『密林の中で』 作:Coo  戻る トップへ

濃密な緑の樹海の上を飛行するフェレット軽ヘリコプターの中で彼らは装備の点検をしていた。
 クラーク伍長が愛用のH&K G30/SG1の整備をしている。

この銃はG30 突撃銃の改良型で高性能電子スコープを追加しスナイパー・ライフルの役割を担っている。倍率は1〜5倍の間で調整可能。
 また、バースト、フルオート射撃も可能でグレネード発射機構もあるため、近距離戦にも対応できる。重量は4・5kgである。

ふと、横を見るとカサンドラ少尉が銃の調整をしている・・・のはいいが・・・

 「しょ、少尉?」
 「はい?何ですか?」
カサンドラ少尉が首を傾けながら答える。
 「お願いですからセレクター・レバーを解除した銃を人に向けないでください!」
 「あっ! ごめんなさい!」
そういうとカサンドラ少尉がレバーをSAFEに戻した。
 「ごめんなさい・・・わたしったらうっかりしちゃって・・・」
 「はあ〜、もういいです・・・」
仮にも上官・・・頭ごなしに怒鳴りつける訳にはいかず、クラークのストレスは溜まる。
 しかも今回の作戦ではカサンドラ少尉と組むのである。
そろそろ胃に穴が開くんじゃないか?ってなことを考えたりしている。
恨めしそうにウツホ軍曹を見る。
 もともとウツホ軍曹がカサンドラ少尉のお守りを押しつけてきたのである。睨みたくもなる。
 ウツホ軍曹はこちらを見ないようにしている。
そうこうしていると機内アナウンスが入る。
『あと五分で第一降下地点に到着します。降下準備願います』
 「・・・クラーク・・・」
 「はい?」
ウツホ軍曹が話し掛けてきた。
 「・・・少尉のこと・・・頼んだぞ・・・」
 「了解しました・・・責任をもって潜伏地点までの面倒を見ます。」
ウツホ軍曹が真剣な目をしていたので先程までの感情はどこかに行ってしまった。
フェレットは木が存在しない地点に降下していき、地上すれすれのところでホヴァリングする。
 ウツホ軍曹とシグル伍長が飛び出していった。
2人はすぐに密林の中に消えて行った。
 こんど再会するのは、敵の前哨基地から撤退するときである。

同時刻、第一降下地点より北東一キロ地点に三機の巨人達が密林に舞い降りた。
 「クラウディアより各機・・・状況報告。」
 「クライバーン異常なし」
 「エカテリーナ異常なし・・・・・周辺に熱源および動体反応なし、磁気センサーにも反応ありません。」
エカテリーナの報告を聞くとクラウディア中尉は2人に命令を出した。
 「・・・よし、クライバーン少尉先行しろ・・・・エカテリーナは後衛で警戒・・・LZに向かうよ。」
 「「了解!」」
 「これ以後、無線は突発的状況まで封鎖する・・・警戒を怠るな。」
密林の木々の中、三体の巨人が行動を開始した。

第二降下地点、先程と同じようにヘリコプターが降下していき荷物を降ろす。
 クラークが最初に飛び降り、周辺を警戒する。
つづいて、カサンドラ少尉が降りてくる。
 2人が降り立ったのを確認するとフェレットが高度を上げ、アイアース基地に機首を転じた。
ラヴィ伍長は定針してからは燃料計にたえず目をやった。
 「・・・ちゃんと生きて帰って来るんだよ。」
操縦装置にかけた手袋の手指を屈伸させながらラヴィ伍長はそう呟いた。
クラークは密林独特の感覚を感じていた。
 ここではただの空気にさえ、人の血を吸って病気にしてやろうと待ち受けているものが満ちているような気がする。
 過去、任務で訪れた惑星でのことが思い出される。
そこでの作戦も密林の中での戦闘行動であった。
その作戦では多くの仲間が散っていた。
あの八ヶ月・・・この感覚をどうやって耐えてきたのだろうか?
 ここでは10分もいれば逃げ出したくなる。

カサンドラ少尉の方を見てみると飛び去っていくフェレットを未練げに見送っている。
 「少尉・・・」
 「はい?」
カサンドラ少尉が振り返った。
 「大丈夫ですよ・・・・必ず帰れますよ。」
 「そうですよね!」
カサンドラ少尉が笑った。
 「それじゃあ、行きましょうか・・・自分が前衛を勤めますんで少尉は後衛を頼みます。」
 「わかりました。」
2人は密林の中に消えて行った。

密林での行軍は極端に遅い。
 その為に一日の行軍距離が5qに満たない事もざらにある。
今回、2人は相互援護が可能なように3mの距離を空けて進撃していく。
 これは密林の中で味方を見失なわない様にするためである。
作戦開始より5時間後、午前零時・・・クラークは倒木を見つけた。
 ちょうどいいぐあいに空間が開いている。
 「少尉、ここらで夜を明かしましょう。」
 「わ、わかりました・・・そうしましょう。」
かなり疲れているようである。
カサンドラ少尉は寝床の準備をしている。
 クラークは少し離れたところで警戒している。
「少尉、2時間したら交代です。」
「は〜い。」
そういうとカサンドラ少尉は寝袋に潜り込んだ。
何事も無ければいいが・・・クラークはそう思いながら警戒していた。

一時間後・・・
 「・少・・・・・尉・・・少尉、カサンドラ少尉起きてください。」
 「ほぇ?なんですか?」
カサンドラ少尉がおきた。
まだ眠たそうである。
 「静かに・・・敵です」
 「えっ?」
耳を澄ましてみれば微かに葉のかすれるような音が聞こえる。
 「恐らくパトロールかなにかでしょう・・・このままいけばすぐに遭遇します。」
 「・・・そうですね・・・クラーク伍長、敵の側面に回りこめますか?」
クラークが不敵に笑った。
 「・・・やれますよ・・・では自分は側面に回りこみますんで援護をお願いします。」
 「わかりました。」
クラークはカサンドラ少尉の返事に満足すると愛用のワルサーP99に消音器を取り付け、敵の側面に周るべく行動を開始した。

ドラコ軍の標準的な野戦服を着込んだ2人の兵士が距離を開けて移動している。
 賭けに負けて長距離パトロールするはめになったのだ。
(・・・くそ、運が無いぜ・・・)
 彼は心の中で自分を罵りながら、歩いていく。
ちょうど野営をするのによさそうな空間が開いているようである。
倒木があって、ちょうどいい空間が・・・

敵がちょうど太い幹の所にさしかかった。
 二人目が行ったところでクラークが隠れていた木から姿を現わした。
そして、こちらに気づいていない敵兵の後頭部に目掛けて発砲した。
消音された銃声が響いた・・・。
 クラークの放ったホロウ・ポイント弾は見事に敵兵の頭を吹き飛ばし、頭部の破片と血をばらまいた。
撃たれた奴は何が起こったのかわからないまま絶命しただろう。
先頭を歩いていた奴が振り返った。
だが、そこまでだった。
カサンドラ少尉が放った4.56ミリ弾がそいつの胸部に命中したからだ。

不意に後ろで音がした。
何事かと振り返った。
「おい、カトウどう・・・」
衝撃が走った。
 何が起きたのかわからない内に真上の梢を見ていた。
隙間から夜空がのぞいていた。
 何か声を出そうとするがうまくいかない。
撃たれたんだろうか?
 痛みは確かにあるが、どこか遠い所にある感じだ。
胸元に目を落とすとそこには血が・・・だれだ? 迷彩服を着て手にハンドガンをもったお前は?
 それになんだ? もう一人は・・・女か? 何でこんな所に・・・
クラークはカサンドラ少尉が倒した目標の確認をしていた。
 見れば三発の銃弾が胸を薙いでいて、心臓は逸れたが上肺部と大きな血管に命中したようだ。
 「運が無かったな」
クラークがそう言うと目からふっと生気が消えた。
 横を見てみるとカサンドラ少尉が口元を押えていた。
 「少尉?大丈夫ですか?」
 「え、ええ・・・」
やっぱりこの人は実戦に向かないんじゃないか?
 「とりあえず、埋葬しましょう」
 「はい」

穴を掘ってそこに二人の遺体を埋めた。
 奴らが持っていた食料は有効に使わせてもらうことにした。
 「クラーク伍長?」
カサンドラ少尉が話し掛けてきた。
 「なんですか?」 
 「手が震えるんですけど・・・なんでですか?」
見れば確かに震えていた。
 「それは緊張のエネルギーを開放しているんですよ・・・心配要りませんよ。」
 「そ、そうなんですか・・・良かった。」
どうやら安心したらしい。
 「それじゃあ、自分は一時間程寝ますんで警戒をよろしくお願いします。」
 「はい・・・おやすみなさい。」

こうして彼らの一日は過ぎた。
爆撃まであと18時間30分。