『お見合い』
 

 「どう? 良さそうな人は見つかった?」
 「う〜〜ん・・・」
 「良くわからないアル・・・」
 「むう・・・」
 「なんか、その、あの・・・でも・・・」
 失機者達が、なにやら薄っぺらいファイルをとっかえひっかえしながらうなっていた。どれも、着飾った大きな人物写真と、個人データが一人分だけ載っているファイルだ。数十もあるだろうか。
 このファイルの山を持って来たのは、シェリル・マーカライト中尉。整備小隊を束ねる恰幅の良いおばさんである。ものすごく頼りになりそうなその姿は、肝っ玉母ちゃんという表現がしっくり来る。
 「・・・いきなり持ってこられても、ちょっと・・・その・・・」
 「あら。心の準備がまだだったかしら? まあ、急ぎはしないから、そのうち返事を聞かせてちょうだいね?」
 そういって、シェリル中尉は帰っていった。後に残った若者達は・・・見合い写真の山を前にして、ひたすらうなっていた。そう、かれらは、見合い写真を見て、良さそうな相手を選びなさいと言われているのである。
 もちろん、強制ではない。今すぐという訳でもない。だが、その方が有利だとは言われている。
 たしかに、婚姻関係を結ぶことは、非常に魅力的だ。新参者の自分達が、ブラッドハウンドに長年貢献した一族の家長としての地位を獲得し、有力な後見人を得られるということを意味する。結婚すれば、部隊に骨を埋める覚悟があるという意思表示もできるだろう。
 貸与されているだけのバトルメックが、結婚した一族に下賜され・・・すなわち、家長の自分の所有物として正式に認めてもらえるだろう。
 
 だが、いきなりそういう話を持ってこられても困る。いま、自分達は、バトルメックの機種転換訓練で精一杯なのだ。

 「・・・この二人・・・かな・・・」
 そんな中、アルベルトただ一人が選択を終えた。恒星連邦の正規軍に所属していた彼は、元男爵だった。当然ながら、そういった貴族階級の常として、政略結婚に抵抗は少ない。こんな風に、相手を多数の中から選べるというのは、それだけで破格の好条件に思えるのだ。
 「だれだい?」
 「誰アルか?」
 「どれどれ・・・」
 「まあ、素早い決断ですね・・・」
 皆が覗き込む。
 アルベルトが選んだ相手の一人は、クラウディア・バートン中尉。指揮小隊に所属するメックウォリアーだ。年は同じくらいだし、一族にメックウォリアーが二人となれば、いざという時安心だ。なにより、なかなかの美人である。
 もう一人は、フェイム・ファーファリス少尉待遇軍医。データグラスがなんとも良く似合う女医さんである。こちらも実に魅力的だし年も近い。
 「この二つのファイル、貰っていいですか?」
 「むう・・・早い者勝ちというからな・・・」
 「結婚の決意すらまだだ。是非もない・・・」
 アイン・ファントとライフス・ダストトゥダストは、力なく諒承した。
 イ・ホンユイとモーラ・ヴェドニアは女なので反対する理由がない。
 「まあ、実際にどちらと結婚するかは、もうちょっと良く知り合ってからになるでしょうけど。とりあえず、この二人ということで・・・」
 そういって、アルベルトは、休憩室を出ていった。
 
 フェイム様親衛隊なるものに、なぜかこの話が伝わり、妙な騒動が起こるのは数日後のことである。
 アルベルトの結婚までの道のりは、けっこう遠そうだった。