anomaの粋酒酔音
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アノマ酒
鳳凰山のスパークリング白酒
一部イスラームをはじめとする宗教では禁止されている酒ですが、
これがなければ、という文化圏があることも厳然たる事実です。
もっとも、他に楽しみがないという、
背に腹は代えられないということもあると思うのですが。
ここのところ通っている中国は広東省の潮州には、
他に類を見ない変わった白酒があります。
もともと鳳凰単叢という青茶で知られる鳳凰山の地酒です。
当然のことながら主力農産物はお茶です。
それも単叢という言葉の通り、
1本の茶木から採ったものだけで出荷するきわめて貴重なもの。
茶木と言ったって
梯子を架けて採集するのですから
私たちが考える茶畑のイメージとはほど遠いものです。
平地を追われた少数民族が、
山に持ち込んで育て上げたもので、
なかでも宋種と呼ばれる古木は、文字通り宋代に遡れるもので、
少し前までは樹齢900年の物もありましたが、
落雷により枯れてしまい、今では残っておりません。
現存する古木は600年と言われています。
ブルジョアのものということで文革時代には切り取られたものも
あるといわれています。
この人たちが自分たちの楽しみのために造っているのが鳳凰酒です。
度数の低い(といっても老酒よりはありますが)
鳳凰黒糯米酒。
40〜50度はある白酒の散装鳳凰米酒の2種類ありますが、
お勧めは白酒の方。
おまけに、店を替えると毎回違った味という楽しみがあります。
とにかく買うところですべて味が違います。
口に含むと、ぴりぴりと舌を刺す刺激がポイント。
といって、腐敗などの危ない感じではなくて、
僅かに炭酸が含まれているような発砲感覚。
白酒のスパークリング版ですね。
これはもう癖になります。
問題は出会うのが難しいことでしょう。
探し方のコツさえ掴めれば鳳凰鎮の山まで行けば買えますが、
街で探すのは大変です。
売っているのは、山から下りてきた人たちの店だけといって
間違いではないのですが、それが私たちには判らない。
おまけに潮州語しか喋れない人がほとんどです。
こっちも外国人で中国語(普通語)ができないというと、
思いっきり喜んでくれます。
加えて、どこで買っても同じという良心的な値付け。
目印は小さな旗がぶら下げてあることでしょうか。
赤い布か白い紙に鳳凰酒、もしくは酒とだけしかありませんが、
そこで身振り手振りで……。
まあ、だいたいこいつは酒を買いに来たというのは判ってくれますから。
困るのはビンがないこと。
壺、もしくはポリタンクから石油ポンプで汲み出してくれるのですが、
入れ物を持っていかなければなりません。
そこさえクリアすれば、後は、名物の鳳凰豆腐や点心で一杯。
まさに至福の時間が待っています。
潮州の町中で呑むのは難しいかもしれませんが、
チャンスがあったらぜひトライしてください。
酒好きには堪らない銘酒と言えるでしょう。
(このコラムで紹介したお酒は、運が良ければANOMAで、飲むことができます。)
筆者:星川京児
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