『戦闘機隊、出撃』  作 ミドリの雑魚  戻る トップへ

彼方へと続く滑走路の片隅で死と破壊を巻き起こす鋼鉄の凶鳥達が静かに・・・、そう嵐の前のような不気味なまでの静けさの中、自らの出番を待っていた。

「大丈夫だ、大丈夫、私はやれる。兄さんの敵を討てる・・・。」
「・・・。」

ライトニングのコクピットではゲッツ准尉が自らに言い聞かせ、あるいはセンチュリオンのコクピットではカーティス准尉が無言の中で自らの思いの中に埋もれていた。

・・・そしてついに出撃の刻は来た。

「ストーム1、ストーム2。こちらはホークネスト。これより作戦を開始する。作戦に従い、ストーム2が高空から先行、ストーム2は低空から侵入せよ。ストーム2、作戦の成否はお前の成否にかかっているぞ。」
「ストーム1、了解。」「ストーム2、了解。」

司令部からの作戦開始を告げる通信に、ゲッツ准尉もカーティス准尉も我知らずの内に操縦桿を握り締め声は上ずるが、幸いにして司令部にはわからなかったようだ。

「よし、ではストーム1から離陸せよ。・・・グットラック!」
「「了解!」」

二人の声が重なり、そしてライトニングがゆっくりと、だがしかし確実に、虚空へと続く不可視の階段を一秒毎に機体を加速させて駆け上がってゆく。

・・・嵐は吹き始めた。

 

『爆撃SS』  作  ミドリの雑魚  戻る トップへ


「さて、と。今日も何もなかったと。」

ここはドラコ連合前哨基地の電探室。
そこで夜勤を終えたモリモト軍曹は、いまや遅し次の担当のサナダ軍曹を待っていた。

「あいつはいっつも遅れるからなぁ・・・」

モリモト軍曹はブツブツ文句を言いながらもふと電探に目を落とし、一瞬動きを止めた。

「・・・あれ?」

一瞬何かがレーダーに写ったような気がして、モリモト軍曹はまじまじとレーダーを見つめるが・・・。

「悪いなぁ、遅くなった。」
「おっ、ようやく来やがったな、手前。」

ようやく電探室に現れたサナダ軍曹にモリモト軍曹はレーダーから目を離してしまう。
ソレが全ての明暗を分けた事を知る由も無く・・・。
モリモト軍曹が目を戻した時には、アーバインの工作によって感度の鈍らされたレーダーは、低空飛行に移った気圏戦闘機を映せなくなっていた。
モリモト軍曹とサナダ軍曹はくだらない話を続けた。

一方そのころ・・・。

カーティス准尉は重力の鎖を断ち切れる者のみが存在を許される遥かな高空を飛行していた。
自らの周囲は蒼だけが果てしなく広がり、眼下には見渡す限りの雲海が広がっている。
それは古代の人々が思い描いたと言う天上の楽園を連想させた。
だが、それは楽園などではない。
これから起こる凄惨な戦いを覆い隠すだけの、儚いヴェールに過ぎないのだ。

「さて、・・・そろそろだな。」
ちらりと計器を確認したゲッツ准尉は機体を一気に降下に移らせる。
ここからは、ドラコのレーダー監視網にと移る。タイミングと速度がすべてを決める今回の作戦のため、最大推力での噴射に加えて重力をも利用しての大加速に移った。
機首が、翼が、尾翼が、一気に雲海へと吸い込まれ・・・。
周囲は灰白色の世界だけが広がり、まるでこの世の終わりを連想させた。
「天国と地獄、か。我ながら陳腐な連想だな・・・。」
なんとなく思ってしまったことにゲッツ准尉は片頬だけで皮肉な微笑を浮かべた。
「まあ、いい。私が天国などに行けるとは思ってもいないからな。」
ゲッツ准尉はそれだけ呟くと再び計器へ視線を向け、さらに機体を加速させていった。

舞台は再びドラコ連合前哨基地のレーダー室へと移る・・・。

「でさぁ、あの野郎なんて言ったと思う?」
「ん〜?。『馬鹿者がぁ!貴様など一生便所掃除だぁ!』だろ?」
「そうそう、あの野郎いっつも同じ事言っていやがるからなぁ」

モリモト曹長とサナダ軍曹は未だにしょうもない話で盛り上がっていた。

「でさぁ・・・。」
「うんうん・・・。」

サナダ曹長の何時終わるとも知れない話にモリモト曹長は仕方なしに頷いた次の瞬間だった。

ヴィーン!ヴィーン!ヴィーン!ヴィーン!

けたたましい音を立ててアラームが鳴り響く!

「!!何ぃ!?」
「モリモト! 基地上空だ!」
「クソがぁ! 強襲かけてきやがったのか!?」
「まて、超低空からの侵入もあるぞ!」
「急げ! 空襲警報だ!」

突然の事態にパニックに陥り、結果としてお互いが邪魔をしあう形となってしまったモリモト軍曹とサナダ軍曹。

もし、どちらか一人だけならば。
もし、どちらかが多少でも真面目に電探監視をしていれば。
もし、最初に電探に異常があったときモリモト軍曹が注意深く電探を見ていれば。
こんな事態にはならなかったのであろう。

「基地司令に連絡を・・・!」
「もうやっている!」

だが、彼らが出来たのはここまでだった。

「もらったぁ!」

超低空から侵入したカーティス准尉のセンチュリオンは、レーダー誘導された一発を中心に抱え込んでいた4発の爆弾を前哨基地司令センターに叩き込んでいた。

キュドドドゴォォォォォォン!!

凄まじい轟音と爆炎に司令センターが一瞬包まれ・・・、次の瞬間大爆発を起こし司令センターは直営のザコを巻き込んで木っ端微塵に吹き飛んでいた。
 カーティス准尉は数瞬の間に激しく軌道を変え、急激に過ぎ去る地面を見据えながら進路上にいくつもの爆弾を連続して投擲する。連続して後方で爆発が起こり、クリタの前哨基地がパニックに陥る。

「くぉぉぉぉ!」
そのまま超低空での急激なターンを行うと、今度は手当たり次第にMLを放ちながら通信機に向って叫んだ。

「ゲッツ准尉!後はお願いします!」
「了解!」

カーティス准尉の叫びにゲッツ准尉はライトニングを最大加速させた。
目標は弾薬・燃料を中心とする補給物資。
超低空から侵入するカーティス准尉は、爆弾を多くは搭載できない。施設への有効な攻撃手段を失ったカーティス准尉に代わり、ドラコ軍の前哨基地へトドメを刺すのがゲッツ准尉の役目だった。
倉庫に到着したゲッツ准尉はカーティス准尉がしたように、レーダー誘導された一発を中心に抱え込んでいた爆弾を脆弱な防壁しかない倉庫へばら撒まいた。

「ん、なんだ!?なぁぁぁっぁ!?な、何ぃぃぃ!?一体何があったんだ!?」

ザコBに搭乗するミヤグチ伍長は突然の事態に重度のパニックに陥っていた。
突然アラームがしたかと思った次の瞬間、突然司令部が大爆発を起こしたのだ。
彼は第2次パエトン攻防戦やヘスティア攻防戦に参加してはいたものの、気圏戦闘機の爆撃というものがどういうものかまったく知らなかったのだ。
爆撃を受けたのは、後方で脚止めを食らってた戦車や歩兵部隊なのだから。
だから、そんな中でも幾分冷静に事態を対処している者達もいた。

「何をやっている! 早く対空攻撃をせんかぁ!」

前哨基地駐屯メック部隊の部隊長を務める、カスガイ曹長も割に事態を冷静に受け止めている一人だった。
彼は元々正規軍に所属するメックウォリアーであったのだが、とある作戦に参加し今回と同じような形で気圏戦闘機に爆撃され、家伝のジェンナーを失ったのだ。
その後、カウツVという辺境惑星でメックが手に入るという情報に一縷の望みを託すものの結果はメックはメックでも性能は大きく落ちる民生メック。
その上、一般兵並の腕前しか無かったカスガイ曹長はフグBに搭乗することになったのだ。

「総員に告ぐ! 敵機はスピードからみて軽量級の気圏戦闘機に過ぎん !これ以上の爆撃能力はもっていない! 密集して弾幕を形成し追い落とせ! ミヤグチ伍長! 貴様のザコBに搭載されているオートキャノンが頼りだ! ガンガン撃って行け!」
「りょ、了解しました!」

カスガイ曹長の矢継ぎ早の命令にミヤグチ伍長達は幾分落ち着きを取り戻す。
そして、各々がありったけの武装をカーティス准尉に向けるが、カーティス准尉とて黙っていたわけではなかった。

「まずはそこのザコ共!」

ようやくオートキャノンが火を噴くが慌てて乱射する攻撃がそうそう当たるものではない。
攻撃を回避するまでも無く弾丸は空しく虚空へ散っていく。
逆に一列に並んでしまったザコ達に地上をなめるように放たれたMLがザコ達に少なからぬ被害を与えてゆく。

「し、しまった!散開だ!散開して迎え撃て!」

冷静なつもりでもどこかでやはり焦っていたのだろうか?
自らの失策に慌てて新たな命令を下すが、それは逆効果だった。
ただでさえ混乱していたザコのパイロット達はカスガイ曹長の相反する命令を受けて混乱の度合いを深めていく。
そして、その混乱を付いたカーティスの集中攻撃の前にミヤグチ伍長はついに一発の命中弾を与えることなく倒れたのであった。

「おのれぇぇぇ!!」

ミヤグチ伍長の乗っていたザコBが擱坐するのを見たカスガイ曹長はせめて一矢を報いるべくフグをセンチュリオンへ向けて突進させる。
対空攻撃力のあるザコBを落としたことで気が緩んだのだろうか?
一瞬の隙を見せ、無防備な下面もさらすカーティス准尉のセンチュリオン。
カスガイ曹長は狂喜して、武装のトリガーを握るが・・・。

ドッゴォォォン!!

次の瞬間、背面から飛び込んだ最大口径のオートキャノンとMLの集中射撃がカスガイ曹長の搭乗したフグを一瞬で吹き飛ばしていた。

「油断するなよストーム2!敵はまだ残っているぞ!」
「ゲッツ准尉、じゃなくてストーム1!助かりました。」

爆撃を終えて参戦したゲッツ准尉のライトニングによる狙い済ました一斉射撃。
それがカスガイ曹長のフグを吹き飛ばした正体だった。

「こっちは予定どおり倉庫を潰したから、他の戦力をつぶすぞ。」
「・・・、わかりました。ただ、燃料が残っていませんからあまり長時間は無理ですよ。」
「かまわんよ。連中へ駄目押しをするだけだからな。」

ゲッツ准尉の言葉にカーティス准尉は燃料を確認してから答える。
その言葉に軽く頷いたゲッツ准尉は、無謀にもライトニングの正面に飛び出したザコAにオートキャノンを叩き込んでから機体を再加速させてゆく。

「直接の恨みは無いが、これも戦いだ。見逃すわけにはいかん!」
「おのれ、仲間たちを良くも! 死ねぇぇ!」

カーティス准尉のセンチュリオンが放った3本の電光がなぎ払うように地上に放たれ、民生メック達に多大な損傷を与えあるいは逃げ惑う兵士達を次々に切り刻んでゆく。
ゲッツ准尉ののライトニングが放つ電光と巨大な鉛弾のハーモニーはかろうじて生き延びた基地施設にさらなる破壊をもたらしてゆく。

それに加えて、ひそかに接近しつつあったブラッドハウンドのバトルメック達が一気にジャンプジェットで距離を詰め、攻撃に参加し始めた。

ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!

弾薬か燃料に引火したのだろうか。
次の瞬間、司令部を爆撃した時以上の爆発が発生する。

「さあ、カーニバルはこれからだ!」

その爆発を見届けたゲッツ准尉は更なる流血をドラコ連合に強いるために機体を次の目標へと向けていた。

「む、しまった。居座りすぎたか?」

大ダメージを受け擱坐するザコA型を見ながらカーティス准尉は後退のタイミングが来ていた事にようやく気が付いた。
残る燃料は何とか基地に帰りつけるだけの燃料しか残っていない。
いや、着陸時の減速に使う分を考えると最悪胴体着陸の可能性すらあった。
高機動故に燃料の消費が激しいのが気圏戦闘機である。
ソレが戦闘機動になれば消費量は一気に跳ね上がるのだ。
これが初陣となるカーティス准尉は最後の最後で自分がミスを犯していたことを今にして悟った。
必要以上の急加速と急減速。
このために当初の予想を上回るペースで燃料を消費していた事に今更ながら気が付いたのだ。

「ストーム1、こちらストーム2! 燃料がもうありません、基地に帰等します!」
「了解、ストーム2。俺もあと一撃で帰島する。」

ゲッツ准尉の言葉を待たずに機体を180°回転させるカーティス准尉は、出来うる限り燃料を使わないように速度を絞って戦域を離脱してゆく。

「ふむ、充分な戦果だな。帰るか。」

かろうじて壊乱せずにいる歩兵部隊にトドメのMLを送り込みつつゲッツ准尉も自機に残された燃料と状況を確認していた。
すでに当初の作戦で考えられていた以上の戦果を上げているのは間違いない。
民生メックもそこそこ生き残っているようだが、最優先目標だった前哨基地は今は見る影も無く破壊されている。あとは、メック部隊に任せても充分だろう。

ゲッツ准尉は燃料の事を考えると、これ以上の戦果を上げることは不可能に思えた。
「ホークネスト、こちらストーム1。作戦終了、これより帰還する。」
「了解、ストーム1。良くやったな、帰ったら宴会だ!」

通信機から流れる管制官の歓声にゲッツ准尉は薄く笑った。
これで自分の腕が認められれば次は本体との大会戦に参加が認められるかもしれない。
そうすればあの、カナコ小隊をこの手でしとめられる可能性が出てくるのだ。
「絶対に、私が敵を討つ!」
凄惨な地獄を映し出すコクピットの中でゲッツ准尉は更なる闘志を燃え上がらせ、今は静かに機体を帰還コースに向けた。

嵐は終わったかに思えた・・・
だが嵐はまだ吹き荒んでいたのだ・・・
そして、ゲッツ准尉はソレを知らなかった。