央部装備)
追加放熱器数:+4・・・

それは民生機ムドーの上位機種としての姿と力を有していた(注1)。
しばらく考えて・・・珠理少佐は心の内で頷いた。この際使えるものは何でも使わせてもらおう・・・いずれにしろ機体性能の向上が願ったりなのには変わらないのだ。
 「分かりました、ありがたく使わせて頂きます」
 「うむ・・・ザコS型はとりあえずホフ中尉が使用する事になる。ドゥームを受領次第引渡し作業を進めてくれ。」
 「ホフ中尉、ですか・・・」
 内心、彼への心境が表に出たのだろう。白田少佐は宥めるように言った。
 「まあ、言いたい事はあるだろうが、ここは抑えてくれ。・・・敵の大攻勢が近づいておる。見ればわかるじゃろうが。」
 ぼそり、と言われた言葉に珠理少佐は顔が引き締まるのを感じざるをえなかった。
 「確かに、そうですね・・・」
 「うむ・・・まあ、このままでは我々が全ての遺失基地を保有する事になるからのう。惑星軍も必死じゃ。惑星軍からも可能な限り多数の民生メックが出てくるだけでなく、数千の歩兵部隊や傭兵どものバトルメックも集結を始めとる。前の時のような数で押す戦いはまず無理そうじゃ。」
 「となると・・・後は質、ですね。」
 「そう・・・そのような状況下で、お前さんを軽量級に乗せておく余裕も、性格を理由にアレコレ言っておる余裕もないんじゃよ。」
 「了解しました・・・それで敵の、恒星連邦側の侵攻はいつ頃?」
 「早ければ、数日以内、じゃ。連中も早くせねばこちらの防御施設がより堅固なものとなっていくだけではない。折角掘り出したアイアース基地まで我々の手に落ちるのじゃ。早々、余裕を持ってもおれまいよ。」
その言葉が真実となったのは、11月15日の事だった。

(注1)
この機体のイメージはリックドムU(ツヴァイ)に赤いドムのビームバズーカを持たせたものです。短距離ミサイルは会社名に採用している通り、シュツルムファウストの代わりだと思ってください。