『ある整備兵のつぶやき』 作:おじ 改訂:ミッキー

副題:「春は恋の季節ですってかぁ」


このごろはまったくもって、面白くない。

 俺の名前はロック・ファウンド。整備兵中隊に所属する平凡な軍曹だ。特に目立つことのない下士官で、今日もシェリル大尉に怒鳴られながら油にまみれて働いている。
 そんな俺だが、このごろ腹に据えかねていることがある。周りから年頃でフリーの女性が急速に減っているんだ。しかも、毎日毎日やれデートだ一緒に食事だ休日の予定がああだ、夫婦用の部屋に移る準備だという話が引きもきらない。こうもあてつけられてちゃいくら温厚なおれでも面白くないってもんだ。 
 マディック大尉・・・色々有ったみたいだが、結局は幸せそうだな。
 クライバーン少尉・・・新婚生活は楽しいですか。
 アーバイン少尉・・・婚約者を呼び寄せるそうで・・・羨ましいですな。
 アルベルト少尉・・・人前でいちゃつきやがって・・・畜生! 俺、あこがれてたのに・・・まあ、しょせん高嶺の花だったけどよ。
 カーティス准尉・・・整備中隊にも女性が増えたって喜んだのに・・・2人共あんたの愛人かい! 見せつけやがって、こんちくしょう!!

 クラーク伍長・・・こいつが一番ゆるせん! 大体だな、エカテリ−ナ曹長は整備中隊、唯一の花だったんだぞ! それを横から出て来て、あっさり手折ったな〜〜!! ゆるさん、絶対ゆるさんぞ〜、まだ正式にメックウォリアーと認められてもいない伍長の分際でよくも抜け駆けしやがったな〜〜〜!!
 俺は横目でエカテリーナ曹長を盗み見る。
 曹長も一休み中らしい。左腕を上げて、嬉しそうに見ている。ヤツが贈った腕輪を見ているのだろう・・・照れて笑う様がとても可愛い。くそう、あの人がすでにあの外道のモノだと言うのか〜! 
 俺は仲間である、独身整備兵達とアイコンタクトで意志疎通をはかりクラークのヤツを血祭りにする事を決定した。
 
「後は計画を!!」
 その瞬間、俺の真後にいる誰かが不機嫌そうな声を上げた。
 「何さぼってんだい!!」
「はっ、シェリル大尉!?」
 おれは、おお慌てで振り向いた。
 シェリル・マーカライト大尉。整備中隊をまとめる凄腕テックである彼女が仁王立ちしていた。小柄だが恰幅のいいその体から、怒りのオーラが立ち昇っているような気がする。シェリル大尉は、普段は頼り甲斐があると言うしかない雰囲気を漂わせているのだが、一度怒るとそれがそのまま威圧感へと転化される。そうなったら、俺達下っ端は恐怖に脅えてまともに喋れなくなっちまうんだ。さすがは、200人近い大所帯の指揮官というか・・・それはともかく。何とかこの場を逃れないと・・・ 
「・・・これはですね・・・えっと・・・そのー・・・」
「花じゃなくて悪かったねえ。」
 まずい。そんな所から独り言を聞かれていたのだろうか? おれは、恐怖からかまたもや口走ってしまった。
「聞いてたんですか! はっ、いえ、ですからそのー・・・」
 語るに落ちる、である。これでは、認めたも同然だ。
 
 誤魔化すのに失敗した俺は罰として、徹夜で戦車の修理をする羽目になった・・・これもクラークのせいだ、畜生! クラーク、覚えてろよ〜〜〜〜!!