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anomaの粋酒酔音

(16)

 あの魔手


 ヴェトナムの壺酒

 固形の酒というと驚かれるかもしれません。

もちろん、呑むのですから最終形態は液状です。

発酵した穀類に水を入れてとけ出した

アルコールを呑むというスタイルですね。

壷に水を加えて飲み頃になったら

先に小さな穴を開けたストロー(吸酒管)を差し込みます。

場合によっては管の先を網状の布で刳るんで吸います。

そうしなければ

発酵した米やタピオカ、トウモロコシが入ってくるのです。

これらの酒を壷酒と呼ぶそうですが、

出来上がった酒を壷に入れるのではなく、

原料となる穀物と麹を壷のなかで発酵させ、

呑む時に初めて水を入れることがポイント。

それをみんなで吸ってなくなると

また水を注入。

またなくなると水。


この繰り返しでアルコールが感じられなくなるまで呑むわけです。



 ラオスのラオ・ハイ。

ラオは酒、ハイは壷という

そのものズバリのネーミングのものもありますが、

東南アジアやチベットなどの少数民族では


比較的よく造られる酒のようです。

 ユニークなのはその呑み方。

どの民族もそれを一人で呑むということがありません。

二人ずつで呑む黒タイ族や

いっぺんに何人もが呑むプラオ族など

それぞれ法則があるようですが、

私が経験したのは、その場にいる人なら誰でもという

ヴェトナム中部高原のバナ族の壷酒。

原料はタピオカですが、

思ったよりも芳醇でアルコールが強いものでした。

 最初は、あんなにみんなで回し呑みをしていたら

そのうち量が増えるんじゃないかなどと、

不埒なことを考えるものもいましたが、

そんなことは酒の旨さの前に吹っ飛んでしまいました。

加えて吸酒管が細いために、呑むのに結構力がいります。

当然肺にも酒気を帯びた空気が入ってきますから、

結果的にけっこう酔うわけですね。

 ニャゾンと呼ばれる共同小屋の中で、

男女が集い恋の歌を歌う時にも壺酒がありましたが、

その時に差し出されたのも吸酒管。

この時の酒は若干アルコールが強めで、

どこか焼酎っぽい味わいもありましたが、

あれは特製だったのでしょうか。

それでも口当たりは柔らかく呑みやすいものでした。

 日本に持ち帰ったのは販売用の米製壷酒。

ヴェトナム国内は問題ありませんでしたが、

さすがに成田では一悶着。

税関職員が集まって鳩首会談。

酒ということは判ってもらえたのですが、

これまでに例のない形態で、

他の職員にもこういう酒があることを知らせておこうという

意味合いだったようです。

 とはいえ、それも今は昔。

なにせ機内に液体が持ち込めません。

おまけにこんな形態では預けることも不可能。

よく持ち込めたものだと、我ながら感心しています。

なにせずっと抱きっぱなしだったのですから。

 「おなじ釜の飯を喰う」という表現がありますが

「おなじ壷の酒を吸う」

という習慣もけっこういいものだと思うのですが、

日本でもいかがでしょう。


 この辺りのヴェトナム人は、

犬やハクビシンなど食べますが、この酒には合いますね。




(このコラムで紹介したお酒は、運が良ければANOMAで、飲むことができます。)

筆者:星川京児

 

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