執筆的自己補完計画
それは単に、大それた我が侭に過ぎないのかもしれない  


 
 なんだか、数年前に社会的現象として取り上げられた某アニメのパクリのような物々しい冠を抱いているこの文章。その主題はつまり、「何故、私、あるは小説を書くのか?」です。
 思えば駄文を書き始めて、早十年近く。ジャンルとしては、当初はファンタジー、そして現在は腐れ恋愛ものと相成り、一向に文章力も構成も修辞も成長しておりませんが、日々妄想だけは逞しくなっているようです。少なくとも、履歴書の趣味の欄に「小説を書くこと」と恥かしげもなく書けるくらいには。

 小説を書くという表現方法は、しかし大概の創作活動と同じく初めは自己満足から出発します。自分の好きな設定、好きなキャラクター、好きな展開、好きな結末……それはつまり、それまで見聞きして来た既存のものから抽出した、自分好みの小説というわけです。そこから自分が信じる自分の想像力を育て、独創力という味方をつけていきます。そうなると次第に自分の内だけでなく他人に、それも不特定多数の人間に見てもらいたい、認めてもらいたいという欲望が派生します。それが積もり積もって、やがては公募や投稿という行動の原動力となっていくようです。
 私の場合、自己満足から先の欲望の派生が乏しく、かと言って己の内に閉じ込めて置くにはやや肥大しており、二年ほど前より友人の数人にのみ公開という「自己表現プラス1」のようなことをしていました。幸い好評を得、続きが気になる、読み返したいという声も戴き、また私自身も彼女たちに読んで貰いたいと思えるようになりました。このHP開設の理由も、そこにあります。しかし、私が小説を書くのはそういったごく一般的な志向性だけではありません。

 そもそも、私が初めて小説を書き出した頃、それは現実逃避の為の手段でした。夜、布団の中で目を閉じる前に感じる明日に対する鬱屈を忘れるため、自分が今ある世界から切り離された空間に私は必死に縋っていたと言えます。故に、その時生まれたものは現実とは途方もなくかけ離れたファンタジーでした。まさに夢の世界、煌びやかで明るく、強く真っ直ぐなものへの私の憧れを描いたものでした。それは小説としては勿論、ファンタジーと呼ぶには余りにもお粗末で、自分勝手な代物でしたが。しかしそれでも、私という人間を一時期支えるのには必要不可欠であったと思います。
 それでも私という人間は此処で生きているわけですから、結局現実という世界から完全には逃げ出せません。やがて年月とともに、私自身が自分の内で折り合いをつけることを覚えました。或いは自己欺瞞の深奥に閉じ込め、或いは忘却という最高の救いに委ねるということで。
 その後暫く、私はある程度の構想を立てることはしても、書くという行動にまで至らず過ごしました。

 再び小説を書き出したとき、それは場当たり的に思いついたものを書き残す為の手段でした。それまでのファンタジーに、ある程度の物語性を加え、主張を込めて書く。此処に来てやっと、一般的な小説の形となったわけです。以前のこの種の行動と比べ、これは大変楽しいものでした。実際、寝ても覚めても想像を繰り広げ、新しいキャラクター、舞台、展開を考えては悦に入っていました。やがて、ファンタジーだけでなく現代を舞台にしたものにも手を広げ、私の頭の中では常に別の世界が目まぐるしく繰り広げられていました。――そんな中で、私はあるひとつに事に気づきました。
 それは、私が物語にキャラクターに託すもの、それは結局私自身が私に伝えたいこと、確認したいことである、ということでした。私は、私のために私の小説を書いている。それが、私が小説を書く真の理由だと知り、納得したのです。

 そして三度、私は小説を書き出しました。今度は、私自身が私を知るために。そう、自己を補完するために。
 私は、私が考えてきたこと抱えてきたことをキャラクターに託しました。それが、緋川英彦であり、有村鞠明でした。英彦には、かつて私が初めて小説を書き出した頃の不安定な私を投影させ、一方でそれに対する今の私の考えを載せた鞠明にそれを支えさせました。また逆に、鞠明に私が抱いていた虚無を置き、英彦にその支えをさせもしました。謂わば、二人は私の現実であり、私の理想でもあるのです。

 私は、今日もせこせこと駄文を書いています。おそらく、この先も断続的ではあるけれど書きつづけることだと思います。…――何より、私自身のために。
 このような、本当に自分勝手な自己完結じまいの産物に目を通して戴き、本当にありがとうございます。小説のページ冒頭にもありますように、「今でも、あの感情に縛られている彼(わたし)」と「今でも、あの言葉に囚われている彼女(わたし)」のため、私は書いています。

 こんな人間の文章しかないサイトですが、貴方さえ宜しければ今後ともお付き合いの程を……


 
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