アイアース基地メック整備棟では忙しくメックの整備作業が続いている。
「OK!止めてください!」
「どんな感じですか曹長?」
「・・・だめね・・・2番と3番・・それに6番のヒューズも飛んでるわね・・・この分だと駆動装置の方にもダメージが・・・」
「はぁぁ・・・どんな機動すればこんなになるんだか・・・」
「ぼやかないの・・・10分で終わらせるわよ!」
「了解! おい整備作業台車を回せ! 10分で終わらせるぞ!」「なあ、エカテリーナ曹長て若いのにすごい腕だよな・・・」
「ん?ああ、シェリル大尉と互角ってところかな?」
「俺達もがんばらないとな・・・」
「ああ、そうだな・・・」
「こら!なにサボってんだ! 手を動かせ!」「エカテリーナ曹長?」
「えっ?」
ゴーグルを外し振り返ると、そこには警備部隊の腕章をつけた兵士が立っていた。
「ギリアム大尉より伝令です。至急、第二ブリーフィング・ルームまで出頭せよとのことです」
彼女は首を傾けながら答えた。
「・・・私、何かまずい事でもしてしまったのでしょうか?」
「さあ・・・自分はただギリアム大尉よりこのことを伝えてくれと言われただけですのでなんとも・・・」
「・・・まあ、行ってみれば解る事ですね・・・ありがとうございました。」
兵士に礼を言い、エカテリーナ曹長は道具を片付け、残っている整備兵に引き継ぎを頼むと第二ブリーフィング・ルームを目指した。
五分後、第二ブリーフィング・ルームの前に到着していた。
「・・・エカテリーナ・ルビンスカヤ士官待遇曹長、入ります!」
彼女はそう声を掛けると扉を開けて中に入った。
中に入るとすでに先客がいた。
真っ先にわかったのは同じ日に着任した気圏戦闘機隊のカーティス・T・フィルフォード准尉と
ゲッツ・E・エゥア准尉の2人であった。
彼らとは道中をともにしたので気心が知れている。
次にわかったのはメック戦士のクラウディア中尉とクライバーン少尉であった。
この部隊に配属されてからこの2人には何かと世話になっている。
そしてこの基地に駐留しているスキマー分隊の隊員であった。
彼らとは偵察活動の報告などで顔を合わすことが多い。
最後の一人は始めて見る女性であった。
長い栗色の髪、スタイルも良くなかなかの美人のようである。
良く見れば右肩に偵察小隊の記章、襟に少尉の階級章が見えた。扉の前に突っ立っている訳にも行かないので彼女は席の空いているクラーク伍長の隣りに座る事にした。
「あ、遅かったですねエカテリーナ曹長。」
「ええ、整備の手伝いをしていたものだから・・・ところでこれはいったい何の集まりなの?」
「さあ、自分達もいきなりギリアム大尉に呼ばれてここに来ましたので・・・」
「・・・そう・・・」
「・・・ですが大体のところはわかりますがね。」
「どういうこと?」
彼女は身を乗り出して聞いた。
「2時間程前に敵本拠地の捜索に出たRR少尉達の部隊の一部が帰還してきたんです」
「本拠地を発見したの?」
「いえ、出撃が三日前ですからそれは無いですね・・・おそらくは敵の新しい前哨基地を発見したってところじゃないですかね?」
「敵の前哨基地・・・」
「まあ、野営地って可能性もありま・・・」
「へ〜そうなんですか〜知りませんでした〜」
妙に間延びした声が前から聞こえた。
見てみると先程の女性士官がこちらを向いていた。
あっ、クラーク伍長が頭を抱えてる。
「カ、カサンドラ少尉、あなたも一緒に帰ってくるのを見ていたじゃないですか。」
「あれ〜、そうでしたっけ?」
「・・・もういいっス・・・」(・・・RR少尉・・・貴方がなぜ食事のときに胃薬を服用していたか・・・その理由が今わかりました・・・)
「ま、まあ、詳しい事はギリアム大尉が教えてくれるはずですからそれを待ちましょう。」
「それもそうですね〜〜、あっ始めましてわたしカサンドラっていいます〜」
そう言うとカサンドラ少尉はエカテリーナ曹長に握手を求めてきた。
「よ、よろしく・・・」
エカテリーナ曹長はカサンドラ少尉の手を握り返した。
・・・その額にはびっしりと汗が張り着いていた・・・
「曹長はどちらのご出身なんですか〜?」
「わ、わたしはライラ共和国の・・・」
なぜか作戦の話題から、世間話へと話がそれていった。
どうやらエカテリーナ曹長とクラーク伍長はカサンドラ少尉のペースに巻き込まれてしまったらしい。別の席では2人の気圏戦闘機パイロットがこの召集について話し合って・・・
「・・・なあゲッツ、あっちの方なんだか楽しそうだな・・・」
そう言いながらカサンドラ少尉達の方を指差すカーティス准尉。
「・・・混ざりたいんですかあの中に?カーティス?」
「いや、二人して黙り込んでいるのもなんだろ?」
「・・・自分はいいですからお一人でどうぞ」
「つれないね〜、お前も一緒に来いよゲッツ?」・・・話し合っていなかった。
なお、この状態はギリアム大尉が部屋に入ってくるまで続いた事を明記しておく。
「よし、全員そろったな?」
ギリアム大尉が壇上から言った。
ギリアム大尉がブリーフィング・ルームに入ってくると先程までのたるんだ雰囲気は消えて行った。
「今回、諸君等にやってもらいたい事だが・・・まずはこれを見てほしい」
そう言うと部屋が暗くなり前方のスクリーンに写りの悪い写真が映し出された。
おそらく森の中だろうか? 多くの木々が見える。
そしてその中に不恰好な建造物が見える。
半ば地面に埋もれるような形をして、屋根にはカモフラージュ用のネットが見て取れる。
奥のほうにも似たような建造物がいくつか見える。
さらに塹壕らしき物も確認できる。
「これは、敵本拠地の捜索に出ているRR少尉の部隊が発見、撮影したものだ。見てわかる通り、明らかにドラコの前哨基地だ。」
ギリアム大尉は言葉を続ける。
「この前哨基地が存在する地点はこのアイアース基地より南西の方角に約80q、川から約20qと言う所だ・・・メックなら1日あれば十分に進撃可能な距離だ・・・これを潰す。」
全員、真剣に聞いている。
「作戦は明日、日が暮れると同時にスキマー分隊とカサンドラ少尉を敵から奪取した偵察用軽装ヘリコプター・フェレットを使用して敵基地より約8q北東の地点に降下して敵基地を目指す。それから現地にはアーバイン少尉が潜入しているので彼と合流して情報を入手してくれ。また、ヘリが降下地点に到着する時間にあわせてクラウディア大尉の指揮でメック部隊をさらに1q北東に展開させる。メック部隊は降下地点より2q北西に前進、LZ(降着ゾーン)を確保してもらう。そしてレーダー撹乱のために敵基地に接近してもらう・・・敵メックの追撃があった場合これを撃破してもらう。」
クラウディア中尉が頷いた。「・・・気圏戦闘機隊は作戦開始から48時間後に敵基地に潜入している部隊のレーザー誘導を受けてこの基地を爆撃する・・・なにか質問は?」
クラーク伍長が手を上げて席を立った。
「なんだ?」
「なぜヘリでの進行なのですか? メック部隊が展開するならそれに便乗すればすむ話では・・・」
「確かにその通りだ・・・だが今回の作戦で使用するレーザー誘導器を壊す可能性がある。この作戦に投入できるメックは3機が限度。後部座席の数が一つ足りない。となると手に乗っての移動になる。これでは話にならん。・・・それに・・・」
「それに?」
「メックはどうしても目立つ。照準をするお前達は絶対に見つからないようにしたい。幸いフェレットなら偵察のために前線をぶんぶん飛び回っているからな。さほど疑われん。」
「あっ、なるほどそう言うことですか・・・了解しました。」
クラーク伍長が席に座った。「他に無いか?それから万が一に作戦が失敗又は撃墜された場合はLZを目指せ。装備の支給は明日行なう。各員行動計画書を頭に叩き込み、同行者と検討をしておけ。」
そう言うとギリアム大尉は退出していった。ギリアム大尉が出ていたあと、この作戦に参加する者全員で細かい所を煮詰めたり敵兵力の分析などを行なった。
「写りの悪い写真ですね〜」
カサンドラ少尉が言った。
「・・・少尉、それ逆さです・・・」
「えっ? あ、本当ですね〜〜」
「・・・」
クラーク伍長とカサンドラ少尉が漫才をやっている横でウツホ軍曹とエカテリーナ曹長が別の写真を見ていた。
「これは・・・メックですねウツホ軍曹?」
「ええ、おそらくザコAかと・・・それにフグ・・・純正メックはいないようですねエカテリーナ曹長。」
「ええ、これ位の戦力なら3機でも・・・」
「・・・前哨基地ですからね。整備の為に他の部隊が立ち寄るて可能性もありますよ曹長?」
「・・・それもそうですね。」
さらにその横ではシグル伍長と気圏戦闘機隊の2人が攻撃目標について話し合っていた。
「これは・・・兵舎・・・かな?」
「どれ?・・・多分そうだな・・・ってことはコイツは仮設司令部ってところだな。」
「ではポイン・ティングするのは兵舎と司令部で?」
「いえ、司令部はいいとして兵舎よりこっちの方が・・・」
「・・・これは・・・弾薬と燃料?」
「ええ、それにこのすぐ近くに食料が入っていると見られるコンテナが・・・」
その横ではクラウディア中尉とクラーバーン少尉が降着ゾーンの設営について話し合っていた。
「・・・けっこう木があるわね・・・」
「そりゃーそうでしょ森なんですから。」
クライバーン少尉が苦笑しながら答えた。
「まあ、メックが三機あれば一時間位で整地も終了するでしょう。」
「・・・そうね・・・」
こうして彼らの話し合いは夜遅くまで続いた。