「不思議なこと」

 私の体は、水素原子、酸素原子、炭素原子などが、結合してできている。野菜も魚も、肉も同じだ。私がそれを食べれば、私の体の中で、それらは結合の仕方を変えて、エネルギーになったり血肉となったりする。
  不思議なことに、ポリ袋や、紙や、鉛筆の芯だって、同じように水素原子、酸素原子、炭素原子などが、結合してできている。
  私の体はあなたの体になり、あなたの体は私の体になり、木になり、花になり、獣になり、魚になり、空気になり、地球を巡る。


  そして、その体という物体に、心が宿る。
私は、悲しみ、喜び、怒り、愛し、憎む。
それを言葉に変えれば、あなたにもその心が伝わる。

  しばしの間、あなたは私にとってかけがえのない存在になり、私はあなたのかけがえのない存在になる。互いの存在も、関係も常に変化していくから、それはしばしの間のことでしかないけど、私はあなたの体を失っても、あなたの心は失わない。


  心は芸術を生む。生み出された音楽や、文学や、美術は、人がその体を失っても、感動を与え続ける。悲しみに心を閉ざしたくなる時、ずっとずっと昔、同じ思いで書かれた作品に生きる勇気をもらったりする。

  ああ、なんて、なんて、不思議なこと。