「アロマテラピー」

 喪失の絶望から心身の不調を生じた中で、めぐり合ったリフレクソロジーの世界。そこからアロマテラピーや漢方へと関心が広がっていった。
 心の痛手を直接癒すのはとても難しい。しかし、心と体は一体であり、体を癒すことで心も癒すことができる。このアプローチのほうが、心を直接癒すよりもずっとたやすいのではないかと気付いた。そして、体をケアすることで心もケアしようとするとき、精油を用いることはとても効果的であることを、私は、身を持って実感した。

 アロマテラピーとは「精油を用いてホリスティックな観点から行う自然療法」であると定義される。ホリスティックは、「全体的」「包括的」を意味し、体を部分としてみるのではなく、心を含めた全身的・全人格的なものとしてとらえるということである。そしてその効果として、リラクセーション・リフレッシュ、美と健康の増進、身体や精神の恒常性の維持と促進、身体や清新の不調の改善と正常な健康を取り戻すこととしている。
 精油とは、「植物の花、葉、果皮、根、種子、樹脂などから抽出した天延の素材で有効成分を高濃度(通常の植物に存在するものの100倍以上)に含有した揮発性の芳香物質であり、天然の化学物質が数十から数百集まってできたもの」とされている。精油の場合には、主として炭素、水素、酸素原子が様々な結合の仕方をすることによって異なった成分を作り出し、その結合の仕方はいくつかに類型化することができ、それにより心身への働きかけや作用を分けることができる。この精油を様々な方法で用いるアロマテラピーは、精油の薬理作用、嗅覚刺激の精神生理作用、ヒーリング作用によって心身に作用する。

 アロマテラピーは日本では1990年代半ばに一般的となったが、人は紀元前の古から常に植物を医療や暮らしに役立てて生きてきた。「アロマテラピーは私たちの生活を見直す智慧の宝庫」であり、「2000年以上にわたって蓄えられた植物利用の壮大な記録」(『アロマテラピーコンプリートブック』林伸光監修より)である。

 ゴールデンウィークは、アロマテラピーインストラクターの勉強のために大阪のスクールに通っていた。ゴールデンウィーク直前に風邪を引いてしまったのを引きずってきつかったが、7日間、集中的に勉強することができた。勉強内容だけでなく講師や同級生のアロマテラピーの活用法やアロマテラピー観にも触れ、大変エキサイティングな日々であった。
 この日々の中で思った二つのこと。
  一つ目は、学生時代とちがい、勉強を「させてもらっている」という感謝の気持ち。自分と家族の健康、時間、お金、夫の協力も含めた環境がととのっていて、存分に学ぶことができる。そのことへの感謝。
  二つ目は「この年齢になって今更」と思いがちだが、年齢を重ね、悲しみも喜びも重ねた今だからこそ伝えられるアロマテラピーがあるにちがいないという思い。人は、病の苦しみや死別の悲しみから逃れることはできないが、病も死もまた自然である。人は喪失や絶望を経験するが、喪失や絶望は再生の始まりである。大自然の中の一部である人間が自然と調和し自然に生きることを、そして再生を、植物のエネルギーが凝縮した精油が助けてくれる。

 私の前に置かれた精油の小瓶には、産地として行ったことのない国の名前が記されている。時空を超えて、今私の手元にたどり着いたこの一滴との出会いに想いをめぐらせる。