『指揮官の決断』 作:Coo 戻る
「本当か?それは」
・・ギリアム少尉が立ち上がろうとしてバランスを崩した。慌てて駆け寄ろうとしたが手で制された。
どうやら、怪我は完治していないらしい。
「報告を続けてくれ」
「はい、ヘスティア基地の警備を担当する歩兵部門と・・・基地の物理的警備態勢・防御態勢を担当するべき設営・敷設部門との間には根の深い確執がある様です。原因は・・・先だって我が方の工作がその一因にこそなったのかも知れませんが、それ以前から何らかの軋轢を抱えていたと判断できる形跡が見られました。」
「成る程、そう言う事か・・・」
本作戦の指揮官を務めるギリアム少尉にはどうしても拭い切れない疑問があった。
それは敵の防御態勢の余りの杜撰さだった。
これまでに調べた結果だと、損傷した基地の外壁は必ずしも補修されてはおらず(勿論歩哨の配置替えで容易にカバーが可能な小規模かつ重要ならざるエリアばかりであったが)しかもそのポイントへの人員配置や新規のシステムの設置は行われていないと言うのだ。
しかも基地内での警備は同じエリアを2種類の編成が重複して行っているかと思えばどちらも手をつけていない地点があると言った、エリア管理を無視した体制で実施していたのだ。
まるで基地内を自由に通行してくれと言わんばかりの杜撰さだったのだ。
だがこの情報でそれらの愚行が周到陰険なる罠であると言う可能性は大幅に減少した。
ギリアム少尉は踏ん切りを付けた。
・・・中佐に作戦仕様書を提出しよう。
「ご苦労だった、引き続き任務に就いてくれ」
部下は無言で踵を返す。
中佐がこの様な「装甲戦力との連携が存在しない作戦」では殆どの場合修正を指示しないと言う事をよく知っていた。
『当分眠る事は出来そうにないか』
そう考えながら少尉は検討に着手した。
処理すべき情報・作業量は膨大であり、かつ急を要し、その一方で体は本調子にほど遠く、鈍い痛みは休息を求めていた。
だが、気力は充実していた。
この段階における僅かな失敗も部下の死と言う形でのみ贖われるのだと言う事を知っているからだった。
指揮官の戦場はこの段階で始まっていたのだ。
『最終試験』 作:Coo
ヘスティア基地よりそう離れていない森の中で、数人の男達が忙しなく動いていた。
あるものはスキマーをドラコ軍カラーに塗りなおし、また別のものは今回の任務で一番重要なものを点検をしている。今回の作戦は絶対にミスは許されない・・・
辺りは完全に闇に閉ざされつつある。
「ウツホ軍曹、時間です」
「解っている」
クラークの傍らにいたウツホ軍曹が答えた。そして無言で右手を振った。
それが合図となり彼らは行動を開始した。
今回の偵察小隊スキマー分隊ウツホ班の任務はドラコ軍駐屯地ヘスティア基地に駐留している敵メック部隊などに対しての破壊工作である。
また、これとは別にもう一つやらねばならぬ事がある。
それはクラーク・エアハルトのナイトストーカー入隊の最終試験である。これは今まで学んできた事を実際に試し、ナイトストーカーに入るだけの実力が有るかを試すものである。もちろん、試験と言っても実戦である事に変わりは無い。失敗は死につながる。
この試験方法は、今から約千年以上前に存在したアメリカという国の陸軍特殊部隊が実際に行なっていたらしい。
・・・やっとここまでこれたな。クラークは心の中でそうつぶやいた。まったく、ここまで来るのにどれだけ苦労してきた事か・・・まあそんなことは置いておくとして・・・。ここからが腕の見せ所だ。
これに合格すれば晴れてナイトストーカーに入隊できるのだ・・・なんとしても作戦を成功させてみせる!クラークはそう思いつつ作戦に参加するのであった。
ウツホ軍曹はこんな事を考えていた。入隊志願者・・・か。まあ、今までの訓練を見る限りではそれなりの動きは見せていたことだが・・・最終的な判断を下すのはロックウッド少尉とクロフォード中佐だろうが・・・この作戦の結果次第だろうがな。まあ、がんばれよクラーク伍長。
そして彼らは闇へと消えて行った。ドラコ軍の駐屯地と化しているヘスティアに向かって・・・
彼らは潜んでいた森からそうは離れていない基地の一角に向かっていた。
情報によればその一角は警備が薄く侵入が容易であるとの事であった。
まあ、急造基地であるからその様な『 穴 』がほかにも数ヶ所あるらしい。
脱出時にもこの『 穴 』を使用して撤退する。
対人地雷に注意しつつ彼らは基地の壊れかけた外壁(おそらく前の戦闘でこうなったのだろう)に向かって行った。情報どうり、歩哨は立っていなかった。そして何とかその外壁までたどり着き、侵入を開始した。
崩れかけたコンクリートに触れない様にしながら彼ら4名(クラークを含む)は進んでいき何とか基地内部に侵入した。
全員、通常の夜間戦闘服では無くドラコ軍の一般的な野戦服を身につけていた。
そして、全員の背中に背負ったバックパックの中にはエンドウ中尉より支給されたプラスチック爆弾、C4爆薬が大量に詰まっていた。武装については以前奪ったドラコ軍の制式ライフルを装備し予備の弾装は4つ程携行している。
「よし、ここからは二人一組で行動する。俺とクラーク、アドルファとシグルのペアーで行くぞ」
全員がうなずいた。
そして4人はメック駐留所へ向けて散っていった。
『工作開始』
ウツホ軍曹とクラーク伍長のペアーは、いかにも「夜間巡回中のドラコ軍歩兵二人組」を装い基地の中にあるメック野外駐留所に接近して行った。アドルファ伍長とシグル伍長のペアーは別の駐留所を目指していた。
今回の作戦で爆薬を仕掛ける優先順位は
1・バトルメック及び気圏戦闘機
2・重量級民生メック
3・中軽量級民生メック
4・基地防衛設備
5・その他通常兵器と、なっている。
そんな事を考えながら歩いているともうメック駐留所の前に来ていた。
・・・いよいよか。いまさら考えても仕方が無い。今、自分に出来ることを悔いの無いようにやるだけだな・・・。クラークはそんなことを考えていた。
一瞥したところ駐留所内には歩哨が少数ながら配備されているが、この程度なら問題無いだろう。
技術者の姿は見えなかった。
おそらく、ここに置いてあるメックは修理や日常点検が終わった物だろう。
歩哨達は駐留所内に入ってきた新参者に注意を払わずに警戒任務あたっていた。
どうせ、ただの巡回だろうと思っているに違いない。
こいつは楽勝だな・・・んっ?一番奥にあるのは・・・ライフス中尉が言っていた部隊のヴィクター!
間違いない、あの部隊記章・・・ライフス中尉が教えてくれた物だ・・・。
どうやら俺は運がいいらしいな・・・こんなに早く奴らに復讐できるチャンスが回って来たのだから・・・
そして手筈どうりに、ウツホ軍曹が右側に並んでいるメックの脇を通過していく。クラークは左側に並んでいるメックの脇を通過していく・・・無論、ヴィクターが待機している列だ。
さすがに歩哨がすぐ近くに立っているメックに対して細工をするのは難しい為それ以外のメックに細工を施すことにした。一機のウルヴァリーンの足元を通る時にそいつの脚部装甲の隙間にエンドウ中尉から支給されたC4爆薬を設置した。
こいつはせいぜい粘土か固形燃料に見える。また、科学的に安定しており火をつけても叩いても爆発しない。その為に、この爆薬を爆発させるには電気電管が必要だ。
また、粘りとコシが有るため自由に形状が変えられる。
引火性は通常の火薬と同様に高いが、粉末火薬のように爆発的には燃えず、安定して燃えるので焚き付け代わりにも使える。
色は一般的にクリーム色に近いが着色剤を混ぜることにより簡単に変えることが出来る。
今回は極力、泥などに見えるように着色してある。
そして、もう一つエンドウ中尉から支給されたものがある。
それは特殊な電気電管で、エンドウ中尉の説明によると粒子砲やレーザー兵器のエネルギーに反応して起爆するというもの、らしい。その後、エンドウ中尉からさらに詳しい説明を受けたが・・・あまり理解できなかった。
エンドウ中尉が言うにはこいつをメックの脚駆動装置や武装に仕掛けてくれとのことであった。
うまくいけば駆動装置や武器を破壊できる上に心理効果が得られるとのことであった。
ウツホ軍曹もさりげなくフェニックスホークに接近していき行きC4爆薬を設置していく。
今のところ気ずかれたような気配は無い。
俺ものんびりしていられないな・・・
そしてクラークはヴィクターの足元に来ていた。
周りに歩哨や技術者の姿は無い・・・今がチャンスだな・・・
クラークはそう思いつつ奴の脇に設置してあった足場を登り、砲身と一体化した右腕に爆薬を仕掛けた・・・本来仕掛けるはずの2倍の量の爆薬を・・・。