『愛しき人へ』 作:Coo 戻る
クラーク伍長が食堂の一角で何か考え事をしている。
エカテリーナにいつ結婚を申し込むかである。
一人で考えるより既婚者に相談すればいい物なのだが・・・なぜか避けられてしまう。
『ガンマニア』や『ロリコン』そして一部で言われている『ショタコン』疑惑のせいである。「はぁぁ・・・どうしよう? このままずるずるいくのもなあ〜・・・」
ここ最近、ずっとこの調子である。訓練にも身が入っていないためウツホ軍曹から説教ばかり聴いている。
「なあ? 最近のエカテリーナ曹長ってなんか様子が変じゃないか? 」
「ああ・・・なんかこう・・・仕事が手につかないって感じだな?」
「何かあったのかな?」
「さあ?」
整備兵の話が聞こえてきた。
(何かあったのか? ・・・・確かめてみるか・・・)クラークはそう思うとすぐにエカテリーナの元に向かった。
メック・ハンガーにいるかと思い行ってみたが居なかった。
しょうがないのでシェリル大尉に聞いてみた。「ほらさっさと動く! ちんたらやってるんじゃないよ!」
「「「了解!」」」
「シェリル大尉! ちょっといいですか!」
「んっ? なんだいクラーク!」
「エカがどこに居るか知りませんか!」周りの音のため、かなりの大声である。
「エカ? ああエカテリーナのことかい!」
「そうです!」
「彼女なら気分がすぐれないって部屋の方に戻ったよ! 」
「ありがとうございます!」そう言ってクラークはハンガーを去って行った。
ただその後姿をおもいっきり睨んでいる整備兵たちがいたのはいうまでもない。
(どうしちまったんだ俺は? )
以前のクラークであればこんな事はせず、復讐の事ばかり考えていた。
しかし、ここ最近ではエカテリーナのことばかりを考えている。
(・・・いいよな・・・いつまでも過去に縛られるわけにはな・・・)気持ちを改めて足早にエカテリーナの部屋を目指した。
五分後、彼女の部屋の前に来た。「エカ? いるのか?」
ドアをノックしてみるが返事が無い。寝てるのか?
鍵は掛かっていなかった為、彼はドアを開け部屋の中に入っていった。
「エカ・・・?」リビングに差し掛かったところで彼は驚いた。
なんとエカテリーナが自分の頭に銃口を向けていたからである。「エカ!」
考えるより早くクラークはエカテリーナに飛びつき銃を奪うをうとした。
「!っ は、離して! 私にはもう・・・!」
「落ち着け! 馬鹿な真似はよせ!」
もみ合いになる・・・しかし、クラークは歴戦の兵士である。
いかに格闘の基礎訓練を受けていたにしても彼にかなうはずが無い。
だが・・・
一発の銃声が響く・・・もみ合いになっているうちに銃が暴発したのだ。
発射された銃弾はクラークの頬をかすめて壁に命中した。
もう少しずれていたら間違いなくクラークの頭を撃ち抜いていただろう。
「わ、わたし、なんてことを・・・」
その瞬間、僅かに力が抜けた。
クラークはその気を逃がさず彼女の手から銃を奪い取った。
その反動でエカテリーナが床に倒れてしまった。クラークは頬から流れる血は気にも留めず銃から弾装を抜き取り、銃をスライドして薬室に残っている弾を抜き出した。
エカテリーナには声をかけず、室内電話に向かった。
「・・・管理室ですか?」
『ああ、そうだが・・・今忙しいから後で・・・」
「先程の銃声についてなんですが・・・」
『何?』
「すみません。私が銃の整備中に誤って引き金を引いてしまったんです」
『・・・そうか・・・これからはしっかりと管理してくれよ!』
「今日中にレポートを持って行きますので・・・・すみませんでした」そこで電話が切れた。
クラークが振り返りながら尋ねた。
「いったい何があったんだ?」
「ク、クラーク・・・・・・うっ、うっ、ううっ・・・」
エカが泣きながら抱きついてきた。
クラークは優しく彼女の肩を抱いてやった。
「・・・いったいどうしたんだ?」彼女は語りだした。涙が込み上げてきて途中で話がつまることのあったが要約すればこう言う事である。なぜ弟がエカテリーナを部隊から追い出したのか・・・その理由・・・・そして弟の死・・・・
肉親を失ってしまった・・・そういう意味ではクラークも同じであろう・・・
だが彼女の場合、肉親の前に『唯一の』が着く。
これがクラークとの違いである。
クラークの場合はまだ離れているとはいえ姉と妹がいる。
しかし、彼女はすべての肉親を失ってしまったのである。
「・・・私・・・何がなんだか・・・もう生きていても・・・」
「そんなことは無い!」
クラークが語気を強めた。
そして一段と強くエカテリーナを抱きしめた。「エカの弟はエカに生きてほしいから部隊から追い出した・・・彼の思いを潰すつもりか!
君が彼のあとを追っても喜びはしない・・・生きてくれ・・・お願いだからもう死のうなんてしないでくれ・・・頼む・・・」
クラークの瞳から涙がこぼれ落ちた。
こぼれ落ちた涙はエカテリーナの顔を濡らす。
「それに・・・」
「それに?」
エカテリーナが問い返した。「俺は・・・お前に死んでほしくない・・・俺のためにも死なないでくれ・・・」
「クラーク・・・」
また涙が込み上げてきた。
エカテリーナはクラークの胸に顔を埋めた。
しばらくの間、エカテリーナのすすり泣く声だけが響いた。
「・・・ごめんなさい・・・本当に・・・ごめんなさい・・・」
「いいんだ・・・解ってくれたんなら・・・」
それからクラークとエカテリーナは唇を合わせた。約五分後・・・お互いに唇を離した。
「あ、あのさエカ?」
「へぇ?」
先程までとはまったく違う声に戸惑いながらもエカテリーナ答えた。
「その・・・こんな時になんなんだけど・・・・あ〜なんてゆうか・・・・」
かなり言いにくそうである。
「何? 言うなら早く言ってよ!」エカテリーナがクラークの態度に切れた。
「は、はい! け、結婚してください!」
「・・・はぁ?」
頭の中が真っ白・・・という状態はこのことを言うのであろうか?
お互い動かなくなった。
「い、いまなんて?」
先に再起動したのはエカテリーナの方であった。「い、いや、何でもない。
何でもないんだ・・・・そ、それじゃあ・・・」
「待ちなさい!」
部屋を後にしようとが・・・後ろを向いた瞬間に足払いをかけた。
「ぐはっ!」
「あっ・・・」
クラークはバランスを崩しエカテリーナの方に倒れてしまった。
「いたた・・・」
「ご、ごめんなさい・・・って、それよりも!」
エカテリーナがクラークに詰め寄る。「さっきの言葉・・・本当なの?」
「あ、ああ、本当だ・・・結婚してくれないか・・・?」
「・・・はい」うつむきながらも結婚を承諾するエカテリーナ・・・
また顔を赤くしているクラーク・・・(弟の為にも生きよう・・・)
(ふっ・・・また一つ死ね無い理由が増えた・・・か・・・)2人とも新たな目標が出来たようである。
この夜、エカテリーナ曹長の部屋にクラーク伍長が泊まっていって、なぞの行為をしていった事実は下の階のメイドさんによって知れ渡ったのは言うまでもない。
その二週間後・・・新郎クラークエアハルトと新婦エカテリーナ・エアハルト(改名)の結婚式が基地内でささやかに行なわれた。
また、仲人はファーファリス夫妻に依頼したそうである。