『キリングハウス(殺戮の館)』  作:Coo  戻る

 

・・・・あの時の訓練が役に立つ日が来たな・・・

クラークはジープを走らせながら先月おこなった訓練を思い返していた。


パエトン基地からそう離れていない森の中で複数の男達が木の陰に隠れていた。
彼らの目の前には森の中に静かに建つ少し大きめの民家があった。

「こちらウツホ、・・・チェック」

指揮官らしき男が建物からそう離れていない木の陰から呟いた。

「こちらシグル、異常なし」
「アドルファ、OKです」

二人から即座に反応があった。少し遅れて・・・

「ク、クラーク大丈夫です」

少し緊張したクラークの声が入った。

「・・・ウツホからシグルへ」

ウツホはヘルメットに装着したマイクに呼びかけた。

「何か報告事項はあるか?」
「いいえ、ありません」

シグルは即座に答えた。

「クラーク」
「はっ、カーテンが動くのが見えただけで他には何も・・・。聴音装置によれば、室内の人声は三人ないし五人、言葉はダヴィオン語。他に報告することはありません」
「ラジャー」

ウツホは答えて、もう一度室内配置図を頭の中に思い描いた。
作戦に関しては入念なブリーフィングを受けていた。
 突入員は皆、建物内部を目を瞑っても見えるほどに知悉している。
それが解っているウツホは手を上げて行動開始の合図を送った。

シグル伍長が真っ先に扉へと走った。
 扉に着くと同時にスリングに吊っているMP50から手を離して、防弾服についたヒップ・パウチから接着剤付き紐状爆薬を取り出しドア枠にとめ、右上の隅に雷管を押し込んだ。
そしてただちに30cm程右に移動した。
左手に起爆装置を持ち、右手でSMGのグリップを握り銃口を上に向けている。

いけるな・・・

「突入!」

ウツホ軍曹の号令を合図に先頭が木の陰から飛び出したところで、シグル伍長が親指でスイッチを押した。

ドア枠が壊れ、ドアが内部に吹っ飛んだ。
ドアを追って最初の突入員、クラーク伍長が煙を上げている四角い穴の中に消え、そのすぐあとにウツホ軍曹が続いた。

中は真っ暗で、壊れたドアから差し込む光だけが光源だった。
 クラークはさっと室内を見回し、誰もいないことを確認すると右側の部屋の入り口脇に張り付いた。
ウツホ軍曹は突入の勢いを生かして正面の部屋に飛び込んだ。

・・・いた!
攻撃目標が2人、人質が2人。

ウツホ軍曹はMP50を構えるなり、左端の目標に二発撃ちこんだ。
 銃口部に装着されたサプレッサーの為、銃声はほとんど無かった。
弾丸はちょうど目と目の間、顔の中心に二発とも命中した。
命中したのを見て銃身を右に振るとシグルがすでに目標を仕留めていた。

「クリア!」
ウツホ軍曹は声を張り上げた。

「クリア!」
「クリアっ!」
「クリア!」

シグル伍長、そして隣の部屋に突入したクラーク伍長とアドルファ伍長の声が聞こえた。

『状況終了』

スピーカーからギリアム少尉の声が響くと天井のライトがついた。
部屋の中には撃ち殺された犯人や、人質などいない。
 代わりに、赤いTシャツと青いTシャツを着たマネキンが4体程ある。
赤いTシャツのマネキンの頭には真新しい弾痕が刻まれていいた。

最初に突入した部屋に戻ると、クラークが足首を抑えているのが目に入った。

「クラーク、どうかしたのか?」
「あっ、ウツホ軍曹・・・。実は部屋に突入する時に吹き飛ばしたドアにぶつかってしまって・・・」
「なるほど、それで足首を捻ったと言う訳だな」
「はい」

クラークは苦痛で少し顔を歪めながら答えた。

まあ、はじめてにしては良好な結果かな・・・これは・・・突入していきなり転ばなかっただけましか・・・

そう、考えながらウツホ軍曹はクラークとアドルファが突入した部屋のマネキンを見た。
この部屋にも赤と青のTシャツを着たマネキンが2体ずつあった。

攻撃目標である赤いマネキンのどちらにも演習規定通り2発の弾丸が撃ちこまれていた。
 違いがあるとすれば、右側にあるマネキンは左側にあるマネキンと比べて着弾位置にばらつきがある位である。

「よ〜し、空薬夾を拾ったら講評会だ!」

少なくとも、六台のカメラがこの演習を記録しているはずだ。
 それをギリアム少尉が一齣ずつ検証していくのだ。
その後、昼食を挟んで午後からはユニオン級降下船を使用しての突入訓練を行なう予定だ。

「クラーク!、オマエは医務室に行って湿布でも貰ってこい!」
「解りました!」

クラークはそう言うと左足を少し引きずるようにして医務室に向かった。

あれで午後の訓練は大丈夫かな?まあ、たいしたことは無いだろう・・・

そう考えるとウツホは薬夾を拾い始めた。

 『突入訓練』 作:Coo

昼食を摂ってからウツホ班の面々は、ユニオン級降下船『オルトロス』の前にやって来ていた。

「・・・いつ見てもデカイですね〜、降下船てやつは・・・」

 クラークが口を開いた。

「まあな・・・何しろメックを輸送する物だからな、降下船は・・・」

ウツホ軍曹が答えた。

「・・・よし、見学はこれ位にして準備を始めよう」
 『了解』

 全員の声が重なった。

少し時間が経ち、突入班の準備が整いつつあった。

≪第一班、配置完了!≫

 ≪第二班、配置よし≫

≪三班、何時でもいけます≫

 ≪こちら第四班、準備よし≫

ギリアム少尉のヘッドセットに各班からの準備完了の知らせが入る。
 ギリアム少尉はオルトロスから離れた指揮車輛の中にいる。

≪各班、突入準備・・・30秒前・・・≫

少尉はインカムを通じてカウントダウンをスタートした事を各班に伝える。

≪20秒前≫

突入隊員達は銃器の安全装置を解除する。
 隣にいるウツホ軍曹が今まで外していた黒いガスマスクを被った。
ギリアム少尉のカウントが進む。

≪10秒前・・・・9・・・8・・・7・・・6・・・≫

服が擦れ合う音が耳障りに聞こえてきた。

≪・・・4・・・3・・・2・・・1・・・≫

‘‘心地よい緊張‘‘
 クラークはそれを十分に味わった。
あとは、作戦が成功する事を考えていた。

≪・・・ゼロ・・・≫

『突入開始』 作:Coo

四つの黒い影がオルトロスの通路を疾風のように駆け抜けいく。

「ブリッチまでは!」

ウツホ軍曹が走りながら尋ねてきた。
 俺はそれに答えた。

「あと4ブロックです!」
 「よし!」

ブリッチに通じている通路を進んでいると前方から銃撃を浴びせられた。

「敵襲っ!」

クラークはそう叫ぶと床に伏せた。
後ろにいるウツホ軍曹達も床に伏せる。

「クラーク!アドルファ!反撃しろ!」
 「「了解っ!」」

クラークとアドルファ伍長はすぐさま反撃を開始した。

 今回の訓練では非致死製のゴム弾が使用されている。

当たって死ぬ事は無いが・・・・死ぬほど痛い。

俺達は3点射(バーストモード)にセットされたMP50を撃ち返した。

 射撃の感じから相手は2ないし3人であろう。

この演習では弾が命中したら倒れている事になっているが・・・
 当たり所が悪ければ当分の間はのびているだろう。

「がぁっ!」
 「ぐえっ!」

その声が聞こえてくると、銃撃が止んだ。

「・・・こんな遮蔽物が一つも無いところで撃ち合いとは・・・」

 クラークはそう呟いた。

「タイムロスは!?」

 ウツホ軍曹が尋ねてきた。
俺は時計を見て答えた。

「30・・・いえ、40秒です!」
 「よし、まだいける!」

俺達はまた疾走を始めた。

駆け抜けていく足元には唸っているオルトロスの警備兵が2人転がっていた。
・・・・恨むなよ・・・・。

・・・・恨むわよ・・・・。

オルトロスのブリッチでアヤ・ミナハラ大尉はそう考えていた。
 彼女はブリッチで防衛戦の指揮を執っていたものの、突然ブリッチの冷房が切られたのである。
その為、中はさながらサウナのようになっているのである。
何度か復旧させようと試みたが失敗している。

「大尉、やはりダメです。
 どうやら空調施設を制圧されたようです」
「ちっ、しょうがないわね・・・・それより各所の様子はどうなの?」

オペレーターが答える。

 「はっ、融合炉は三分前に敵の手に落ちた模様です」
「メック・ベイでは依然、戦闘が続いていますがこちら側が不利です」
「B−1通路どうした!応答しろ」

 「・・・つまり、絶望的というわけね・・・・・」
「・・・平たく言えばそう言うことです・・・」

副官が答えた。
ミナハラ大尉は溜息をついた。

(・・・やはナイトストーカーが相手ではね・・・・よし!)

「各員、白兵戦用意!敵は恐らくすぐそこまで・・・・」

プシュゥゥゥ・・・

ミナハラ大尉が白兵戦を決断した瞬間、空気が抜けドアが開く音が聞こえた。
 慌てて振り返るとそこには・・・小さな太陽が出現していた。

(えっ?・・・・何!)

ウツホ班はブリッチの前に陣取っていた歩哨をすばやく倒しブリッチの扉に張り付いていた。

「クラーク・・・閃光手榴弾用意・・・」

ウツホ軍曹は小声で俺に告げた。

「・・・閃光手榴弾準備よし・・・」
「よし、・・・3で行くぞ」

俺とウツホ軍曹は安全ピンを抜いてカウントダウンを始めた。

(・・・1・・・2・・・3・・・)

俺とウツホ軍曹が手榴弾を投げ込むのと、ドアが開くのは同時だった。
 彼らが次におこなう事は、必ず来るであろう爆発音を先取りし首をすくめる事だった。
ドア越しにも響くメタリックな大音響がブリッチに響き、続けて目をくらます閃光とこの世の終わりを告げる音響が響いた。

すでに立ち上がっていたクラークはブリッチに飛び込み、続いてウツホ軍曹が飛び込んだ。
 彼らは入るとすぐに左に行った。
右にはシグルとアドルファがいく。

中にはミナハラ大尉とオペレーターが三人、歩哨が四人いた。
 クラークは一番左にいた歩哨に対しMP50を構えて狙い、バーストモードで引き金を絞った。
3発の素早い、致命的銃弾は相手の胴中央に命中した。

すぐあとに続いたウツホ軍曹は、もう一人の歩哨がもやを払うようにして頭を振っているのが目に入った。
 顔はこっちに向いていないが手には銃が握られていた。

 (ルールはルールだ。悪く思うなよ・・・)

ウツホ軍曹はそう心の中で呟くと引き金を引いた。
胴体に3発の銃弾が叩き込まれた。

相手が倒れるのを見るとウツホ軍曹は声を上げた。

「クリア!」

 「クリア!」
「クリアっ!」
 「クリア!」

あとの三人も続いて叫んだ。

「さて、ミナハラ大尉?ここは我々が占拠しました。
 艦内で戦闘を続けている兵士に降伏を勧告していただけますか?」

ウツホ軍曹は銃を突きつけながらミナハラ大尉に言った。

「・・・・解ったわ・・・・」

ミナハラ大尉は頭を抑えながら答えた。
 どうやら閃光手榴弾がこたえているらしい。

その直後、ユニオン級降下船オルトロスはナイトストーカーの手に落ちた。