アイアース基地の横に設営された仮設飛行場・・・その横手にある格納庫の中で2機の鋼鉄の鳥が羽を休めていた。
一機は翼に『大狼とそれに腰掛ける乙女』の描かれたセンチュリオン(注1)
機首と両翼に中口径レーザーを三門装備した30トンの軽量級気圏戦闘機。
もう一機は部隊記章しか描かれていないLT−1G ライトニング
その機首に装備された最大口径のオートキャノンは恐怖の的である。
現在この2機は爆撃作戦の為にレーザー誘導シーカーを装着した通常爆弾を翼に装着する作業がクルセア=セファリム主任整備兵のもと、着々と進んでいた。
「は〜い、ストップ!止めてくださ〜い」
「よ〜し、装着を5分で終わらせるぞ!」
格納庫内は活気にあふれていた。
そんな中、コックピットで電子機器の調整をしていたカーティス准尉は黙々と作業を続けていた。(・・・実戦か・・・まあ、作戦通りに事が運べば死ぬことは無いだろうが・・・・・・)
考え事をしながらコンピュータにマップをダウンロードしていた。
「・・・マイアコス兄さん、テウクロス兄さん私を守ってください・・」
そう言うとカーティス准尉は上を見上げた。
『カーティス様!聞こえてるんですか!』
いきなり通信機からセファの声が響いた。
「うお!なんだセファいきなり!」
『先程から何度も呼びかけています!左翼の取り付けが終了しましたので右翼のアームのロックを解いてください!』
「う、うむわかった・・・」
カーティス准尉はトホホという顔で右翼のアームロックを解いた。
『カーティス、大変ですね・・・』
今度はゲッツ准尉からの通信が届いた。
「・・・うるさい・・・ゲッツ」
『・・・なにか考え事でもしていたのですか?』
「・・・まあな・・・ゲッツ、お前は恐くないのか?」
『・・・そうですね・・・恐くない・・・と言えば嘘になりますね・・・』
「そうか・・・」
『ですが恐怖を否定すればミスを犯し最悪死を招く事になります・・・・恐いなら恐いといえばいいんですよ』
「お前は・・・強いな・・・」
『いいえ、私は臆病な人間ですよ』
「そうか・・・。俺も強くならないといけないのかな・・・かといってどうしたものだか・・・・・・今は、とっとと作業を終わらせるとしようかな? じゃないとまたセファに叱られてしまう。」
『それもそうですね・・・私のほうも早く終わらせるとしましょう。』気圏戦闘機格納庫の隣の区画ではフェレット軽偵察ヘリコプターの調整が進んでいた。
そのヘリコプターの横でクラーク伍長は装備の点検をしていた。
「クラーク・・・」
「はい?」
呼びかけられ振り返って見るとそこにはウツホ軍曹とカサンドラ少尉、エカテリーナ士官待遇曹長が立っていた。
「なにか用ですか、ウツホ軍曹?」
「カサンドラ少尉とエカテリーナ曹長の面倒を見てくれ。」
「は? しかしそれはウツホ軍曹が・・・」
「俺はこれからクラウディア中尉との打ち合わせだ・・・シグルの奴は誘導装置の調整中だ。」
「了解いたしました。やらせていただきます。」
そう言うとクラーク伍長はウツホ軍曹に敬礼した。
「うむ、それじゃあ頼んだぞ。」
ウツホ軍曹が去って行った。とどうじに、
「どうすればいいんですかクラーク伍長〜?」
と、カサンドラ少尉が間の抜けた調子で質問してくる。クラックは、少しばかり脱力した。これから作戦だというのに・・・この新米指揮官には、いつもこうなってしまう。
「カサンドラ少尉・・・その声何とかなりませんか?」
「え〜、なにがですか〜?」
「もういいです・・・」
クラーク伍長はこれからのことを思い、嘆息した。「・・・ところでカサンドラ少尉はわかるとしてなんでエカテリーナ曹長も?」
クラークは、カサンドラ少尉についての心配事を後回しにして、現実に目を剥ける事にした。メックウォリアーがこういった装備の準備をする意味が今一つ不明だ。
「あ、私はメックに積み込む野戦装備の準備ですよ。」
確かに、撃墜された時の用意をしっかりしておくに超したことはない。
「そうですか・・・では早速取り組むとしますか。」
そう言うとクラーク伍長はバックパックとフィールドバック(尻バックとも呼ばれる)を持ってきた。
「・・・バックパックの詰め方は全員共通・・・同じ所に同じ物を・・・これは長距離任務用です。非常時には捨てます・・・解りますね?」
エカテリーナ曹長はわかったという顔をしているがカサンドラ少尉は首を捻っていた。
「敵から全力で逃げるのにこんな重い物背負っては速く走れません。後に生き残りやすいようにする前に、差し迫ったその瞬間を生き延びやすいようにするのですよ、少尉。」
「あっ!そういうことですか〜」
「・・・・・」
こういった事は、士官学校で習うことの基本の中に入っているはずなのに。クラークは、溜息をつきながら説明を続ける。
「・・・続けます・・・一番下から順にボディ・バックに防水パックした下着・靴下・手袋・・・」
詰め込みながら話し続ける。
「次にM14対人地雷四個、クレイモア地雷二個。それから予備弾薬として4.56ミリ無薬莢ライフル弾装填60連マガジンを24個。んでもって軍用レーション三日分・・・これは食い延ばして六日分にします・・・おろエカテリーナ曹長それは?」
クラークは、突然目を耀かせて説明を中断した。エカテリーナ曹長の腰後に目が行っている。
「これですか? AK74ていう銃ですよ。」
「ほ〜コイツがあの・・・ちょっといいですか?」
なんだか、異様な雰囲気に、エカテリーナ曹長はただコクコクと無言でうなずき、AKを渡した。クラークの目つきは、さらに異様な光を強めた。
「う〜んこの肌触り、いいですね〜それにこのマガジンの曲がり具合も・・・」
完全に趣味の世界に没入している。見かねて、カサンドラ少尉が突っ込んだ。
「クラーク伍長〜いいんですか〜?」
「はっ!しまったつい・・・すいませんねカサンドラ少尉。」
一瞬にしてクラークの目から異様な光が消える。どことなく引いた姿勢で、カサンドラ少尉は返事した。
「いいえ〜どういたしまして〜」
「・・・・・・気をとりなおして次は、塩素ガスパウダーとビタミン強化剤、咳止めコディン入りタイレノール剤にワセリンの小瓶をしっかり詰めます。次に外に行きます・・・両サイドのポケットに予備の水筒を二個・・・これから空にします。中央ポケットにポンチョ入れまして・・・その上に使い捨てのロケットランチャーを挟んで終わりです・・・だいじょうぶですね?」
「ええ、なんとか・・・」
「だいじょうぶで〜す」
クラークは、又しても脱力感を覚えた。カサンドラ少尉の緊張感の無さに、心の中で嘆息する。しかし、自分は自分で銃器マニアの異様さで上官二人に引かれていることについては、一切気付いていなかったのである。「では次、常時装備品にいきます。」
立ち上がりながら説明していく。
「・・・左足下部に虫ジュース・」
「イヤ〜虫のジュースなんていやです〜」
説明を始めた途端に、カサンドラ少尉が悲鳴を上げた。そのために説明が止まってしまう。
「・・・カサンドラ少尉・・・駆虫剤のことですよ・・・」
「いや〜〜って駆虫剤の事?」
「ええそうです・・・わかって頂けましたか?」
「そうですか〜わたしたらてっきり・・・」
クラークは思った。こういった事も士官学校でなら必修ではないのであろうか? それなのにこのカサンドラ少尉は一体・・・しかも、彼女は自分達の直属の上司。頼む。誰か助けてくれ・・・
「・・・・・・続けますよ。左脚上部ポケットには防水パックの地図とノート一式。右脚ポケットは一食分のレーション、信号パネルに信号弾を入れます。で、右の尻ポケットに折りたたんだ30mパラコードとスナップリングを入れます。」
カサンドラ少尉達も同じ所に入れていく。
「左胸ポケットに作戦信号指導書とストロボライトを入れて・・・右胸にコンパスにサバイバルキット。それにモルヒネの注射針付きを入れます
そんでもって血液増量剤・・・つまり生理食塩水をプラスチックボトルでフィレット付きです・・・これをバックパックの右につけます・・・・・・・・」
クラークが突然黙り込んだ。
「どうかしましたか?」
エカテリーナ曹長が尋ねる。
「・・・モルヒネや血液増量剤を使うような状態になったら置き去りにしてやる・・・」
「「えっ!」」
2人は青い顔をして驚いている。
「あっ、昔の教官に言われた言葉ですよ今のは。」
「な、なんだ驚かせないでくださいよクラーク伍長、びっくりするじゃないですか。あはは。」
「あはは、すいませんね、カサンドラ少尉、エカテリーナ曹長・・・」
「「「あはははは」」」
にこやかに笑い合う3人。しかし、エカテリーナ曹長とカサンドラ少尉はそろって心の中で心配していた。先程の銃に対しての異様な目の光、そして異様に疲れている様子から、ノイローゼにでもなっているのではなかろうかと思ったのだ。カサンドラ少尉がクラーク伍長の疲労の原因の一端であるとは思わなかった。「次はフィールドバック・・・別名尻バックとも言いますが・・・最初に暗視ゴーグルと予備のバッテリー、ガスマスクに予備フィルター、武器クリーニングキットにカモフラ・スティクをいれます。そんでもって左右に洗水剤付き水筒を二個入れて・・・対人破片手榴弾を四個に白煙手榴弾二個を入れて・・・あとは20ミリ擲弾マガジンを六個いれて終わりです・・・ああそれから個人通信機のバッテリーも新品に変えますよ・・・もちろん暗視ゴーグルと共通のものですよ?」
「これでおわりですか〜?」
「あとはベストのマガジンパウチに4.56ミリ60連マガジンを12本です。」
ホルスターから愛用のワルサーP99を取り出しながら話し続ける。
「サイドアームは各員自由です。自分の場合はワルサーP99ですが・・・お二人は?」
このとき又してもクラークの目つきが変わった。
「わたしは〜これです〜」
そう言うとやや小振りの銃を取り出した。
「ほ〜ワルサーPPKですか。いいものをお持ちだ。」
「はい〜お気に入りなんです〜」
「そうですか・・・エカテリーナ曹長は?」
「私はこれよ。」
長く滑らかな銃身の銃を取り出した。
「また珍しい物を・・・シグP210じゃないですか・・・どこでこれを?」
「・・・秘密です。」
「そうですか・・・残念です。」
本当に残念そうな顔をするクラークであった。「・・・以上で終わりますが・・・何か質問は?」
カサンドラ少尉が手を上げた。
「なんですか少尉?」
「昨日の話になるんですが〜クラーク伍長はパラシュート降下の経験があるんですか〜?」
「ああそれですか・・・ええありますよ?」
「へ〜すごいですね〜」
「これでも元空挺部隊所属です。何回もありますよ。」
「どんな所に降りたの?」
「まあ、いろいろありますが・・・ジャングルや砂漠、林の中に平原とかそんなところですかね?」
「わたしもやってみたいな〜」
「・・・そのうち訓練プログラムに組み込んでもらいましょうか?」
「あっいいですね〜エカテリーナ曹長も一緒にどうですか〜?」
「わ、私も?」
「ええきっと楽しいですよ〜」
「まあ、楽しいといえば・・・」どうやらまた話が別の方向に流れて行ったようである。
出発まであと六時間。
注1:不思議なことにセンチュリオンには形式番号が有りません。そして、後の資料からは抹殺されています。初出はエアロテックです。同名のメックが後に設定されたことは関係有るのでしょうか・・・?