ゆったりとお風呂に浸かっているような気分。
いつのまにか寝ちゃってたのかな・・・
うっすらと目を開けると、見慣れない天井が目に入る。
少し視線をずらすとランプの光が揺らめいていた。
どこかの宿かな?
そう思いながら私はゆっくりと身体を起こす。
「お、目を覚ましたね」
あれ?私どうしたんだっけ・・・
たしかミノタウロスと戦って・・・
「おーい?」
ぼんやりと考えながら声の方を向く。
ハイプリースト?この人どっかで見たことあるような・・・
「あー!下水の!!」
ぼんやりとしていた頭が一気に覚醒する。
「覚えててくれたんだ」
ニッコリ笑ってこっちを見ているハイプリーストは確かに下水で出会った人だった。
ただ、あの時はしていなかった正装をしている。
「えっと、たしか・・・あれ?名前聞いてないですよね。」
「あぁ、名前言ってなかったっけ・・・シアね。よろしくー」
「アレスに話聞いた時はびっくりしたよー」
相変わらず軽い感じの人である。
「アレスさんとお知り合いなんですか?」
「まぁね。しっかし驚いたよー、骨折した子が運ばれてきたってんで着てみたら君とはねぇ」
骨折?・・・あぁ、そうだった。
しかしあれほどひどかった足の痛みは無くなっている。
「すぐに治療したからね。もう何も問題ないでしょ?」
寝ていたベッドから立ち上がってみると確かに違和感すら無い。
「ありがとうございます・・・二度も助けてもらってしまって・・・」
「まぁそれが俺の仕事だしね」
そう言って彼は笑いながら私の肩をぽんっと叩いた。
「あの後ってことはここ騎士団ですよね・・・?なんでシアさんが?」
「一応俺もミノ討伐に参加してたしね。さて、説明がてらついてきてもらおうかな」
返事を待たずに歩き始めるシアさんに慌ててついていく私。
唐突に行動するのもあの時と同じだな。
そう思うとなんだかおかしかった。
歩きながら聞いた話によると、
ミノタウロスはプロンテラ内五箇所に一気に出現したらしい。
騎士団と大聖堂がすぐに討伐に乗り出したが対応が後手後手に回り、
民間人の犠牲者もずいぶん出たとか・・・
私が寝てしまっていた間にも外では救援活動が大々的に繰り広げられていたそうだ。
「とうちゃーく」
先を歩いていたシアさんが頑丈そうなドアの前で立ち止まった。
そのままノックしようとした彼の手が止まり、静かに少しだけドアを開ける。
私に手招きすると、彼はドアの隙間から中を覗きだした。
いけない気がするが、とりあえず私も覗いてみることにする。
派手さはないものの、どことなく重厚感のある室内では、
中年の男性に向かい合うようにしてベルシスさんとアレスさんが立っていた。
「まさかウィザードギルドが動いているとはね。」
「・・・」
「アサシンギルドとの対立は噂だけじゃなかったか。」
「・・・」
何も応えないベルシスさんにゆっくりと語りかける中年の男性。
「君は口が堅いね・・・。今回の件は潜入捜査だったのだろう?」
長い間。
今度はベルシスさんのほうから口を開く。
「・・・全てお見通しってわけか。騎士団は馬鹿の集まりだと思っていたがそうでもないらしいな」
話の筋はわからないがどうやら緊迫した話をしているらしい。
中年の男性は苦笑を浮かべ、ベルシスさんは相変わらずポーカーフェイスを貫いている。
「最近は首都も何かと物騒でね。情報を十二分に拾わないといかんのだよ。」
「・・・話がそれだけなら俺は帰るが?」
「まぁそう急くな。騎士団と──」
そこで中年の目がスッと細くなる。
「・・・いや、私と手を組まないか?」
触れれば切れてしまいそうな雰囲気を纏った二人を見てシアさんが息を飲むのがわかる。
私もそれにつられて緊張しながらことの成り行きを見守る。
「・・・言い直した真意は?」
「部下が全員信頼できるとは限らないのでね。それと公にしていいことでもないだろう?」
「ほぅ・・・」
今度は逆にベルシスさんの目が細くなる。
「いいだろう、マスターには伝える。返答はそれからだ。」
中年の男性は満足気にうなずき、同時に二人の冷たい空気が融解する。
「さて、話は済んだ。廊下の二人にも入ってもらおうか。」
!!
完全にばれてた・・・
おどおどと中に入る私にまず声をかけたのはアレスさんだった。
「いよっ」
「あ、先ほどはお世話になりました。」
「まぁそれはそうと紹介するぜ、この人がココを仕切ってるヘルマン団長だ」
なっ・・・
部屋の内装や雰囲気からして偉い人だとは思っていたが騎士団長とは・・・
「は、初めてお目にかかります!剣士ギルドに所属しておりますミルフィーユと申します!!」
「話には聞いているよ。アレス君の話ではなかなかの素質だとか?」
「え、いや・・・私なんかまだまだ未熟者ですので・・・」
アレスさんは何を言ったんだろう・・・
騎士団長から褒められることは最高の名誉なのだが、
身に覚えのないことで褒められるのは嬉しさよりも困惑が先にたつ。
助けを求める視線を察したのかアレスさんが口を開く。
「団長、俺はこの子の騎士編入を推薦します」
騎士編入・・・って、ぇぇえええ!?
助けになってないしっ!
「うむ、剣士のまま動いてもらうと何かと問題が生じるからな」
「あ、あの・・・?話が見えないのですが・・・?」
恐る恐る聞き返す私にヘルマン団長が笑顔を向ける。
「今は信頼できる部下が一人でも欲しいのだよ。騎士になってみないかね?」
嬉しいのは嬉しい。女流騎士は私の憧れだった。
でも私に勤まるのだろうか・・・そもそもどうしてそうなるのかが解せない。
「みるちゃんなら大丈夫だって」
私の不安を感じたのか背中をポンと叩いて声をかけてくれるシアさん。
しかしその一言が断り辛さを一層大きなものにした。
「シア君もこう言っていることだし、どうだね?」
「わかりました・・・私でよろしければ何なりとお申し付け下さい。」
私の返事に、団長は一瞬意味ありげな視線をアレスさんに送ったあとニッコリと微笑んだ。
「ありがとう。だが君をこのまま騎士にするのは流石に周りが許さない」
「そこで騎士になる試験として頼みたいことがあるのだが──」
団長の出した試験とは信じがたいものだった。
これから先、何が起こるか全くわからない。
頭の中で警鐘を鳴らしつつ、私は西方へと旅立つのだった。
みるみる〆らぐなろく Vol.4-1