「虫たちへ」

 ブーゲンビレアの濃いピンクの花弁で、黒アゲハ蝶が、羽を休めたまま死んでいた。日中はまだ30度を超える日もあるけれど、季節は確実に移り、蝉の声が秋虫の声に変わった。
 アゲハ蝶は蜜を吸いながら、すっと引き込まれるようにあっちの世界に旅立ったのだろうか。そのとき、花を摘んで遊んでいた綾夏の傍らに、こちらの世界を旅立ったばかりの蝶がひらりと現れ、あの子が歓声を上げるのを思い描き、微笑んだ。

 小さな虫たちはあちらの世界とこちらの世界を行ったり来たりしているのかもしれない。あちらへ向かう虫たちよ、どうか、私の思いを運んで。そして、あの子の様子を知らせてほしい。