『ロックウッド少尉の受難 』 作:MT.fujiさん

10月。ちょっと蒸し暑い日。ロックウッド少尉待遇曹長(いまだに周囲共々慣れることができず曹長と呼ばれること多々有り。以後少尉と略す)は基地内のあちこちを探しまわっていた。
「少尉? カサンドラ少尉?」
もうじき訓練開始だというのに、カサンドラ少尉がいないのだ。
これでは、下に示しがつかない。
ロックウッド少尉自身、カサンドラ少尉には早く一人前になって欲しいと思っていた。指揮官としての気苦労から早く解放されたかったからだ。そのために、カサンドラ少尉への教育では色々と丁寧に教えていたつもりなのだが・・・
 確かにデスクワークに関しては以前より減った。しかし、気苦労はむしろ増したように思えるのは気のせいだろうか?
「はあ・・・」
とため息をつくロックウッド少尉の背中には哀愁が漂っていた。

結局、ロックウッド少尉がカサンドラ少尉を見つけたのは厨房であった。
「あら、少尉?どうかしたんですか?」
「どうかしたって・・・それは私が聞きたいんですが・・・」
長い美しい髪を布の下に押し込んで纏め上げ、軍服の上には細かな粉末から軍服を防護する為の布がつけられて・・・いや、要は頭を三角巾で包み、エプロンをしているという事なのだが。
「クッキーを作っているんですの」
ロックウッド少尉の悩みも知らぬ様子で、にっこりと笑ってカサンドラ少尉は言った。
「クッキー!?」
「ええ、部隊の皆に配ろうと思って、喜んでくれるかしら?」
呆然としたロックウッド少尉に、少し心配気にカサンドラ少尉は尋ねた。
「いや、そりゃあ、喜ぶとは思いますが・・・」
何か違うだろう?
そんな気分がぬぐえなかった。
「と、とにかくですね!もうじき訓練が始まるんです!少尉がいないと格好がつきません!それから・・・料理が趣味なのはわかりますが、偵察兵にはもっと学ぶべき重要な事が・・・」
「いやあ、現実は何があるかわからんし、何が役に立つかわからんもんだぞ?」
今まで押さえていた事が噴出しかけたロックウッド少尉は自分がいきなり至近距離から声を掛けられた、という事実に驚いて振り向き・・・そして絶句した。
「あ、アーバイン、少尉?」
補充としてやって来たアーバイン少尉の格好を見て、ロックウッド少尉は呆然とその姿を見つめていた。
別に変な気持ちで見ていたのではない。エプロン姿のアーバイン少尉の姿が何か現実離れしたような気がしただけだ。
アーバイン少尉はかつて偵察兵としても動いていたそうで、幾度か偵察部隊と共に身体を動かす訓練と称して参加しに来ていた。
その結果、動きに関しては熟練の偵察兵としてのものがあるのが分かっていた。銃の腕は然程ではないようだが、格闘術・ナイフ戦闘に関してもなかなかのものがあった。メック戦士としてもマディック大尉には及ばないものの、かなりの腕がある・・・。
なのに、なんで?
なんで、こんなところでこんな格好をしているの?
混乱した頭でロックウッド少尉は呆然と思っていた。
「あ、アーバイン少尉も料理が趣味だとかで・・・手伝ってくれてましたの。彼、上手いんですよ。」
笑顔で語るカサンドラ少尉の言葉が妙に遠い所から聞えてくるような・・・そんな感じがしていた。

結局、いつまで経ってもやって来ないカサンドラ少尉、探しに行ったまま戻ってこないロックウッド少尉を心配してやって来た偵察部隊の残る面々が見つけたのは、ニコニコと笑顔でロックウッド少尉にクッキーの味見をしてもらっているカサンドラ少尉とそれを面白そうに見やるアーバイン少尉、そして、呆然と半ば機械的に差出されたクッキーを口に入れ、噛み砕いているロックウッド少尉の姿であった。

後日談 :
ユウキ中佐「ロックウッド少尉、聞いた話じゃ、なんでもカサンドラ少尉といい仲らしいじゃないか?」
ロックウッド少尉「誤解です!」