『作戦終了』 作:Coo  戻る トップへ

カサンドラ少尉たちは全員が泥まみれになり、野戦服は所々破れている状態で木の密集していない所に陣取って周囲を警戒している。
 ここはあらかじめ設定しておいた離脱地点の一つで、フェレットが着陸することができるのだ。

「・・・クラーク伍長、大丈夫でしょうか・・・」
 カサンドラ少尉が心配そうに呟く。
少し離れた所ではゲッツ准尉も銃を構えて周囲を警戒している。
「なに、心配要りませんよ・・・すぐに来ます。」
アーバイン少尉が傍らに居るカサンドラ少尉に囁いた。
 「・・・そうですね・・・」
カサンドラ少尉はそういうと辺りを見回した。

アイアース基地の仮設滑走路の脇で羽を休めていたフェレットに再び出撃の時が来た。
 ラヴィ伍長が操縦席に着くと計器の点検を開始した。
どうやら問題は無いようですぐにでも飛び立てる。
 「コントロール、こちらホーク1・・・離陸準備よし・・・離陸許可を求む・・・」
『コントロールよりホーク1へ、離陸を許可する・・・』
「了解」
 コントロールからの許可を得て、フェレットのローターが回転し空に舞った。
仲間を助け出す為に・・・

「・・・あと少しってところで!」
 クラーク伍長は軽機関銃による激しい銃撃にさらされていた。
エカテリーナ曹長は、敵メックと遭遇したためにクラークを下ろし、戦っている。ここは何とか自分で切りぬけるしかない。

 木を遮蔽物にしているものの次々と辺りに着弾していく。
新たに被弾し、防弾ベストに所々穴が開いている。
弾はベストで止まったものの衝撃までは止められず、けっこう痛い。打ち身くらいにはなっているかもしれない。
そのせいか、照準が不正確になってきている。
 離脱地点まであと数百メートルというところで敵と遭遇してしまったのである。
離脱地点の方からも銃声が聞こえてくるので援護は望めそうに無い。
 負傷による痛みに耐えながら応射するものの命中していない。
「・・・ちょっとやばいかな?」
予備の弾倉も後二つを切っており、絶望的とも言える。
 震える手で弾倉を外して狙いをつける。
相手の放った銃弾が肩をかすめ、その衝撃で銃を取り落とす。
肩のパッドが吹き飛んでいる。右手も痺れてきた。
「ぐっ!」
 衝撃で木にもたれるようにして倒れた。
「くそ、足さえ無事だったらとっくに離脱地点までたどり着いていたのに。いや、敵が来なければ・・・俺の悪運もこれまでか・・・約束・・・守れそうに無いな・・・」
 近づいてくるドラコ兵の足音を聞きながらクラーク伍長はなんとかワルサーP99を握ろうとした。
一矢報いなければ・・・その一念であった。
 ドラコ兵の姿が見えて銃口がこちらを向いた。
なのに、いまだにワルサーはホルスターの中・・・覚悟を決めた。

タタタタン!

銃声が響く・・・だがおかしなことに方向が違う。目を向けると右手から不意に声をかけられた。
「お前にはまだやってもらわんといかん事があるんだ・・・勝手に死ぬな。」
 「ウ、ウツホ軍曹・・・」
 倒れたドラコ兵に歩みよる、ウツホ軍曹の頼もしい姿。ふと気付けば、他のドラコ兵の気配も消えている。うめき声も聞こえないとなると、瞬殺したか、あるいは新手の大部隊と思わせて追い返したか・・・クラークは、心底ほっとした。やはり、年季の入った軍曹は違う、ということだろうか。
 「ほら、肩を貸してやる・・・歩けるか?」
「な、なんとか・・・」
 クラーク伍長は左手で銃のスリングを掴むとウツホ軍曹に肩を貸してもらい左足を引きずるようにして歩き出した。

離脱地点も激しい銃撃を受けていたがシグル伍長やクライバーンの到着によってなんとか撃退する事に成功していた。
 しばらくしてウツホ軍曹がクラーク伍長に肩を貸しながら離脱地点に到着した。
「大丈夫!?」
 カサンドラ少尉が慌てて駆け寄ってきた。
クラーク伍長は先の左足に受けた銃弾のほかにザコの放ったマシンガンの着弾で跳んできた木の破片や右肩に受けた銃弾によって野戦服はやぶれ、防弾チョッキもぼろぼろである。
「まあなんとか・・・左足以外はたいした事ありません。」
 「クラーク・・・脇の下もかすっているぞ。」
「えっ?」
 ウツホ軍曹に教えられてようやく気づいた様である。
ウツホ軍曹がベストの脇から手をいれた。
「っつ・・・ほんとだ・・・気づきませんでした。」
 「圧迫感は無いか? 息が苦しいとか?」
「大丈夫です・・・ちょっとかすった程度です。」
「どうやらお前が一番負傷しているようだな・・・帰ったら医者に診てもらえ。」
 「了解。」

その内に空から爆音が響いた。
 フェレットが到着したのである。
フェレットが地面すれすれでホヴァリングしてすぐに飛べる体勢を整えている。
 始めにクラーク、そしてゲッツ准尉が乗り込み他のものが後に続く。
全員乗り込むとヘリは空に舞い上がり、アイアース基地を目指した。

 

 

 『帰還』作:Coo    戻る トップへ

アイアース基地に向かうヘリの中でクラーク伍長は気を失っていた。
 左の銃傷やその他の傷からの失血のためである。
ヘリの後部で応急処置を行なう事になった。
始めに人工血液の点滴パックをクラークに刺し、次いで消毒液で傷口を洗浄し裂傷に細胞活性剤入りの人工皮膚を貼付する。
 そして着弾の衝撃で打ち身をした場所には壊死組織活性剤の皮下注射を、打撲した箇所には打撲治癒促進剤の点滴投与を行う。
銃傷は・・・弾は皮膚からすぐのところでとまっている。耐弾服のおかげだろう。洗浄液で傷口を洗い、毒が回らないように中和剤を塗布して人工皮膚で傷口をふさぎ、包帯で固定する。
これ以上のことは基地に帰還したあとに本職の医師に任せるしかない。まあ、左の銃傷も、弾は簡単に取り出せそうだし、あとは接着剤で筋組織や皮膚を癒合させる程度の手術だろうから、さほど心配は要らないだろう。

 足首を挫いたゲッツ准尉は、脚に湿布を巻き、瞬間硬化ギブスをはめている。
「・・・ゲッツ准尉。」
ウツホ軍曹がゲッツ准尉に話し掛ける。
「なんですか?」
 「ライトニングの事なんですが・・・クラウディア中尉が回収したようです。」
「そうですか。良かった・・・」
心底安心したような顔をするゲッツ准尉。
「ただし修理には時間が掛かるとのことです。」
「あの状態では・・・仕方ないですね・・・」

しばらく機内の会話が無くなる。
 ヘリのローターが回る音だけが響く。
しばらくするとフェレットがアイアース基地に到着した。
ヘリはゆっくりと降下していった。
ヘリが着陸しローターがまだ回転しているが待機していた衛生兵が近づいてきた。
「容態は!」
「出血は止めた。そのまま寝かせている。 応急処置で見た限りじゃあ、左足の銃傷が一番の難物だが・・・浅いところでとまっているように思う。だが、細かいところはわからん。きっちり直してやってくれ。」
「わかった! 後は任せろ!」
それだけいうとその衛生兵はクラークの方に向かった。
ローターの音のためにお互い大声で話している。クラークは移動式ストラッチャ−に載せられて運び出されていく。

ゲッツ准尉がシグル伍長の肩を借りて降りてきて、そのまま医務室に向かった。
他のもの達も、ぞろぞろと降りて基地の地下に入っていく。
「・・・とりあえず生き残れたか・・・」
ウツホ軍曹はそう呟くとヘリを後にした。

「はっ!?」
 クラークは医務室で目を覚ました。いつの間にか着替えさせられており病院服を着ている。
 上半身だけ起こし体を確かめる。
 打撲したり裂傷の出来た場所には湿布か何かが張ってあるり、包帯もぐるぐる巻きにされている。
 左足はギブスで固定してあり、点滴を受けている。力が入らない。感覚もない。手術後、傷口が癒合するまでの措置なら問題ないだろうが、神経をやられていて一生動かないなんて事だったら・・・と、いうことは、まずありえない、だろうか。ともあれ、今はどうしようもないことには変わらない。少なくともうかつに動こうとはしないほうが良いだろう。手術後は安静にしているに限るのだ。
クラークは再びあおむけになるとぼんやりと天井を見た。
「・・・知らない天井・・・かな?」

 格納庫では戦闘で傷ついたメックの修理作業が進められている。
 今回、一番損傷が激しいのはエカテリーナ曹長のヴァルキリーである。
 頭部の装甲板と左胴、胴中央の装甲板が外されており内部機構を覗かせている。
 幸いにして中枢にダメージは至っていないので装甲を貼りなおすだけで何とかなりそうである。
ヴァルキリーの横にはシルバーホークとフェニックスホークが並んでいるがこちらもたいした損害はない。

「エカテリーナ曹長?」
ラーズ・マクガイア少尉がヴァルキリーの整備をしているエカテリーナ曹長に声を掛けた。
「なんですか小尉?」
電子機器の調整をしていたエカテリーナ曹長が顔を上げてラーズ・マクガイア少尉を見た。
「彼・・・目覚めたようですよ?」
「はっ? ・・・あっ! え、え〜と・・・いいですか?」
一瞬、何のことか解らなかったがすぐに理解してラーズ・マクガイア少尉に許可を取る。少尉は、にこりとうなずいた。エカテリーナは、ぺこりと頭を下げると、整備兵の一人を呼んだ。
「カミール伍長!」
「なんですか曹長?」
「ちょ、ちょっと用事ができたもので・・・電子機器の調整をお願いします! 数値はこれですから!」
「は、はぁ・・・」
カミール伍長は、なぜか頬を赤くしたエアカテリーナ曹長を見ながら機械を受け取った。

「何か有ったんですか、小尉?」
足早にその場を立ち去るエカテリーナ曹長を見ながら、カミール伍長は尋ねた。
「・・・まあ、ね・・・個人的な用事ではありますが、別にいいでしょう。こう言う時はね。」
ラーズ・マクガイア少尉jは、ふわりと微笑んで答えた。
「はあ・・・?」
カミール伍長はますます解らないという顔になる。
「気にせず仕事をしましょう。仕事はいくらでもあるのですからね。」
そういうと、ラーズ・マクガイア少尉は仕事に戻っていった。