『フェンサー少尉の受難』  作:MT.fuji

その日、フェンサー少尉は哨戒任務から帰ってきたばかりであった。
帰ってきた後、手書きで報告書を提出し、さて、これで休めるか、と思った時であった。
「?何だ?」
微かに泣き声が聞えたような気がして、フェンサーはそちらに足を向けた。・・・思えば、これが運命の分かれ道であったとはフェンサー少尉は全く思いもしなかった。

「うわああああん、ぱぱ、たすけて〜〜〜!!!!」
「・・・あの声は?セイちゃん?」
自分の師匠とでもいうべきマディック大尉の息子が泣いているなら、助けた方がいいかな、と思って階段を上がって、角の向こうを覗きこんだ。
「・・・げっ!」
確かにセイちゃんはいた。
確かに泣いていた。
問題は、追いかけているのがマーガレットを中心とした守護天使小隊だった事だ。
「そんなに逃げなくていいんだぞ?」
「そうデスよ?」
「やっと、セイちゃんの初陣のお祝いが届いたんですのよ?」
「人の好意は謹んで受け取るべきだと思うが」
口々に言いながら追いかけてくる守護天使小隊。言っている事は別に変な事ではない。無事切りぬける事が出来たキャンディ作戦でのセイの初陣の品をわざわざ取り寄せたらしい。
・・・金はあるところにはあるもんだ。
祝いの品だって、真っ当なものだ。なんたって、MWスーツだ、それもセイちゃんサイズの。
問題があるとしたら、それが特注品みたいで・・・ウサギさんの着ぐるみを模している、という点くらいだろう。
・・・それが問題だって?ごもっとも。

「・・・すまない、セイちゃん、こっちも玩具にされたくないから・・・」
薄情にも見捨てる事にして、こっちにやって来る前に逃げようと体重を後ろにかけた時だった。
ガクッ、といきなり揺れた。
「え?」と思う間もなく、バランスが崩れた。
更に激しい揺れが来て・・・立てなおせぬまま、フェンサー少尉は後ろに倒れた。ここが階段を昇った所でなければ、もっとマシだったろうに。
ドテ、ゴキ、グシャ、ポキ、ズシン。
地震のゴゴゴ・・・という音にまぎれて、そんな音が響いたような気がした。

「ああ、びっくりしましたわ」
「いきなり地震とはな」
「びっくりしたよ、まったく」
「あ、セイちゃん、どこ行くです?」
「え?ああああああああの・・・あ!階段の下に誰か倒れてる!」
「え?あら!本当!」
「あれ?こいつ確かフェンサー少尉・・・」
「さっきの地震で階段踏み外したんですね?」
「とりあえず、医務室に運ぼう」

う・・・
ぱちぱち、と瞬きしてフェンサー少尉は目を開いた。真っ白な天井が視線に入ってくる。見た事がある、ここは確か・・・医務室?
ふっと手を動かすと、何やら身体がふかふかしたものに包まれている感覚があった。だが、気持ちいい肌触りだった。どうやら着替えさせられたらしい。・・・着替え?誰が?
そこでようやくフェンサー少尉の意識が覚醒した。
がばっ、とベッドから跳ね起きて、自分の姿を見る。
「な、なんだ、こりゃ・・・」
牛である。正確には牛さんを模したデザインのパジャマ、というべきか。ぶちのついたふかふかの素材が身体を包み、ふと触ってみた頭には耳付きのフードがしっかりと・・・。しっかりと首にはカウベルまでくっついている。
「おや、起きたか」
その声に首を巡らすと、アミィ少尉の姿が目に入った。
「あのう・・・このパジャマは・・・」
「マルガレーテのお手製のモーモーパジャマだそうだ」
やっぱり・・・がっくりとうなだれるフェンサー少尉であった。
「あら?似合いますわよ?。
え?とですね、これは吸水性を考えると共に、ベッドから落ちた際の事も考えて、衝撃吸収性まで持たせてあるんですのよ?しかも、ちゃんと体調を管理する異常を感知するセンサーもつけてありますし?(と言いつつ、カウベルを指差す)」
「あ、それと着替えはセイちゃんがやってくれましたから安心してくださいね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何も言えない、フェンサー少尉であった。まあ、彼女達が着替えを行なわなかっただけマシと考えるべきなのだろうか・・・。
「あ、記念と今後の参考の為に写真撮らせていただきましたわ?。今、部隊の人に頼んで現像中ですの」
が、マルガレーテのその一言でフェンサーの顔は一瞬にして強張った。
「は?あ、あの?・・・・・・・・・・・・現像を頼んだ、とおっしゃいましたか・・・?」
「ええ(にっこり)」
完全に凍ったフェンサーを守護天使小隊の面々が不思議そうに見ていた。

後日・・・。
モーモーパジャマに包まれて寝ているフェンサー少尉の生写真、なる代物が部隊の女性陣・・・・一部男性陣も含む・・・に出回りまくったそうである。・・・合掌。