「中尉! 基地が!」
「見りゃわかる! よりによって・・・」
前哨基地から少し離れた地点で前哨基地駐屯戦車部隊のサギリ・マツシマ中尉が目の前の光景を見ていた。
哨戒任務から帰ってみれば基地が攻撃を受けているのだ。
彼らの編成はシェルギア対空車輛3輌とヴェルギア重対空車輛1輌で構成された有力な対空車輛部隊である(ヴェルギアには三門のAC5、シェルギアには二門のAC5を装備)。
彼らさえ居れば、基地の壊滅を防げたかもしれない。
「戦車長! レーダーに感! 気圏戦闘機です!」
「なに!」
「上空を通過します!」
「くっ、砲身上げろ! 対空射撃用意!」
「ダメです! 速すぎます! 目標通過します!」
そうこう言っているうちに一機の気圏戦闘機、センチュリオンが上空を通過して行った。
「くそったれ!」
サギリ中尉はパネルを思いっきり叩いた。
このままでは仲間の仇を討つことが・・・
「戦車長! もう一機来ます!」
「なに! 全車攻撃用意! 絶対に逃がすんじゃないぞ!」
「了解!」「・・・これで認められる・・・そうすれば・・・」
ゲッツ准尉はこの作戦で自分が認められ大規模作戦に参加できると考えていた。
「カナコ・・・待ってい・・・」ピー! ピー! ピー!
突然、アラームが鳴り響きコックピットが赤く染まった。
「な、なに! ロックされただと!」「ロック完了、装弾良し!」
「撃ち方はじめ!」
薄暗い森の中から赤い曳光弾の筋が上空を飛行するライトニングに伸びていった。
発射された弾はライトニングの左翼と機首に集中してライトニングを激しく揺さぶる。「くっ・・・上昇すれば・・・」
ゲッツ准尉はたまらず操縦桿を引き、上空に退避しようとした。
・・・だが、彼はこの時判断を誤った。
気圏戦闘機の高速性を生かし、突っ切れば一気にここを突破できたかもしれない。
上昇する場合、どうしてもスピードが落ちてしまうのだ・・・ガン! ガン! ガン! バキャッ!
鈍い衝撃と共に、操縦桿がゆう事を聞かなくなった。
驚いて後ろを見てみると、後部に二枚あるはずの尾翼が一枚吹き飛んでいた。
この状態では操縦は不可能である。
「くそ!」
ゲッツ准尉は通信機のスイッチを入れると大声で叫んだ。
「メーデー! メーデー! こちらストーム1! 敵対空車輛の攻撃を受け、尾翼大破! 操縦不能! 脱出する! 救援を頼む!」
ゲッツ准尉はそう叫ぶと脱出装置のスイッチを力強く押し込んだ。
キャノピーが吹き飛び、ゲッツ准尉は座席ごと大空に放り出された。
しばらくして、座席に装着されたパラシュートが開きゆっくりと降下を開始した。
ゲッツ准尉は呆然と密林に落ちていくライトニングを見ていた。「撃墜確認! やりました戦車長!」
若い砲手がハッチから身を乗り出して双眼鏡を覗いているサギリ中尉に言った。
「まだだ・・・パイロットが脱出している・・・あいつを逃がすわけにはいかん。」
サギリ中尉は双眼鏡を覗きながら言った。
「通信手、付近の味方に連絡・・・『我、敵気圏戦闘機ヲ撃墜スルモ操縦者脱出、対処サレタシ』・・・座標は・・・」
ドラコの前哨基地を攻撃していたメック部隊は、その時、圧倒的に優位な戦いを行っていた。気圏戦闘機に良いように掻き回され、混乱の極みにある敵を各個撃破していたのである。あと、五分もあれば、完全勝利となっていただろう。だが・・・その時、クライバーン少尉が叫びを上げた。
「ああ! ストーム1が!!」
とっさにそちらを確認したクラウディア大尉は、曳航弾の弾幕の中、失速し墜落していくゲッツ准尉のライトニングらしき影を見た。
「そんな・・・伏兵がいたというの!?」
「まさか、ここは囮なの!?」
女性二人の、当然の判断。それを聞いたクライバーンは、即座に進言した。
「囲まれたらまずいです、即座に撤退を!」
「・・! 全機、離脱!」クラウディア大尉の命令が発せられた次の瞬間、三機は即座に撤退を開始した。そして、命令は他の参加者達にも伝えられた。
「・・・くそッ! 何てこった・・・」
クラーク伍長が悪態づいた。
誘導が終了し、カサンドラ少尉とアーバイン少尉と共にLZを目指している所に緊急通信が入ってきたのだ。
「あの・・・どうかしたんですか?」
カサンドラ少尉が恐る恐る聞いてきた。
アーバイン少尉は黙って聞いている。
「・・・小鳥が一羽・・・巣に戻れなかったそうです・・・」