『演説』  作:ミッキー  戻る

 

11月15日、夜明け前の薄暗い時間。全軍が整列している。ビグルの上には大きな白いスクリーンが設置され、プロジェクターが設置されている。
(ようするに映画館の大画面と同じ)
 クロフォード中佐は、マイクを持ってスクリーンの前に立った。その姿が、背後のスクリーンに大写しされる。今日の決戦のため、カウツV軍の士気を高め、意思統一をするために演説をすのである。
 「諸君、いよいよ今日が決戦だ。我々はこの戦い、何としても勝たねばならない。敵はドラコ連合のクリタ家が送り込んだ非道なるものどもだ! やつらは、200年以上の昔、カウツVの人々が平和に暮しているところに侵略戦争を仕掛けた! 粘り強い抵抗をカウツVの人々が見せると、核兵器の使用と浄水施設の破壊という卑怯卑劣悲惨極まる手段を持って何の罪も無い善良な市民の大量虐殺を行い、環境を破壊し、大量の難民と耕作不能地帯を作り出し、この星系をロストプラネットにと貶めた! まるで、ケンタレスの大虐殺のごとく!」
 クロフォード中佐の言葉と共に、核爆発による巨大な閃光ときのこ曇が映し出され、コンピューターグラフィックでかつてのシギリアが巨大なクレーターへと変わる姿がシミュレーション表示される。さらには、かつてカウツVに存在したあらゆる浄水施設の所在地が示され、位置表示マークが次々に赤く点滅して破壊されていく様子も加わる。それと同時に、シギリアから広がった死の灰による放射能汚染の地域が広がる様も映し出される。横には、これによって死亡したり生活の場を奪われた膨大な人々の数が棒グラフで示される。グラフの伸び率は、目を覆いたくなるほどに急速だった。この場にいる者達全てが、改めてクリタ軍の行った非道を認識した。

 「そして今、ようやっと復興の道を歩み始めているカウツVに対し、クリタは再び侵略の魔の手を伸ばしてきた! その手法は以前といささかもかわりない! 諸君らも見たであろう! 罪も無き林業の村々にて行われた、非道なる振る舞いの証拠の数々を! レイプ、略奪、殺人、放火、拷問!」
 クロフォード中佐の言葉と共に、ナイトストーカーが収拾した様々なクリタ軍の蛮行の証拠が映し出される。正視に耐えないその写真の数々に、この場にいる者達全てが、改めてクリタ軍に対して怒りを募らせた。 

 「諸君、今、あえて私は聞こう! このような非道を振る舞う奴等をそのままにしていいのか!? 否! 否である! 我々は、悪逆なるクリタの奴等に勝たねばならない!」
 「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」」」」
 参列する者達から、うねりのようなどよめきが上がる。クロフォード中佐の言葉に、心からの賛同を送っているのだ。中佐はどよめきが収まるのを待って再び話し出した。
 「私は諸君らに再度聞く! 勝利のためには何でもしていいのか!? 勝利の前にはあらゆる手段が正当化されるのか? 否! 否! そんな侮蔑すべき無法者のやり方は断じて拒否する! アレス条約に反する者どもには罰を下さねばならない! 我々はクリタ軍と同じ汚い勝利など望まない! クリタの奴ばらと同じ存在に自らを貶めたりはけしてしない! そうしてこそ我らの上には栄光の勝利が訪れるのだ! 正義ある勝利こそがわれらの求める輝かしき勝利! 栄光の勝利を! 正義の勝利を! 輝かしき勝利を!!」

 「「「「栄光の勝利を! 正義の勝利を! 輝かしき勝利を!!」」」」
 「われわれは、明日、クリタ軍に勝つ! クリタ軍をヘスティアからたたき出す! 我々はアレス条約を無視し、罪もない林村の住民達を虐殺した悪逆なる者達を倒す! 勝利を! 勝利を! 勝利を! 恒星連邦バンザイ!」
 「「「「勝利を! 勝利を! 勝利を! 恒星連邦バンザイ!」
」」」

 「ようし、総員配置につけ! 勝利のために!」
 「「「「勝利のために!」」」」