「無題

母に愛され、父に愛され、祖母に愛されて育った。夫に愛され、娘に愛され暮らしていた。
 
 私を育ててくれた人たちが私に望んだことは何だった?それは、人生のどんな逆境にあってもそれに負けず、良心を捨てずに、自分の足で歩いていくこと。私がやがて親の元を巣立つであろう存在の、娘に望んだこともまたそうだった。生き抜く力と生きる指針たるべき良心を確立すること。

 私を愛した人たちは、私が今泣き暮らすことをどうして望んでいるだろうか。生きる望みを無くして路傍に座り込んで、楽しそうに道行く人々を妬んでいる惨めな私の姿をどうして望んでいるだろうか。

 立ち上がらなければと足に力を入れようとしてはそのまま腰がくだけてしまう。他のどんな試練でも立ち上がれたはずだ。私の大事な綾夏を背負っているのなら、あの子を守るためなら私は這ってでも進めたはずだ。
 今は、歩こうにも行き先がわからない。何に向かって歩むべきなのか、歩むことに意味があるのか、途方に暮れて座り込んだまま今日も情けなく泣き続けている。