『忘れられぬ記憶』 作:Coo   戻る  トップへ

その任務は簡単なはずだった。
 敵基地に侵入、情報奪取、離脱、ヘリに乗り帰還・・・事実、ヘリの降下地点に行くまではうまくいった・・・だが・・・

「どうすんですかマイヤーズ曹長! 敵に囲まれてますよ!」
 「うるさいぞ坊主! ごちゃごちゃ言う前に手ぇ動かせ!」

マイヤーズ曹長指揮下の特殊空挺部隊゛レイヴン゛第12分隊は回収地点の窪地でドラコ軍との激しい銃撃戦を繰り広げていた。
 マイヤーズ曹長の隣りでは、数ヶ月前に配属されたばかりのクラーク・エアハルト伍長待遇上等兵がわめいている。

「クラーク! わめいてる暇があるならこっちを手伝いなさい!」
 「お、おう!」

同期に入隊したレジーナ・ハミルトン伍長待遇上等兵がMG240・軽機関銃を撃ちながら言った。
 クラークはその声を聞き取るとG30突撃銃を手に取ってそちらの方へ行った。
周りには無数の空薬莢が転がっている。

ガガガガガガン!
タタン タタン タタン!

レジーナ上等兵の軽機関銃の連射音と、クラーク上等兵のG30突撃銃のバースト射撃の発射音が辺りに響く。
 もちろん彼らだけが射撃をしている訳ではない。他の隊員も必死に撃っている。

ドム!

「ぐあっ!」
「ケリー! 畜生、衛生兵!」

激しい銃声、辺りに漂う硝煙の臭い・・・それに混じる血の臭い・・・ここはまさに地獄である。

ズプ ズプ ズプ!

クラークとレジーナの隠れている窪地の淵に敵弾が着弾した。

「畜生! ヘリはまだか! もう15分は経ってるぞ!」
「うるさいよ! やつらの行動が遅いのはいつもの事だろ!」

クラークは空弾倉をその場に捨てて、弾薬ポウチから予備の弾倉を取り出してG30に装填した。

ズプ!

「ぐっ!」
 「曹長!」

流れ弾の一発がマイヤーズ曹長に命中した。
 クラークは曹長に駆け寄った。
暗がりの中にドラコ兵の姿が見えたのでクラークはバースト射撃をした。

タタン タタン タ・・ガチン!

「畜生め、ジャムりやがった!」

クラークは突撃銃を捨てると腰のホルスターからM9を取り出した。

ダン ダン!

ダブル・タップで射撃しながらマイヤーズ曹長に駆け寄った。

「曹長! 大丈夫ですか!」
「ふっ、こんなもんじゃくたばらんさ・・・それよりクラーク、まだM9なんか使ってるのか?
 そんなよりコイツを使いな・・・お前にやるよ」

曹長はそういうと腰のホルスターからワルサーP99を取り出してクラークに渡した。
 傷を見てみれば左肩の一部が吹き飛ばされているのがわかった。
暗闇の中でも肉片がぶら下がっているがわかる。

「曹長・・・いま応急処置を・・・」
 「モルヒネはいらんぞ・・・判断力が鈍るからな・・・それに俺は言ったよな?
モルヒネのやっかいになるようなら置いて行けと・・・」
 「しかし・・・」

クラークが言葉を続けようとした時、頭上に爆音が響いた。
 上を見上げると兵員輸送ヘリが猛スピードで接近してきた。

「遅いのよ!」

レジーナの声が聞こえた。
 ヘリの機首に搭載されたマシンガンが火を噴いてドラコ兵をズタズタにしていく。
土煙がわきあがり、地面で跳ねた曳光弾が何本もの軌跡をつくる。
 やがて救難ヘリは彼らの頭上低くに接近してきてウインチが降りてきた。

「ウインチだわ!」
 「負傷者から先に載せろ!」

まだ動けるものが援護を行なう。

「曹長!」

クラークがマイヤーズ曹長の方に振り返った。

「これで助かりますね!」

ところがマイヤーズ曹長は動かなかった、返事もなかった。
 クラークは慌てて曹長に駆け寄る。

「曹長?」

マイヤーズ曹長の服をたぐり寄せてみるが、反応がない。
彼はぐったりしていた。
 喉には大きな貫通痕があった。

「どうして・・・」

クラークは唇を噛んだ。
 押さえ切れない怒りが腹のそこから湧き上がってきた。

「この野郎!」

クラークはマイヤーズ曹長の突撃銃を持って立ち上がると、逃げ惑うドラコ兵に向かって乱射した。
 その瞬間、鈍い衝撃を胸と左桃に受けて、クラークは地面に転がった。
やがてクラークは息が詰まり、目の前が真っ暗になった・・・

「はっ!」

クラークはベッドから飛び起きた。
 汗をびっしょりとかき、息が上がっている。

「・・・はは、またこの夢か・・・」

クラークはそういうと胸の傷に手を置いた。

「やっぱり忘れられないよな・・・」

クラークがふと横を見るとエカテリーナが安らかな寝顔で寝ている。
 なぜか服を着ていないが気にしないように。

「死ぬわけにはいかんな・・・こいつの為にも・・・」

そう言いながらクラークはエカテリーナの頭をなでた。

「ふにゅ? あ、おはようクラーク・・・はやいね?」
 「おはようエカ・・・起こしてしまったかな?」
「そんなことないよ・・・そういえば今日は私が食事当番だったね・・・作らなきゃ」

そういうとエカテリーナはベッドから降りて服を身につけてキッチンに向かった。

「今日はうんと腕を振るうから楽しみにしててね♪」

エカテリーナがキッチンの方から顔だけをのぞかせて言った。
 何気にフリル付きのエプロンをつけてたりする。

「ああ、楽しみにしてるよ」

そういうとクラークは微笑み返した。