『セイちゃんの受難・着替えはお好き?』

 なんとかクリタの基地も破壊し、メックの修理も順調に進んでいた頃。降下船オヴィンニクが、物資を運んで帰ってきた。だが、同時に騒動の種も運んできたのである。どんな対応をしたらいいか悩むマディック大尉は、幸か不幸か任務によってまだユミナと息子に会えていない。そんな時、彼の息子には、恐ろしい魔の手(笑)が伸びようとしていた!
 
 
 父親を探して基地の中をうろつくセイは、ふと、会議室から出てきた人影と目があった。その人は女の人で・・・自分をまじまじと見ると、感嘆の声を漏らした。
 「うわあ・・・かっわいい! どうしたの? 坊や?」
 基地の中には不似合いこの上ないどピンクのドレスを着た美少女が聞いてくる。白い肌、ウェーブした長い金髪、大きな青い目とあいまって、巨大なフランス人形を思わせる。それを見て、セイは目を見開いた。自分が、厳めしい軍事基地の中にいるのではなく、どこかのしゃれたデパートにでもいるような気分がしたのだ。
 「どうして奇麗なお姉ちゃんがこんなとこに居るの?」
 子供は正直だった。

 この一言でセイは、マルガレーテのお気に入りになったのである。
 「あら、そんな・・・(キャン!) お姉ちゃんはね、メックウォリアーなの。だから、この基地に居るのよ。」
 「ふわあ・・・お姉ちゃんみたいにキレイな人がメックウォリアーなの!? すごいや!」
 子供の、なんの邪心もない言葉に、マルガレーテはますます機嫌をよくした。
 「もう! この子ったら・・・ それで、どうしてこんな所に居るの? 名前は? お姉ちゃんに話してごらん(にっこり)」
 「うん。ぼくね、セイっていうの。パパを探してるんだ。パパもメックウォリアーなんだよ!!」
 セイは、胸を張って答えた。パパは仕事が忙しいとの事でまだ会えていないが、基地の人に何度も確認して、自分の父が大尉と呼ばれていて、一人で一個小隊を相手に一歩もひかないすごいメックウォリアーであることは確認している。
 「パパ? 誰かしら?」
 マルガレーテは首をかしげた。今、この部隊は、再編成の最中だ。部隊の郎党の中から使えそうな者を選び出し、訓練して配属する。アージェンタムで雇い入れたメックウォリアーも居る。4ヶ月の訓練期間を経て、ようやく一人前と言えるほどの腕前になった郎党上がりのメックウォリアーや、まだ、ひよっこと呼ばれる人。才能がないと判断された者は、容赦なくメックを降ろされ、新しい候補生が選ばれる。そんなこんなで、まだ、ウォリアーの決まらないメックもある。こんな状態では、家族構成まで即座にわかれと言うのが無理だ。だから聞いた。そのカワイイ男の子・・・セイは、倒れそうなほど胸を張って答えた。よほど誇らしいようだ。
 「パパはね、パパはね、マディック・ウォン・ヴァレリウス大尉って言うんだ!」
 「へえ・・・あのマディック大尉にこんな可愛い息子がいたのか? 驚きだな・・・」
 会議室から新たに出てきた、長い金髪と緑の目、豊満な肢体が印象的な美女がつぶやいた。セイは、目を見開いてつぶやいた。
 「ふわあ・・・またキレイなお姉ちゃんが・・・」
 セイはまだ小さいせいか、この場違い極まりない服装に違和感を覚えないようだ。この一言に気をよくしたクレアは、しゃがみこんで目線をセイと合わせていった。女とは、とにかく誉め言葉に弱いらしい。
 「かわいいな、お前。丁度お茶にしていた所だ。一緒にどうだ?」
 「え・・・で、でも、僕パパを探さないと・・・」
 しどろもどろに言うセイに、マルガレーテが答えた。
 「セイちゃん、マディック大尉は、強行偵察任務についてるわ。だから、今は探しても仕方ないわ。明日には帰るから、それから探しに行けば良いわよ。」
 「そ、そうなの?」
 「ああ、そうだ。セイって言うのか? ぼうず。だから、一緒にお茶にしよう。」
 「うん!」

 かくしてセイは、到着1日目にして守護天使小隊と接触してしまったのである。正に工作員の高笑いが響いてきそうなシチェーション。あやうしセイ!!
 
 
 「それにしても可愛いわねえ・・・」
 「ほんとです。この髪なんて、つやつやしっとりで、とっても手触りが良いです!」
 「・・・・・・・・確かに・・・・ね。」
 「ほんとほんと。色も白いし、そこいらの女の子なんかよりよっぽど可愛いぜ。」
 セイは困っていた。最初こそ楽しくお茶をしていたのだが、だんだんと妙な雰囲気になっている。かといって、尊敬すべきメックウォリアーのお姉ちゃん達に逆らう訳には行かない。自分は、まだ階級すら貰っていない子供なのだ。ちょっとくらい女の子と比べられても、我慢するしかない。我慢するしかない・・・のだが・・・まあ、ほおを撫でられたり、人形を抱きしめるがごとく玩具にされたりするのはまだ良い。髪を櫛ですかれるのも我慢できる。しかし、なぜ、女の子の髪型をあれこれ試されないといけないのだろう? 髪を伸ばしているのは、メックウォリアーになる時の儀式用なのだ。その時にする、サムライの髪型のためなのだ。けして、女の子の真似事をするためではない。しかし、セイはじっと耐えた。逆らう訳には行かない。逆らう訳には行かないのだ。そのうちに、おねーちゃん達はもっと悪乗りしてきた。
 「ねえ、どうせだから髪だけでなくて、服も変えてみない?」
 「あの、その、ぼくは・・・・・・」
 マルガレーテの問いに、何とか嫌だと言おうとして・・・しかし、セイは口篭もってしまう。羞恥で首筋まで真っ赤になっている。それが又、アミィやクレアの悪戯心を刺激する。
 「う〜〜〜ん・・・たしかにな。髪型がこれだけ似合うんだから、化粧や女の子の服も似合いそうだよなあ・・・」
 「・・・丁度、代えの服もある。裁縫道具は、いつも持ってるんでしょ・・・?」
 クレアがしたり顔で肯くと、アミィがロッカーからドレスを出してきた。
 ここは、第3会議室などと言われている。が、守護天使小隊の面々が溜まり場にしているため、誰も近寄らない。事実上、彼女たち専用になっている。まあ、壁にハートマークの掛け時計がかかっていたり、壁紙をかわいらしい小猫の壁紙で張りかえられたり、窓のカーテンが少女趣味丸出しの可愛い刺繍とフリル付きになっていたりしたら、だれも近づかなくて当たり前だろう。4ヶ月前の攻防戦で破損した建物の修理費用の一部を出す、という彼女たちの申し出を受けてしまったクロフォード中佐の失策(責めるのはかわいそうだとの意見多数)である。 
 
 「うふふふ・・・この服を着るからにわぁ・・・服をヌギヌギしないと駄目ですねえ」
 セイの髪をすいていたブレンダが、怪しげな笑いを浮かべる。完全にセクハラモードになっているのだが、女が男に対してやっているせいか、誰もその事に気付かない。徒党を組んだ女は恐ろしいのだと、セイは初めて認識した。
  
 そして・・・しばらくして、第3会議室からは、悲鳴が聞こえて来ることになる。

 「うわあぁぁああん! パパ、助けて〜〜〜」
 小さな部屋の中、裸にされた小さな男の子に向かって立つ4っつの人影。その手には、何やら紐のような物が!
 
 「ほら、暴れるんじゃない!」
 「大丈夫、恐くないのよ。ね?」
 「男らしく、しゃんとしなさい。」
 「うふふふ・・・服を直すためには、まず、きちんとサイズを測らないとねぇ」
 
 ・・・かくして、この数分後、パンツ一丁のセイは、かろうじて引っつかんできた服を持って会議室から逃げ出すのである。
 ・・・この年でメックウォリアー4人を相手取って逃げ出せると言うことは、相当すばしっこいと言うことになる。才能あるセイちゃんの未来に幸あれ!