『クラークのお姉さん』 作:Coo 戻る  トップへ

恒星連邦内のとある惑星・・・

この惑星に存在する恒星連邦正規軍ドラコ方面軍参謀部・戦術課の執務室で右目に色のついたモノクルを架けた妙齢の女性が仕事に勤しんでいる。
シルヴィア・F・エアハルト司令部付き大尉・・・参謀将校の一人であり第二戦術課の課長である。
優秀な作戦参謀であり、メック部隊と特殊部隊との連携作戦を重視する。
そして傭兵部隊“ブラッドハウンド”に所属しているクラーク・エアハルト少尉の姉である。

同時に、弟に“生活無能者”と言わしめたエアハルト家の長女でもある。
今はお昼時で彼女も食事を取っているはずなのだが・・・
寝坊してしまい、仕事がまったく片付いていないのだ。
幸い、上司にはばれなかったので昼休みを利用して仕事を片付けているのだ
いつもなら仕事を引き受けてくれる(押付ける)副官がいるのだが、昨日から休んでいる。
医師の診断だと、過労らしい。

「ジェイク中尉は仕事の時に肩に力を入れすぎなのよね〜私みたいに力を抜いて仕事をすればいいのに・・・」
誰のせいで彼が倒れたのか、まったく判っていないらしい。

「うう、机から離れたい〜お昼食べたい〜お酒飲みたい〜」
書類を書いているペンに力が入りミシミシと音が聞こえてくる。
そのうちに折れるんじゃないか?

「・・・食堂にいないから来て見れば・・・やっぱりここに居たのね。」
「レナ!?」
いつの間にかドアが開いており士官学校からの付き合いの親友・・・レナ・ハミルトン大尉が立っていた。
彼女の所属は特殊作戦課・・・つまり特殊空挺部隊“レイブン”など特殊部隊の運用、作戦立案、予算などに関わる部署である。

「手伝ってくれるの!」
「冗談言わないの・・・手紙を預かってきたのよ。」
レナ大尉は封筒を掲げた
いい年して目を輝かせたが期待が外れるとどっと肩を落とした。

「うう・・・少しくらい手伝ってよ。」
「そういわれて仕事を手伝って、いったい何枚の書類を書かされられたかしら?」
「あう〜」
しばらく唸っていたがレナ大尉の来訪の理由を思い出して問い掛けた。
「誰からの手紙?」
「弟さんからよ」
「またなんかあったのかしら?・・・ありがとう」

封筒を受け取ると封を切って手紙を取り出した。

「弟さんの方は久しぶりに手紙が届くわね」
「まあね・・・こんどはどんな内容かしら?」
特殊空挺部隊レイブンを除隊してからは顔を合わせていない弟。
除隊してから初めて届いた手紙はまるで電報のようだった。

“仇を見つけました。傭兵部隊ブラッド・ハウンドに入隊します C−E”

この一文だけだった。
もう少し何か書いてもいいのではと思ったが・・・
次に届いたのは喜ばしい物であった。

“シャドウホークを取り戻しました。親父の郎党を送ってください C−E”

この手紙には書類も同封されていた。
これによってようやく窓際から元のポジションに復帰出来たのだ。
 派遣した郎党達はちゃんと働いているだろうか?

そして今度の手紙・・・まさか・・・機体を失ったとか・・・
手紙を開こうとした手が止まる。

「? どうかしたの?」
「ちょ、ちょっと内容見てくれない?」
震える手で手紙を差し出す。
レナ大尉は不思議そうな顔をしながらも手紙を受け取った。

「別にいいけど・・・」
そういうと封筒から折りたたまれた手紙を出して開いた。
開いた拍子に中に挟まれていた何かが落ちた。
落ちた物を拾おうとしたが、それよりも文面の方が目にとまった。

いつまで経ってもレナの声が聞こえてこない。
恐る恐る顔を上げレナに声をかける。
「レナ? なんて書いてあった?」
なに!? その哀れみを含んだ目は!? やっぱり失機者!?

「・・・シルヴィア・・・あなた、弟に先を越されたわね」
「はいッ?」
なに? 一体なんなのよ? どうやら失機者になったのではないらしいが・・・? 先を越された?
私はレナから手紙を受け取った。
そこには・・・

“前略・・・お久しぶりです姉さん。自分は文を書くのが苦手なので伝えたい事だけ書きます。同封してある写真の女性と結婚します。ティアの方にも連絡をよろしく C−E”

けっこん?・・・ケッコン?・・・血痕?・・・・・・はっ!結婚!?
失機者になったと書かれるよりも破壊力がある一文が書いてあった。

レナ大尉は白くなっていく親友を見ながら床に落ちた写真を拾い上げた。
そこにはシャドウホークとヴァルキリーをバックにしたクラークとエカテリーナの二人が映っていた。
 二人とも幸せそうな顔をしている。
溜息をつくとその写真を机の上において部屋から出る。
ドアをくぐった所で振り返り、シルヴィアを見るが・・・依然固まっていた。

「・・・無様ね・・・」

それから数時間。シルヴィア大尉はまったくの上の空で、仕事が手に付かなかったそうである。そのうえ、落ちまでついていた。
数時間後、ようやっと正気に戻ったシルヴィア大尉は、初めて机の上に置かれた写真に気づき、手に取った。
そこには弟のクラークと・・・・・・どう考えても14歳程度の少女が一緒に映っていた。

「ま、まさか・・・こんな少女を・・・は、犯罪よぉ〜〜っ!!」

シルヴィア大尉の絶叫が執務室に轟いた。
後日、彼女はこの写真を持って妹のティアの所に押しかけるのだが・・・それはまた別の話。