私は、綾夏を喪ってから長い間、子どもや家族連れと接するのが怖く、テレビも見れず、買い物にも行けなかった。旅行も極力、家族連れの少なそうなところを選んできた。
 私は綾夏が小学校に行ったら、カナダや北海道に連れて行って大自然に触れさせたいと思っていた。夏の北海道では同じ思いの家族旅行者に沢山会うかもしれない。でも、私は、今年、綾夏の大事なパンダのぬいぐるみをカバンに入れて、北海道に行こうと思った。あれから8年。私はその程度まで回復したのかもしれない。
 女満別空港から、2時間ほど車で走って、知床に。知床では、クルーザー観光船に乗って3時間のクルージング。断崖やいくつもの滝を間近に見ながら知床岬へ。「ここからもう数十分も行くと拿捕されますよ」とのスタッフのことば。
 この日は、魚を捕るヒグマを見ることができた。イルカの群れや鯨を見ることもあるらしい。
 船上では長袖のTシャツの上に、厚手のコットンジャケットを羽織ってちょうどいいくらいに、寒い。
 知床八景のうちの一つ、知床五湖へ。硫黄山の噴火活動でできたこの湖は、流れ込む河川がないが、岩盤地層に溜まった地下水が水源になっているらしい。原生林に囲まれた知床五湖は、木道で作られた探勝路があり、誰でも散歩してその景色を楽しみことができる。
 湖面の向こうの知床連山の姿が美しい。
 ヒグマの活動期で、5湖のうち、2湖までしか散策できなかった。
 知床は、ヒグマが高密度で生息する地域として世界有数であるらしい。森では木の実や果実を食べ、海岸では魚を捕獲する。
 カーナビは、走行中、殆どが、こんな調子。建物などのランドマークが何も表示されない。ただ、まっすぐに道が続く。
 道が混むことがなく、信号も街以外に無いから、目的地への所要時間が、キロ数さえわかれば、ほぼ正確に計算できる。
 釧路湿原展望台から、湿原を臨む。
 ここでも、湿原内の遊歩道を散策したが、ヒグマの目撃情報が掲示されていてドキドキ。クマ避けの鈴を借りてこなかったので、「森のくまさん」を歌いながら歩く。結構アップダウンがきつくて、北海道とはいえ、汗だくになる。うっそうとした熊笹の小道を行くと、巨大な蕗の葉や、様々な花たち。ところどころで萩の花が咲いていて、秋の気配。
 釧路湿原ノロッコ号に乗りたかったし、カヌーもしたかったが、時間不足で断念。
 富良野にて。ラベンダーの季節は過ぎていたものの、いたるところに大地を覆うお花畑。有名なファーム富田のほかにもいくつものラベンダー園が美しさを競う。
 ファーム富田では、ラベンダーの蒸留や石鹸作りの行程を見ることもできる。この地にラベンダーを根付かせた富田氏の苦労は並大抵のものではなかったらしい。
 富良野から美瑛へ。
一面のひまわり畑に出会う。視界の端から端まで、ひまわり。日の光を浴びて、黄金に輝く様子に息を呑む。
 美瑛の親子の木。
大地と空。あるいは大地と海。ただそれだけしか視界に入らない風景の贅沢さ。
 早い秋の来る前に、大地が全身で太陽の光を受け止めている。