蝉時雨
近くの雑木林から狂わんばかりの蝉の声。今年の梅雨は本当に雨が多くて、長かった。ようやく梅雨が明けたと思ったらすぐ、台風がやってきた。台風一過の青空に、今とばかりに一斉に声を競っている。
蝉は8年間土の中で過ごし、やっと地上に現れたと思ったら、1週間で死んでしまうのだと、小さいころに聞いたことがある。だから、声を限りに命を燃やし尽くすように鳴くのだと。あの話は本当だろうか。
本当なら、この蝉たちは、綾夏がこの世に生まれ出る前から、じっと地中でこのときを待っていたことになる。蝉たちが地中で体を丸めているあいだに、秋が来て、冬が来て、春が来て、夏が来て・・・その繰り返しのときの中に私と綾夏との輝ける月日があって、そして綾夏は去り、蝉は今、ときを得て、地上で鳴いている。
1週間の時を過ごした蝉が、熱く乾いた路上にあお向けに転がっている。蝉の体は生き物の体だというのに、かさかさと落ち葉のように乾いて見える。
命を全うした蝉は、忽然と木から落ちるのだろうか。せめて、アスファルトの道でなく、ひんやりと湿った土の上に落ちられればいいね。そうすれば、また、あの親しんだ土にそっと還ることができる。永遠の安らぎの中にまた眠ることができる。