『D・デイ』 作:Coo  戻る トップへ

クラーク伍長が目をさまして最初に目にした物は木に寄りかかるようにして寝ているカサンドラ少尉であった。
 やはり疲れていたのであろうか?
それとも初めて人を殺したショックだろうか?
それは本人にしかわからないことある。

 気配を感じた。
ゆっくりと木々の間を縫うようにして近づいてくるのがわかる。
クラークはそっと銃に触れた。
3メートル・・・2メートル・・・1メートル・・・クラークは寝袋を跳ね上げて後ろに近づいた影に銃を向けた。

「・・・悪趣味ですよ・・・アーバイン少尉?」
 「・・・さすがナイトストーカー・・・ってところかな?」

手に整列結晶甲でできた大型ナイフを持ったアーバイン少尉が立っていた。
 彼は今回の作戦の為にあらかじめ潜入し、敵地の情報を収集していたのだ。

「首尾はどうです? 上手くいきましたか?」
 「ああ、守備範囲に交代時間それにここから基地までのルートもばっちりさ」
「そうですか・・・それじゃ、朝食でも食いながら話しましょうか?」

クラークはそう言うと、朝食の準備を始めた。
準備といってもたいしたことは無い、レーションとコーヒーを準備するだけなのだから。
 いつまでも寝かしとく訳にはいかないのでカサンドラ少尉を起こした。

「少尉、起きてください。」
 「ほぇ? あっいけない!」

ゴツ

鈍い音が響いた。
カサンドラ少尉が上体を起こしたときにクラークの頭に頭突きをかましたのである。

「・・・」
 「イタイです〜」
「くっくっく・・・」

クラークは無言で痛みに耐えているが目が涙目である。
 カサンドラ少尉は目に涙を浮かべながら額を押えている。
アーバイン少尉は笑いを堪えるのに苦労している。
 その後、クラークはカサンドラ少尉にお説教をしたが見張りの時間が一時間残されていた事を指摘されそれ以上の事を言えなくなった。

 「・・・まあ、こちらも悪かったですから何も言いませんが・・・今度からはしっかりと頼みますよ?」
 「は〜い♪・・・あれ? アーバイン少尉じゃないですか、どうしたんですか?」
 「いや・・・ブリーフィングで聞いてなかったの? 俺、先行して情報収集してたんだけど?」
 「そうでしたっけ?」

・・・誰か頭痛薬をくれ・・・

 「ところで伍長、いまは何時なんですか? ずいぶんと暗いようですけど・・・」
 「・・・ちょうど午前3時30分ってところですが・・・それが何か?」
 「いえずいぶんと早起きなんだなと思って・・・」
 「まあ、確かに早いですが・・・行動するならこれ位の時間の方がいいんですよ。」
 「そうなんですか・・・一つ賢くなりました♪」
 「・・・・・」

もう溜息も出ないクラークであった。

 「それより朝食にしましょう・・・食べたらすぐに出発します」
 「わかりました。」

クラークはそういうとコーヒーをセットしておいたホットプレートのスイッチを入れた。
 すぐに温まるだろう。カサンドラ少尉も同じようにコーヒーを温めている

アーバイン少尉も同じ物を準備している。
クラークはレーションを一パック取り出した。
小型のストーブキット(組み立て式)が付いた物を取り出して封を切った。
中身はポークパテに塩味クラッカーが4枚、コーンポタージュのパックにポークひき肉のパックが入ったものだった。
ストーブを組み立てると中に固形燃料を入れて火をつけ、ポタージュと水の入った容器を上に置いた。余談ながら、夕食にはひき肉の代わりに豚肉と野菜のシチューのパックがつく。

五分後には準備を終えて、食事となった。

 ポークパテを塗ったクラッカーを口に報張りながらクラークは今後の事を考えていた。
 順調に行けば午後4時ごろには潜伏地点に到着する予定である。
ただし、これはクラークが以前の所属していた部隊・・・ダヴィオン陸軍特殊空挺部隊゛レイヴン゛の同僚達と行動したときの計算である。
 どう考えてもカサンドラ少尉と彼らとでは違いがありすぎる。
それを考慮すると・・・午後6時ごろだろうか?作戦開始は午後8時の予定だから何とかなるな・・・
まあ、アーバイン少尉が選んだルートなら問題ないだろう。
 そこまで考えるとクラークはコーヒーを口に運んだ。苦いな・・・まあしかたがないか・・・

 「あの伍長?どうしたんですか?」
 「え? ・・・いや、ちょっと昔いた部隊のことを思い出しただけですよ。」
 「へ〜、いまはどうなっているんですか?」
 「無いですよ。」
 「へっ?」
 「・・・ダヴィオン陸軍特殊空挺部隊゛レイヴン゛は惑星アレセイムVを巡る攻防戦において壊滅的打撃を受けて解体、現在再編成中です。」
 「ご、ごめんなさい。」

カサンドラ少尉が頭を下げた。
 人間だれしも語りたくない過去はあるものである。

「・・・いえ・・・それより今後のことについてですが・・・よろしいですか?」
 「はい。」

クラークはカサンドラ少尉にアーバイン少尉が選んだ潜伏地点までの道順を教え、カサンドラ少尉の意見も取り入れて行軍を開始した。

途中、カサンドラ少尉が木の根に躓いたりヒルが服の上を張っていて悲鳴を上げたり、パトロールに遭遇したりしたがうまくやり過ごした。
 運の良い事にトラやヒョウといった肉食動物やミュータントには遭遇しなかった。
やはりこの密林の中にもいるのだろうか?

・・・午後4時46分・・・ギリ・スーツに身を包んだクラーク伍長とカサンドラ少尉、そしてアーバイン少尉が配置についた。
 基地の構成は司令ユニットを中心に兵舎、積み上げられた補給物資、メック駐留場、外延部に幾重にも張り巡らされた塹壕、トーチカ、戦車の駐留場などがあるがどれもうまく森の中に溶け込む為にネットが被らされている。
G30 SG/1に本体に付いているのとは違う外付けスコープで基地を覗くと民生メックの姿が見えた。
 ザコBが一機、司令ユニットに張り付いている他はザコAが4機にザコBが1機、そしてフグBが2機見える。戦車はどうやら出払っているらしい。
 塹壕を見ると兵士たちが淵に腰掛て煙草をふかしている者、そいつに話し掛けている者、コーヒーを飲む者、空を見上げている者など様々な者が見える。
 彼らにこれから起こることが予想できるであろうか?
予定通りならちょうど反対側にウツホ軍曹とシグル伍長が居るはずだが深いブッシュと木々のせいで確認できない。だが、あの2人なら無事に到着していることであろう。
カサンドラ少尉の方を見るが緊張しているのが判る。
アーバイン少尉のほうは完全に溶け込んでいる。
 レーザー誘導器はすでにセットしてありネットをかぶせる等の偽造も済ましてある。
もう一度時計を確認する

午後4時50分・・・・
 爆撃開始まであと3時間10分・・・