『我田大尉の災難』  作:ミッキー  戻る トップへ

または『ビーナスエース復活』 

11月下旬
 ケパロス遺跡のメック格納庫では、突貫作業で民生メックの修理が行われてた。比較的簡単な修理は士官学校を出てメックの整備が自分でできる失機者達が。手強い修理については熟練したテック達が、それぞれ助整兵(歩兵を流用)を引き連れて修理している。
 そこに、一人の士官が訪れた。ドラコ連合軍ゲイルダン軍管区ドラゲンスバーグ師団カウツV侵攻作戦実施部隊の中でも白田大佐(昇進したて)と並ぶサムライとして名高い我田大尉(昇進したて)である。50近いにもかかわらず分厚い筋肉で鎧われたその体は、実に若々しい。その上に乗っている顔は、厳めしさの中に包容力を内包した髭の濃い顔だ。
 案内するのは、この基地でレストアに勤しむテック達を束ねる上級テックだ。

 「あ、大尉。視察ですか。レストア中のメックを見るのですね?」
 「うむ。」
 「了解しました。ご案内いたします。」
 向かうのは、ケパロス遺跡最深層にある広大なメック倉庫。そこでは今、突貫作業で民生メックのレストアが進められていた。
 「どうです? なかなかの手際でしょう? 1機か2機程度づつですがレストアの終わっている機種もありますよ。」
 「ふむ、大したもんじゃ。保存状態の悪かったメックを、ここまで急速にレストアするとは。」
 「ええ。保存状態さえよければ、各部の点検と劣化した消耗部品の交換、核融合炉の始動の他はシステムの立ち上げくらいです。しかし、保存状態はかなり悪かったですからね。」
 モスボール状態で保存されるメックを再び実戦で使えるようにする作業。これは通常“再起動”と呼ばれる。再起動にかかる期間は、一般的なテックが一人と助整兵5人がつき、整備機器が完全にそろっている状態で約3日といわれている。しかし再起動ではなく修理になると話しは違ってくる。この基地のメックは、保存状態がいいとは言えなかった。むしろかなり悪かった。こうなるとあちこち修理しなければならない。
 「保存状態がここまで悪かった以上、劣化していない主要部品を他のメックから回収して取り付ける必要がありますからね。手間は桁違いです。そんな中、どの部下もがんばってくれています。誉めてやりませんとねえ。しかし・・・人手と時間がもっとあればなあ・・・」
 「まあ、それはわかっておる。つれてきた増員もいるし、一日二日のうちにはもっと来る。時間稼ぎも任せておけ。」
 「ありがとうございます。」
 「うむ。・・・ほう、中量級が結構あるようじゃな。」
 「ええ。機動性、火力、装甲のバランスが取れたいい機体ばかりです。保存状態が悪いのでレストアできるのが3機に1機程度なのが残念ですが。まあ、予備部品は沢山できますので、これ以上数が減る心配はしなくても大丈夫です。」
 「撃墜されずに基地に戻ってくれば、酷いダメージも直せるということじゃな?」
 「ええ。そうです。しかし、本当に残念ですね。時間さえあればもっとレストアできるのですよ。でも、エンジンやジャイロの換装、手足の交換まで含んだ大修理が必要ですので、3分の1のレストアがせいぜいです。それ以上直すとなると、相当の時間がかかります。」
 「ふむふむ、それでもなかなかのものじゃよ。ん!?」
 我田大尉は突然ぴたりと足を止めた。機嫌良く視察していたはずが、見る見る顔を驚愕に歪ませる。直後、案内していた上級テックに胸座を掴む勢いで問いただした。
 「このピンク迷彩の施されたメックは何じゃ!?」
 「え!? あ、あの、これはビーナスエースという機体でもともとこういうカラーリングだったのですが。砂漠戦に強い機体のようですね。スペックはこちらになります。」
 我田大尉は、悪夢を見るような目でその民生機とスペック表を見た。

BIN−A3 ビーナスエース 総重量:50トン
歩行時MP:4 走行時MP:6 ジャンプMP:4

中枢:10.0トン 民生用/重量倍
エンジン:17.0トン/出力200 民生用・重量倍 放熱7
ジャイロ:2.0トン 民生改造 0.9G〜1.2Gにのみ対応
操縦席:3.0トン  脱出機構に構造的な欠陥。脱出率悪し
ジャンプジェット:2.0トン  左右胴各2
小計:34.0トン 残り16.0トン

武装:
小口径レーザー 頭   0.5トン  
SRM6×2 左右胴  6.0トン
弾薬×2   左右胴  2.0トン

装甲:120点     7.5トン
頭部:8
胴中央:21/5
左右胴:15/5 15/5
左右腕: 8    8
左右脚:15   15

 こだわるならSRMの発射宣言時には『ボインダーミサイル』と叫びつつ必ず2発同時に撃ちましょう!
 また小口径レーザーの発射宣言時には『光子力ビーム』と叫びましょう!
 ビーナスエースなのでアフロダイエースと違い空も飛びます!


 我田大尉の腕が、だらりと下がる。
 ようやっと解放された上級テックは、少しでもその場の雰囲気を和らげようとした。とはいえ、解放されたばかりでとっさにいい話題が見つかるはずも無かった。よせばいいのにビーナスエースを話題にする。
 「あ、みてください。今ミサイル発射筒の保護装甲開閉試験をするところのようです。」

パカ

 ビーナスエースの左右の胸にあるポッコリと盛り上がった丸い装甲が開いた。
 その下には、円形に6本の発射管を配したSRMの姿がある。左右の胸に1門ずつ。
 そのSRMが動いた。

 プルルン♪

 胴体に装備された武装は、照準のために自前のサーボ機構を持っている。この機構のお陰で胴体を直接敵の方向に向けなくても照準をつけることができるのである。であるが・・・
 まるで、フロントホックブラを開くかのような胸部装甲の開閉機構。豊満な乳房がゆれるような動きを見せるSRMの動き。
 その様子は、あまりにもとあるメックを思い起こさせるものであった。我田大尉は、血を吐くような声を絞り出した。
 「まさか! あのアフロディーテとか言う破廉恥メックの親戚か!!」
 関係はない。偶然である。
 「こんなメックにまでおっぱいミサイルをつけるとは、連邦はナニ考えとるんじゃ!!!」
 ※ビーナスエースを作ったのは外世界同盟の技術者である。
 「連邦じゃからか!? 連邦じゃからなのか!?」
 ※たしかにゼウス改をアフロディーテに改修したのはワイルズ博士というダヴィオン人である。しかし、作られたのはライラ共和国である。
 「神聖な闘いを愚弄するようなメックばかり作りおって!!!! ええ〜〜い、こんなメックレストアせんでいいわ〜〜〜!!!!!」
 我田大尉は、絶叫した。
 最初にクレアのアフロディーテのおっぱいミサイルに激怒し、次にセラムンマニアのトップエース、マディック大尉のタキシード仮面にあきれ・・・
 2度あることは3度あるとはいうが、これはあんまりではないか!?
 なぜ、自分がこんな恥ずかしいメックを使う陣営に属さなければならない!?
 そんな思いを込めた絶叫だった。

 なお、我田大尉が放った魂の叫びは、不足している戦力という切実な問題によって無視された。レストアされたビーナスエースは全機実戦配備されたそうである。

 胃痛に悩まされる我田大尉に幸多からん事を。
 (ナンマンダブナンマンダブ)