『レストア』(ヘスティア探索3) 作:ミッキー 戻る トップへ
11月15日
ドラコ連合軍ゲイルダン軍管区ドラゲンスバーグ星系駐留特殊精鋭打分遣隊所属、カウツV侵攻作戦実施部隊出向エイボン少尉 記
ヘスティア探索の命令を受けて半月たつこの日、ようやっと増員が来た。ただし、技術者が一人と運転手が一人というはなはだ情けない増員である。
なめてんのか!?
と怒鳴りつけるのを押さえるのに苦労した。なんでも、先日の攻略作戦失敗で受けたダメージを修理するのに人手が足りないらしい。そんななか、修理の目星がようやっとついたというので、彼を送ってくれたのだそうだ。
メック修理の腕はたいしたことはないが、一般的な機械の扱い全般に通じているテックだそうである。なるほど、メックの修理に技術者が必要だから、あまり者をよこしたわけか。ふむ。とはいえ、必要な一般的な技術の扱いに長けた優秀な技術者だ。彼が陣頭指揮を取ってくれればできる事の幅がぐっと増える。
残る増員もおっつけ来るそうだし、なんとかなるだろう。多分。
同日22時。
最初から同行していた技術者達が作った貧弱な換気装置は見違えるほどしっかりしたものに作りかえられた。明日には倉庫の中に入っても問題なくなるそうだ。実に有り難い。ようやっと先が見えてきたようだ。
酸素マスクを使って進められていた探索もだいぶ進んだ。この倉庫だけでなく、他に3つほど倉庫らしきものがある。だが、長時間中で作業することはできないため、入り口から覗いた程度だ。その他の部屋や通路もしっかりした探索はしていない。空気の入れ替えが終わったら、きちんと調べてみなければ。
しかし、あちこちに転がる骸骨は何とかならんものかな? こんなもので怖じ気づくおれじゃあないが、部下の中には迷信深い新兵もいる。亡霊の呪いがどうのと騒ぐのでローストマン基地に送り返さねばならなかった。
しょうがない、明日にでも、骸骨を集めてきちんと弔ってやるか。そうすれば、弔いを出してやったのだから俺達は感謝されるだろうとか、亡霊はみな成仏しただろうとか、納得させられる。
科学的には意味がないが、そう割り切れる意志の強い人間だけじゃあない。士気の維持は、指揮官の義務だ。多少日程が遅れても仕方ない。
11月16日
葬式の最中に、とんでもない連絡が来た。
ヘスティアでの闘いは敗北、現在撤退中。
骸骨に怖じ気づかないよう経験の長い兵を骸骨回収に回して、通信機の番を新兵に任せたのがまずかった。こんな重要な報告を大声でかけよりながらするなんて・・・機密保持も何もあったものじゃない。
・・・ようやっと士気の低下を防げると思っていたところだったのに、だいなしだ。
・・・まあ、昨日の朝から連絡が止まっていたし、捕虜の返還も14日に行われていたというから、戦闘が始まったのだろう、もしかしたら負けるかもしれないとは思っていたが・・・まさか、1日で陥落するとは思わなかった。都市に立てこもるとか、戦闘を引き伸ばす方法はいくらでもあったろうに・・・何があったんだ?
11月17日
伝令が来た。重要な情報を大量に電波で送るなんてのは危険極まりないから、こういった伝達手段も良く利用される。しかし、どうやってこんなに早くここまで来られたんだ? あの密林の中じゃあスキマーだって通れないだろうに・・・なに、一旦海岸のほうに出て川の上を来たって?
なるほど、その手があったか。
それで、15日の敗北の理由は・・・ビグルとか言う化け物戦車で地雷原を突破された!? 総司令部代わりに使っていたザムジードが乗っ取られて町に撤退できなくなった!? なんてこった・・・とんでもない隠し玉がいたようだな。これじゃあ負けて当然だ。
やれやれ、俺達の任務の重要性が随分と上がった。まいったね・・・
ようやっと探索がきちんと進められるってこの時に、どん底の士気を上げる手段が何もない。
予想通り、部下達のやる気は限りなくゼロに近い。ええい、もっとしゃきっとせんか!
11月18日
倉庫内の棚卸しがようやっと終わった。厳重封印の扉はまだ開いていないが、残る3つの倉庫の探索は終わった。何が、どれだけ、どんな状態で残っているかはわかった。
ここにもやはり連隊規模のメックがあった。
だが、民生メックのほとんどが、かなり劣化しているのには参った。交換部品もかなり駄目になっている。
モスボール状態で保存されるメックを再び実戦で使えるようにする作業は、一般的なテックが一人と助整兵5人がつき、整備機器が完全にそろっている状態で約3日といわれている。
だが、そんないい状態のメックは一機もない。
技術者の話では、3機の部品を合わせて1機レストアするくらいなら何とかなるだろうとのことだった。それ以上の数を修理しようと思ったら、エンジンやジャイロの換装、手足の交換まで含んだ大修理が必要だとのことだ。修理に必要な道具はそろっているが、そこまでの修理をしようと思ったらとんでもない時間がかかるという。
早速レストアを始めさせたが・・・先は暗い。
11月19日
電磁障害に侵されていないデータチップのなかに、当時の状況を記したものがあった。
それによると、ローストマン、ケパロス、アイアースの3つの基地は、首都防衛網の一環として建設され、大規模な戦力が配備された。そのため襲撃されることは少なく、補給や機種転換訓練、新兵訓練を行うといった、後方支援に使われていたらしい。
ローストマンやケパロス遺跡の深部にあるこういったメック倉庫は、予備メックや旧式になったたメックを保管しておくために作られたらしい。必要に応じて、3つの基地に保管されているメックを再起動し、前線に送っていたのだそうだ。
こういった地下構造物は、核攻撃を想定して非常に強固に建造される。だから、首都が核攻撃で消滅したのにもかかわらず、原形を大分とどめている。
もっとも、地上近くの施設はやはり破壊された。
核攻撃を受けたその時、生き残ることができたのは倉庫からメックの搬出作業をしていた数十人のテック達だけだったそうだ。
もっとも、彼らは運がいいとは言えなかった。
生き埋めにされてしまったのだから。
何とかして外に出ようと、崩れた通路の探索をしたり、換気ダクトを復旧しようとしたり、とかなりあがいたらしい。計画と実行結果が記されていたのだ。
最後の希望として取られた方法が、メックを動かして穴を掘るという手段だった。
しかし、この方法もうまくいかなかった。
基地の上に厚く降り注いだ土砂。崩れた基地の構造材が硬くて掘れない場所。掘っても掘っても崩れてくる土。掘った土を捨てる場所の確保の難しさ。ひとかけらもない食料。
モスボール状態にするために、メックの生命維持装置から液体酸素が取り除かれ、保存食も破棄されていた。これさえ通常どおり装備されていたら・・・みな、そう思いながら、餓死していったそうだ。
この地下施設群に酸素がないのは、人間の死体や土砂に含まれたバクテリアが使いきってしまったからじゃあないかと推測されている。それらの仕上げに金属などが酸化して酸素濃度を下げたりしたのかもしれない。
あるいは、この基地では、高価なヘリウムでなく窒素と二酸化炭素を主に使って劣化を防いでいて、常備されていたタンクがあったのかもしれない。テック達の死後にタンクが破損したからガスが充満したわけだ。二酸化炭素はドライアイスとして簡単に保存できるし、液体窒素も比較的扱いが容易だ。充分有り得るだろう。タンクなんて見つからなかったが、どこかに埋まっているのかもしれない。
いずれにせよ、本当のことはわからない。
ありのままの報告を送るだけだ。来てくれた伝令兵に持っていってもらう事にした。
白田少佐は一個大隊の戦力が増えると喜ぶだろうか?
それとも、レストアに時間がかかることに不機嫌になるだろうか?
とにかく、テックを送って欲しいのだが・・・
数日後、我田大尉(昇進したてだそうだ)がやってきた。忙しい白田大佐(昇進したてだそうだ)に変わって視察に来たのだそうだ。
おれは、我田大尉よりも、引き連れて来てくれたDESTのメック小隊とテック達、メックの整備もできる失機者達を歓迎したけどね。一日二日のうちには、さらに多くの部隊が来てくれるという。このうれしい気持ち、わかってくれるだろ?