『カーティス准尉の平凡な毎日 その@』  作:緑の雑魚 戻る  トップへ

『フェイム・ファーファリス少尉待遇軍医の場合』 


カーティス・T・フィルフォード

傭兵部隊ブラッドハウンドにおいて、「ナンパ師」・「女たらし」と呼ばれ、一部の隊員から敵意にも似た感情を向けられている人物だが・・・。
果たして彼は本当に「ナンパ師」や「女たらし」なのであろうか?

これから、隊員の目撃証言や、可能ならば当人達からの事情聴取を元にして実態を探って行きたい。

証言
医療班所属  A・Nさん

ええ、私は見ました。
その日はたまたま私は非番で、他の皆も色々な任務で医務室から出払っていたんです。
ファーファリス少尉を除いて・・・。
あの野獣がやって来たのはそんな時でした。
私は非番だったんですが、偶然医務室の前を通りががった時に医務室の中から凄い音がしたんです。
私が慌てて医務室に入ったら、あの野郎、ファーファリス少尉を押し倒していたんですよ!
まったく、許せません!
マディック大尉の嫁さんのユミナさんにも手を出しているっていう噂もありますし、もう救いようが無いですね!


状況証拠と本人達からの事情聴取から推測される事件の真相


航空兵 カーティス・T・トッドウェルはあまり知られていないが勉強熱心である。
彼はゲッツ准尉がクリタ軍の戦車によって撃墜され、ジャングルでのサバイバルを余儀なくされた後、自らが撃墜された時のことを考え自分自身の身を守るために武術や応急医療の訓練を今まで以上に行っていた。

「はい、そうです。カーティス准尉は飲み込みが早いですからこちらも教えがいがあります。」
「有難うございます、ファーファリス少尉。」

ここは医務室。
カーティス准尉はここ、医務室でファーファリス少尉待遇軍医から応急治療の手ほどきを受けていた。
なんでも色々と任務があるそうで、他の隊員はおらず彼と、ファーファリス少尉待遇軍医は二人っきりだった。

「でも、どうしてこんなに熱心に訓練を繰り返すんですか?」
「私が生き残る為です。目の前で僚機が撃墜されてしまったんです。今まで以上に必死にもなりますよ。」

ファーファリス少尉の言葉にカーティスは真剣そのものといった表情で応じる。
それを見たファーファリス少尉も何か言ってはならぬ事を言ってしまった気がして、それ以上はこの話題に触れず口を閉ざす。

「さて、では次は貫通銃創と盲管銃創の処置の仕方をお教ていただけませんか?」
「あ、はい。良いですよ。」

先ほどとはうって変わった明るい調子のカーティスの言葉にファーファリス少尉も、つられたように笑顔で答えたが・・・、ふとある事に気が付いた。

「あら、このお薬、もう切れそうね・・・。ご免なさい、カーティス准尉。すぐに準備しますから。」

そう言ってファーファリス少尉は、何処からか引っ張り出した背の高い脚立に上るが・・・。
脚立はグラグラと揺れていかにも危なっかしかった。

「ファーファリス少尉、私がやりましょうか?」

流石に心配になったのだろう。
そう言ってカーティス准尉がそう声をかけるが・・・。
結果としてこれがいけなかった。

「いえ、大丈夫です・・・? きゃぁぁぁぁっ!?」

カーティス准尉の言葉に気を逸らしたファーファリス少尉は、バランスを崩してしまい重い薬ビンを撒き散らしながら脚立から足を滑らせてしまったのだ。

「ちぃ!」

この事態にカーティス准尉は一瞬の判断で飛び出し、ファーファリス少尉を受け止める為に飛び出したのだ。

「くぅ!」

かろうじて受け止められるファーファリス少尉。
そして、カーティス准尉は慣性の法則に従って落下する薬ビンからファーファリス少尉を守るためにそのまま覆いかぶさった。

一瞬の間。

そして・・・。

ガシャガシャドゴォ!ガシャーン!ガシャ、ドゴォ、ガシャーン!

薬ビンが床に叩きつけられて割れて行く凄まじい音の中に、重いものが肉を打つ鈍い音が混じり・・・。
全ての音が止んだ後、すぐに動くものは無かった・・・。

最初に動いたのはファーファリス少尉だった。
ファーファリス少尉が恐怖で固く閉じていた瞳を開くと、そこには自分に覆いかぶさりその破片から自分を守ってくれたカーティス准尉がいた。
・・・のだが。
カーティス准尉は失神していた。

「カ、カーティス准尉?」

ファーファリス少尉はカーティス准尉に声をかけるが・・・、薬ビンの当たり所が悪かったのだろう。
カーティス准尉はファーファリス少尉に覆いかぶさったまま目を覚まさない。

まあ、気絶しつつもファーファリス少尉をかばいきったのはたいした精神力の賜物と言える。

「えっと、・・・どうしましょうか?」

ファーファリス少尉は何とかしてカーティス准尉の下から抜け出そうとするが、周りはガラスの破片と薬の錠剤が派手に散らばっており、とても這い出せるような状態ではない。
体格差がある上に、不安定な体勢ではカーティス准尉を持ち上げる事もできないし、まさか横に転がすわけにもいかなかった。

「・・・動けませんね。うーん、誰か来るまで待ちましょうか・・・。」

そう、ファーファリス少尉が諦めかけた時だった。

ガラッ!

「どうしたんですかファーファリス少尉・・・!?」

先ほどの音を聞いて駆けつけたのだろう。
一人の兵士が扉を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。

アドルフ・ネイファ 上等兵
それがこの隊員の名前と階級である。
彼は非番の医療隊員だったが、たまたま医務室の前を通りががりあの騒音を聞きつけたのだ。
そして眼前の光景。
それはどう見てもカーティス准尉がファーファリス少尉を押し倒し、ファーファリス少尉の抵抗で見事に気絶しているようにしか見えなかった。

「あのアドルフさん、見ていないで助けてくださいよぅ。」
「あ、はいっ!って人の奥さんを押し倒すとは何やっているんですかぁ、カーティス准尉!」
「・・・えっ?」

ファーファリス少尉は一瞬自分の耳を疑い、そして助けに現れたこの隊員がとんでもない勘違いをしている事に気がついた。

「あのっ、違うんですカーティス准尉は・・・。」
「さあ、今から助け出します!っと、まったく少尉の咄嗟の機転の賜物ですね。カーティス准尉は気絶してますから、後でアルベルト少尉に突き出せるようにベッドに放り込んで置きますね。」

だが、ファーファリス少尉の言葉は早口でまくし立てるアドルフ上等兵の耳には届かない。
元々彼は美人郎党二人との関係を持っているカーティス准尉に、あまり良い感情を持っていなかった。
それにこの状態である。
アドルフが勘違いをしても、それは無理なからぬ事だった。

「だから違うんですって・・・!」
「さあ、もう大丈夫ですよ。ガラスの破片も掃除しておきますから。アルベルト少尉もすぐに呼んできますから。」

ファーファリス少尉は必死に事態の説明をしようとするが、・・・ちょっとした興奮状態のアドルフ上等兵はファーファリス少尉の話にまったく耳を貸さない。
そうこうしている内にガラスの破片は取り除かれ、アドルフ上等兵はアルベルト少尉を呼びに行ってしまう。
そして残されるのは途方にくれたファーファリス少尉と、未だに気絶したままのカーティス准尉のみ。

そして、いくらの時間もたたない内に憤怒の形相のアルベルト少尉が医務室に飛び込み・・・、この事件は全て解決した。

ただ、苦笑めいた表情のカーティス准尉と申し訳なさそうなファーファリス夫妻が楽しそうに会食をしていたという情報がある事から、どうやらアルベルト少尉はことの次第を知ったようだ。


今回の事例を見れば、カーティス准尉は運が悪かっただけと言えるが・・・。
果たしてそれが本当にカーティス准尉の本性なのか?
この事例の他にも多数の情報がある以上、これらの情報の分析を行わなければならないだろう・・・。

 

 

資料

○アドルフ・ネイファ 上等兵
少なくとも12月の時点で入隊している医療班員、と思われます。
それ以前からブラッドハウンドの医療班に所属していたのかどうかは不明です。