『セイちゃん初出勤』

 「さあさあ! 遅れてしまうわよ! 着替えて着替えて!」
 ユミナは、うきうきしながらセイを着替えさせた。
 「なんといっても、セイの初仕事なのよ。メックウォリアーのへの修行の第一歩なんだから。しかも、条件はこれ以上ないというほどいい従卒契約だわ。がんばるのよ、セイ。」
 ユミナは、笑顔いっぱいでセイに話し掛ける。
 「あら? どうしたの? マディックもセイも浮かない顔で・・・あ、わかったわ! ゆうべシミュレーターで疲れすぎたからね! はしゃぎすぎなのよ。まあ、許してあげるわ。初めて会えたんですものね。」
 「「・・・・・・・・・・・」」
 ユミナの言葉に、二人は無言で答えた。なぜかマディックとセイの顔は晴れない。ユミナは、不思議そうな顔をした。
 「どうしたの? マディック。昨夜この事を教えに行ったら、喜びのあまり大声を上げたくらいじゃない?」
 不審に思いながらも、ユミナは手際よくセイを送り出した。マディックも、訓練が有るとのことなので送り出す。
 ユミナの誤解は、しばらく解けそうになかった。

 さて、初出勤したセイちゃんだが、少なくともその日一日は何事もなく終了した。ブレンダにほお擦りされたりマルガレーテにホッペにチューされたりとかクレアの膝の上に抱っこされたりしたくらいである。
 
 ブラッドハウンドではこういった子供たちの教育を、午前中に全員集めての集合教育、午後からはそれぞれの適性に合わせての個人教育に当てている。この教育の傍ら、少年少女達に最低の下っ端として軍務の手伝いをさせ、上官に対する服従を自然に覚えさせたり、戦場の雰囲気のかけらを体験させたりする。

 しかし、セイちゃんはまだ手続きが終わっていない。理由の最たるものが、マディック大尉がセイとユミナの籍を入れずにいるからだ。この二人の立場は、未だに郎党でも契約して入隊した新隊員でも連邦からの派遣隊員でもない。宙ぶらりん状態なのだ。
 だから、当分の間は、セイちゃんは守護天使小隊の従卒として、個人授業のみという事になった。
 
 「ほらセイちゃん。メックウォリアーたるもの、身だしなみにも注意しないと。お古だけど、この軍服あげるよ。」
 セイは、守護天使小隊とおそろいの軍服を貰った。ブラッドハウンドは、ダヴィオンから支給される正規の軍服は1着のみで、あとは自費で軍服をそろえなければならない。そのため、駐屯地で売っている安い軍服を隊員達に支給している。つまりは、軍服はバラバラである。守護天使小隊の軍服は、マルガレーテの特技のせいか、統一されていた。セイは、女物の軍服をそうとは知らずに着込むようになった。

 「セイちゃん。メックウォリアーはエリートなんデス。惑星軍や軍管区の偉い人とも話したりするデス。礼儀作法や言葉づかいはきちんとデス。」
 セイは、礼儀作法の勉強に紛れて、女の子的なしぐさや言葉づかいを教え込まれた。

 「うんうん、射撃の腕はいいな。この年としては驚異的だ。さすがはマディック大尉の子供だな。明日は、バトルメックの後部座席に乗って、戦いがどんなものかの勉強だ」
 セイは、バトルメックの操縦訓練に夢中になるあまりに、守護天使小隊に丸め込まれ、なついていった。
 
 「はいセイちゃん。今日メックに乗る時は、この服に着替えるですわ。」
 マルガレーテ少尉が、また服をくれた。なんだか、一度も見たことのないタイプの服だ。白いTシャツみたいなのと、紺色の厚手のパンツみたいなのである。
「昨日、みんなで買い物に行ったでしょう? その時に見つけたので買ってきたんですの。この服の売り出し用キャッチフレーズが『汗を良く吸収し、素早く蒸発させ、通気性が良く、細菌の増殖を抑え、動きやすい上にとても軽い新素材を使用』となっておりましたの。もし本当なら、暑い操縦席内の服にはぴったりですわ。今日の訓練は、この服の着心地を確かめるのを兼ねるとしますわ。訓練が終わったら意見を言って下さいましね。」
 メックでの実戦訓練終了後、全員着心地がまあまあ良かったとの意見になり、この服が正式採用された。
 以後、守護天使小隊(セイちゃん含む)は、体操着にブルマー姿でメックに乗ることになった。
 
 メックでの遠距離行軍訓練の途中、セイ達はとある町に立ち寄った。昼食をとるためである。ジープでついて来ていた整備兵のうち、昔はメック乗りだったブレンダのおじいちゃんがグリフィンに乗って御留守番をした。
 「あ、服屋さんが有りますわ。汗だらけですから、服を買って着替えましょう。大丈夫、わたくしが出しますわ。」
 店の着替え室で濡れタオルを借りて汗をぬぐい、女の子らしい可愛い服を買って着替え、こざっぱりとした格好でレストランに入った。もちろんセイちゃんもボーイッシュな女の子としか見えない服装に着替えさせられたのだが、このころにはセイちゃんも諦めるという事を学んでしまっていた。
 その様を、たまたま通りかかっていた地元のテレビ局がフォーカスしていた。
 トットリ基地を陥落させた天使降臨作戦で活躍した(彼女達は3機撃墜している上、書類上はマディック大尉が一人で倒したホフ小隊撃滅戦にも参加したことになっている)華やかなる女性達の一員としてセイちゃんも紹介された。
 まあ、誤解されてもしょうがないだろう。
 かくして、守護天使小隊のみでなく、セイちゃんにもファンクラブが出来た。もちろん、男中心のファンクラブである。
 
 セイちゃんの知る所知らない所両方で、不幸はどんどん蓄積していった。まあ、双方共気付いていないとはいえ、セイちゃんは宿敵のすぐ側にいるのである。当然といえば当然といえなくもないのであるが・・・