『聖ちゃんの受難 天使の策謀』
外来者用のロビーの片隅に、メックの操縦シミュレーターが数台置いてある。基地訪問者に開放されている、有料のシミュレーターだ。セイは、基地に到着してから、毎日これをする事を日課にしていた。しかし、有料であるために、今までは短時間しか出来なかった。ところが、今日は基地の奥にある・・・基地のメックウォリアーとその候補が自由に使用できるシミュレータで訓練していた。父が連れて来てくれたのだ。
外来者用のとちがって、随分と汚く、変な匂いがしたのでセイは驚いた。しかし、父の説明によって、このシュミレーターのほうがはるかに素晴らしい物である事を、セイは知った。これは、本物のメックの操縦席なのだ。本当にメックに組み込んで使用する事も出来るという。あまりに古くなって、戦闘の衝撃に耐えられるか不安になった物を流用しているという。
セイは、画面の中のマローダーに粒子砲を撃ち込みながら聞いた。
「ねえパパ。この操縦席、なんてメックのだったの?」
後ろの予備シートに乗ったマディックが、ちょっと首をかしげて答えた。
「寄せ集めて作ったのだからなあ・・・。しかし、その操縦管はシャドウホークのだな。このパネルは多分グリフィンのだ。150年くらい前に製造されたバージョンだと思うが・・・」
ズシン! 操縦席がゆれる。マローダーの粒子砲とオートキャノンが、仮想空間のグリフィンに当たったと判定されたのでゆれたのだ。表においてあったシミュレーターとは比べ物にならない衝撃だ。
「すごい衝撃・・・」
「全身のマイアマーなんかを制御する計算をしなくても済むからな。その分で、衝撃を計算して、この操縦席を動かしてるんだ。本当の戦闘ではもっとすごい衝撃が来るぞ。・・・右だ!」
「わわ!!」
ドカドカドカ!!
キュウウウゥゥゥンン・・・・
操縦席が、横倒しになる。転んでしまったようだ。
「ええ!?」
「ほら、さっさと立て。遼機に援護を頼むから。」
マディックが、後方の座席の制御卓を叩く。教官が候補生を教える時のために、後部座席には制御卓がついているのだ。
「えい! えい!」
「セイ、馴れないうちは、まず頭で立とうと考えるんだ。メックをロボットと思うな。自分の体と思え。」
「う、うん。」
横の画面には、マローダーを翻弄するフェニックスホークの勇姿が映っている。
ズシン!
一端垂直になりかけた操縦席に、再度衝撃が走った。また、横倒しになる。
「あ〜〜〜ん、パパ〜〜〜〜(泣)」
「・・・ま、この年じゃあ、こんなもんかな・・・」
セイは、まだ10歳である。神経感応ヘルメットを調整するだけで一苦労だったのを思い出して、マディックは苦笑した。セイの言動の一つ一つが可愛い。父親というより、年の離れた兄のような気分だと、マディックは思った。
そのシュミレーターを監視する、一つの人影が有る。内部の様子が分かるように儲けられたいくつかの窓から覗くのではなく・・・操縦席の激しい動きから、もうしばらくは訓練が終わりそうにない事を確かめた人影は・・・腕の小型通信機を起動して通信を送った。
「こちらB。目標Sを発見。現在目標は、シミュレータールーム。もうしばらくは、メックの操縦訓練を行う模様。Fが同行しています。」
「こちらM。了解しました。先程Cから、目標Mが巣穴に帰ったとの報告を受けました。これから作戦を開始します。」
「了解。私は、しばらくこちらの監視を続けます。」
「事態に変化が有りましたら知らせてください。以上」
マディックとセイは、この怪しげな看視者の事にまったく気がつかないで、シミュレーターを続けている。二人に忍び寄る、怪しい陰謀! その正体とは何か!? 以下次号!
ちなみに、シミュレーター室の辺りにいる者達はみんな、小学生じみた容貌にジャンバースカートという目立ちまくる姿のため、全員気付いてるぞ!!
知らぬは本人ばかりなり!?