セイちゃんは、今日も今日とて基地内を歩き回っている。シミュレーターの訓練等は全部午前中で終わってしまったので、暇なのだ。パパとはまだ会えていない。予定では、昨日辺りには帰って来ているはずなのだが。そこいらのおじさんに聞いてみると、偵察中にクリタの偵察部隊と出くわしたりして、帰りが遅くなるという報告が入っているという。セイはがっかりして、とぼとぼと宿舎に帰ろうとした。と、その時・・・
ズシン、ズシン、ズシン、ズシンと足音を響かせて、メックがハンガーを出て行くのが見えた。セイは、ぱっと顔を輝かせた。どうやら、すぐ側の道を通って演習場に向かうらしい。
「あれは重量級のアーチャーだ! あっちは、重量級で一番重いマローダー。その後ろのは・・・粒子ビーム砲とミサイル発射筒が10本だがら・・・グリフィンだ! その後ろのはなんてメックだろう? すごく大きいなあ・・・」
4機のメックは、ちょっと地味目のピンク色を基調とした迷彩塗装である。状況によって迷彩を様々に変えるという事しか知らないセイは、その不自然極まりない塗装に何の疑問も持たなかった。だから・・・目の前をメックが通り過ぎる時、感嘆の声を出してしまったとしても当然だろう。
「かっこいいなあ・・・ぼくも早くメックに乗ってみたいなあ・・・」
その時、4機のメックがぴたりと止まった。そして、マローダーがセイに歩み寄ると、姿勢を低くした。そして、コクピットのハッチが開く。セイは、突然の事に硬直してしまっていた。
「セイちゃんじゃない。 どうしたの? こんな所で。」
「!!」
セイは、ますます硬直してしまった。先日の恐怖がよみがえってくる。だが、そのうちに残るメックもセイを囲むように移動し、次々にパイロット達が降りてくる。もちろん、全員この間のお姉ちゃん達である。しかも、全員Tシャツとホットパンツという軽装である。セイは思い出した。稼動しているメックの操縦席は、とても暑くなるので、みんな薄着で乗るのである。
「う〜〜ん、やっぱり可愛いですわねえ」
「・・・うん。可愛い。」
「白魚のような手って、こういうのを言うんだよな。男でこうなのって、滅多にいないだろうな」
「うふふふ。すりすり〜〜〜」
セイは、硬直しているうちにあちこち撫でたりさすられたりと散々玩具にされてしまった。ふかふかの胸に抱きしめられて、窒息しそうになったりもした。しかし、まだ大人の色気という物が良く分からないセイちゃんである。反応してあたふたと身を引き剥がしたのは、ブレンダのほっぺすりすりであった。自分よりせいぜい二つか三つしか上に見えないブレンダは、恋愛の対象になりうるのである。7つも年上だとは、夢にも思っていない。
ひとしきりいじりまわして気の済んでいたお姉様ズは、真っ赤になっているセイちゃんの様子にますます気をよくした。ほとんど愛玩動物扱いである。その事に気付いていないのは、セイにとってもっけの幸いというべきであろう。
「ねえ、セイちゃん。さっき、メックに乗りたいって言ってましたですわね?」
マルガレーテが話を切り出す。この一言に、逃げ出そうとじりじりと後ずさりを始めていたセイの足が止まった。
「え? さっきの独り言、聞こえたの?」
「ああ。けっこうメックの音響センサーってのは優秀なんだ。セイちゃんだって拡大映像で解ったから、音も拾ってたんだよ。」
「もし良かったら、載せてあげるデス」
「え・・・そ、それは・・・ホントに?」
「ええ。いいですわよ。後部座席になりますけどね。」
セイは・・・この瞬間、先日ひどい目に会ったばかりである事を忘れてしまったのである。
・・・早く帰ってこいよ、おやじ。でないと、息子がもっとひどい目に会うぞ。
さて・・・2時間後。訓練を終え、汗だくになってお姉様ズとメックを降りたセイは、顔を輝かせてお礼を言っていた。セイにとって、この2時間はどんなすごい遊園地やゲームセンターよりも面白い物だったのだ。
「ありがとう、お姉ちゃん達! すっごく楽しかったよ! 又乗せてね!」
「ええ。いいですわよ。」
「その時は、俺のゼウスに乗せてやろう。ゼウスも後部座席は大きいからな。」
「わあ! ありがとう!」
本当にきらきらした目をして言うセイ。自分では意識していないが、汗にしっとりと肌を濡らし、紅潮した顔は実に色っぽい。その毛のある男なら、絶対ほっておかないだろう。しかもここは軍隊。ホOの温床。実に危険である。しかし、当面の危機は目の前のお姉様ズにあった。彼女たちは巧妙な罠を、セイに気付かせないように用意していたのである。
「それよりセイちゃん。汗をかいたままだと風をひくです。シャワーを浴びた方が良いです。」
「そうだな。急いで浴びてこい。」
そういって、クレアはメックハンガーの一隅にあるドアを指差した。ちょっと設備の整った基地のメックハンガーには、大抵シャワールームがついている。汗だくのパイロットのためというのもあるし、毎日油まみれになる整備兵のためでもある。ただ、ここのメックハンガーにあるのは、シャワールームというよりは温泉に近い豪勢な物である。湯船はプールみたいな広さだ。発電所を作った時に、廃熱を利用する機構を取り付けて沸かしているのだ。ほかにも、クライバーンが魚の養殖などに使ったりと、結構あちこちでこのお湯が利用されている。
が、丁度この時、男湯は非常に混雑していた。テックの交代時間と、訓練を終えて帰ってきた歩兵部隊が共に男湯を使っていたからである。
「あらまあ・・・これじゃあ、セイちゃんが入るのは無理そうですわね。」
ドアの前で、マルガレーテがつぶやいた。
「じゃあ、セイはこっちの女湯に入ってろ。俺達は、報告書を書いてからになるからな。」
「・・・・うん。」
「今は、誰も入っていないです。セイちゃん、今のうちに急いではいるです。」
「え・・・で、でも、僕なんかがそんな・・・」
セイは、口篭もった。メックウォリアーのお姉ちゃん達より先に入るなんて、許されるのだろうか? しかし、深く考える前に、急かされてしまう。
「ほら、とっとと入る。遠慮する前に早く体を洗う事を考えろ。他の人が入らないように掃除中の札を下げといてやるから。報告書を書き終わるまでにちゃんと上がれよ! 命令だ!」
「は、はい!」
純真な少年は、まだ疑うという事を知らなかった。
「ふう・・・」
急いで体を洗い、湯船に浸かる。女湯に入るのは、あんまり違和感を感じない。去年までは、ママと一緒に銭湯に行っていた。今は自分一人なのだ。なにも恥ずかしがる事はない。
それにしても、今日は楽しかった。見る物全てが珍しく、素晴らしかった。シュミレーターとは段違いだ。あの加速感も衝撃も、温度の変化も、匂いさえもがすばらしかった。モニターの表示なんかはにたような感じだったけど、どこかが全然違った。どこがとは言えないが。セイは、戦闘の緊迫感という物が違うのだという事に気付けず、少しもどかしかった。とその時。
がらがらっ。ピシャピシャピシャ・・・「そ〜〜れっ!!」 ジャッボ〜〜ン
セイは・・・今見たものを認めたくなくて、思考停止した。素っ裸のブレンダが、浴室に入ってくるなり湯船に飛びこんだのだ。盛大に波しぶきをかぶってしまった。ブレンダは、そのままプカッと浮かんで、ゆらゆらといった感じで泳いでいる。そして・・・
「まあ、ブレンダ。お行儀が悪いですわよ。」
「まあまあ、良いじゃんか。身内しかいないんだしよ。」
「まあ・・・こういう時くらい、開放的になっても・・・いいか。」
マルガレーテ、クレア、アミイまで入って来た。見てしまった。湯気ごしで細部は見えなかったが、でも、目に焼き付いてしまった。キレイだった。ママも奇麗だと思っていたけど、この4人の奇麗さには・・・セイはそこではっと気付き・・・
「わ〜〜〜〜っっっ!!!!」
逃げ出そうとしてその方向にはお姉様達がいるので出来ず、窓の方を見るが上の方に小さな窓があるだけで無理とさとり、仕方なくセイはお湯に潜った。
ブクブクブク・・・
「おやまあ、可愛い反応するねえ・・・もっといじめたくなっちゃうよ。」
「ホントですわね。とってもからかい甲斐がありますわ。」
泡ぶくのたつ所のすぐわきで、のんびりとお湯に浸かりながら会話するクレアとマルガレーテ。
「・・・私は知らんぞ。」
対してアミィは、我関せずと壁際の湯口で体を洗い始めた。
「アミィも遊べば良いです。気持ち良いです。」
ブレンダは、気持ち良さそうに浮かんでいる。
相変わらずセイちゃんは潜ったままだ。なんだか浮かび上がる泡の量が増えているような気もするが。
「どうでも良いが・・・そろそろ限界ではないのか?」
アミィの指摘に、マルガレーテとクレアの目が怪しく光った。ブレンダも、泳ぐのを止めて、泡ぶくの方へと移動する。
「うふふふ・・・そうですわね・・・」
「このままじゃあ、溺れちまうよなあ・・・」
「助けないといけませんです」
3人は、うなずくと、お湯の中に潜ったままのセイに手を伸ばした。
かくして・・・今日もまた、セイちゃんの悲鳴が鳴り響くのである。
「うわあぁぁああん! パパ、助けて〜〜〜」
大きな浴室の中、裸にされた小さな男の子に向かって立つ4っつの人影。手に手に持つのは、スポンジやタオル、石鹸にシャンプーである!
「男らしくないなあ・・・気が変わった。私も参加する。」
「ほら、暴れるんじゃない!」
「大丈夫、恐くないのよ。ね?」
「うふふふ・・・大丈夫です。ちょっと体を洗ってあげるだけです。」
・・・かくして、この数分後、パンツ一丁のセイは、かろうじて引っつかんできた服を持ってシャワールームからから逃げ出すのである。
・・・この年でメックウォリアー4人を相手取って逃げ出せると言うことは、相当すばしっこいと言うことになる。才能あるセイちゃんの未来に幸あれ!