『クラーク伍長の災難』    作:おじ 改定:ミッキー   戻る
 
 その日・・・クラーク・エアハルト伍長は訓練を終え、遅い昼食を取りに食堂へ向かっていた。そんな所に、セイちゃんという男の子とであった。マディック大尉の息子さんで、少女と見まがう長い黒髪の美人(10歳、『男の子』)である。間違っても、ハンサムとは言えない。そのどこかはかなげな容姿から、何度も美少女と間違えられ、酷い目にあっているらしい。しかも、従卒契約をしている守護天使小隊や周囲の少女達の猛烈な反対に遭い、成人式が終わった後も髪を切れないでいるという。

 クラークは、そんなセイちゃんが不憫で時々お菓子を上げたりしていた。
 軍では、カロリーを大量に消耗する作戦や訓練の時にはチョコレートなどが、歩哨の時には眠気ざましにチューインガムが、というように、状況によって結構な量のお菓子が支給される。大抵は少し多めに支給される。人によって摂取量が違うという点と、わずかなお菓子の量で任務を左右されてはかなわないからである。すくなくとも今のブラッドハウンドはさほど補給状態はそこそこ良好で、お菓子はの配給は充分だった。
 この配給量は、甘い物好きというわけでもないクラークにとってはかなり多めとなる。郎党のいないクラークとしては、お菓子の処分先はない。そんなわけで、クラークは大抵行きずりの子供に分けてあげたりするのである。誰に上げるかは、はっきり言って行き当たりばったりであるが、女の子にあげる確率が高い。やはり、レディーファーストだからだ。セイちゃんは、例外的に女の子達と同じかそれ以上にお菓子をあげているが。

この時もクラークは、チョコレートを一枚持っていた。
 「やあ、セイちゃん。チョコレート要らない?」
 「クラーク伍長さん? わああい! いいの? ありがとう!」
 セイちゃんは、本当に魅力的な笑みでお礼を言ってれた。この笑みとかわいそうな身の上(?)のせいで、ついやってしまうのだ。
 セイちゃんは、スキップしながら食堂に向かった。こう体全体で喜びをあらわせてもらえると、やったかいがあると言うものである。
 「元気だなあ・・・」
 クラークは、別に急がなかったので、普通に歩いて食堂に向かった。

 「さてと、今日は何を喰おうかなっと・・・あれ? 食堂の雰囲気がいつもと違うな? ひそひそ話しがあちらこちらで行われてるし。ちらちらと俺を見ている様だが・・・?」
 クラークは、ナイトストーカーとして鍛えられた感覚で敏感に周囲の様子を感じ取った。しかし、危険というわけではないようである。
 まわりの様子は気になるが、とにかく食事を済ませてしまうことにした。
 今日のメニューはB定食にした。川魚のフライと卵、温野菜、パン(おかわり自由)、野菜入りコーンスープ(おかわり自由)というメニューだ。味は可もなく不可もなくといったところだが、川魚のフライは淡白な白身をカリッと揚げており、結構いける。なにより、安くてボリュームたっぷりなのがいい。まあ、軍の食事というのは大抵こんなものだが。
 食事を終え、食後のコーヒーを飲んでいるとライフス中尉が近づいて来た。何か用でもあるのだろうか?

「クラーク君、君がロリコンでうちのお嬢様に色目を使っているって噂は本当ですか?」
「ぶっ!」
 クラークはあまりの事にコーヒーを吹きそうになった。
「あのですね〜」
 文句を言いかけて止まる、ライフス中尉の目が笑っていない。どうやら本気で聞いているらしいようである。
「私にはちゃんと恋人がいます! そりゃあエカテリーナは小柄ですが、私には少女趣味は有りません!!」
「ならば良いのですが・・・クラーク君が嫌がりそうな噂が広まっています。気をつけた方が良いでしょう。」
「嫌がりそうなって・・・普通、ロリコン呼ばわりされて喜ぶ人間はいませんって。」
 そんな事を話していると、当のお嬢様がクラーク達に近づいて来た。ライフス中尉に用が有るのであろうか?
「・・・・貴方がショタコンなのは勝手だけど、セイ君に近づかないで!」
 がたん!!
 あまりの事にクラークは椅子からずり落ちた。
「お嬢様、そのような言葉どこで覚えられたのですか!? このライフス、恩義ある教授からお嬢様のことをくれぐれも頼むと死に際に託されたというのに、このようなことでは・・・・・・・」
 ライフス中尉は、ショタコン等といういささかよろしくない言葉を覚えてしまったらしいお嬢様に切々と訴えた。クラークも、ショックから何とか復活し、負けじとうったえた。
「だっ・・・誰に聞いたのかは知らないけど、お兄さんにはちゃんと女性の恋人がいるんだ、変な趣味はないから、噂は信じないでね?」
 クラークは必死に怒りをこらえて優しく諭すように言った。
 そう。
 目の前の少女にあたったところで意味は無い。
 悪いのはデマを飛ばしているヤツだ!

「くっくっくっ、ヤツの様子はどうだ?」
 ロック・ファウンド軍曹はメックハンガーで同志の報告を聞いていた。
「はい、かなりの精神的ダメージをうけた模様です。」
 ロック軍曹は、ニヤリと笑った。
 「そうか・・・ならば良い、この調子でヤツの評判を下げれば、エカテリーナ曹長に振られるかもしれん、そうすれば俺にもチャンスが有るかも知れん! はっはっは、わ〜はっはっはっ! 苦しめ! 苦しむが良い! クラーク! ぐわ〜はっはっはっはっはっ!」

 ロック軍曹は、高笑いしながら思った。今日のビールはさぞ旨い事だろう。皆で乾杯しないとな、実に楽しみだ! と。



 クラーク伍長が兵舎前の闇の中で佇んでいる。

「くっくっくっ、今のうちに楽しむが良い。」
 ターゲット共は酒盛りをしている様だ。クラーク伍長はあれから地道に噂の追跡調査を行った。事情聴取相手から変態を見るような目で見られながら一人一人話を聞いていき、蛇のような執念深さでついに発生源を突き止めたのだ。

「まさか整備兵達とはな。確かに奴らは俺とエカの仲をやっかんでいた・・・馬に蹴られて死にたいらしいな・・・」
 装備の点検を始める。ライアットガンにはゴム弾が装填してあるし、サイドアームには訓練用のウッドチップ弾が込めてある。
 火薬も減らしてあるし、間違っても死ぬ事は無いだろう。

「大けがをされても困る・・・まあ、頭を狙うのは勘弁してやるか・・・夜間訓練の申請はした・・・何も問題は無い。さあ、狩りを始めようか!」   

 数分後。当然の事ながら、整備兵達の断末魔の悲鳴が響き渡る事になった。

 (なんまんだぶなんまんだぶ)

 なお、これほどの努力にも関わらず、クラーク伍長の二つ名として「ロリコン」が定着し、「ショタコン」疑惑も完全には消えなかった事を追記しておく。


人物:
○ロック・ファウンド軍曹
○ラモント・ホルシュタイン軍曹
いずれも10月の時点で名簿に載っている整備兵。
10月1日の補充人員として入隊したか、あるいはそれ以前の失機者募集でメックウォリアーについて入隊したと思われる。
 あるいは、8月から10月までの間に民間貿易船に乗って赴任してきたとか、惑星軍の整備兵をしていたのをトラバーユしたという可能性もある。