「命をつなぐもの」

初めて海に命が生まれてから、今日まで、気の遠くなる年月をかけて命は私まで引き継がれた。化石で残る太古の生物も、教科書に乗っていたネアンデルタール人も、縄文人も、みんな私につながっている。
 私だって、この命を、次に引き継ぎたかった。祖母が母につないだように、母が私につないだように、命とともに、知恵と、物語をつなぎたかった。

木々の葉っぱは、梢の先に芽生えた新しく瑞々しい若葉を見あげながら、その下に若葉を支えるように生き生きと伸びる力強い葉が広がるのを見あげながら、古い方から、はらりと落ちていく。安らかに、満足しながら、ひんやりした土に還り、やがて若葉を萌やす力となる。

 綾が摘んできた赤い実のなる木は、コップに挿しているうちに根が伸びて、綾がいなくなってから植木鉢に植え替えたのだが、今は根を張り新しい花を咲かせ、青い実をつけている。あの子のいない2003年10月のさわやかな秋の日差しをいっぱいに浴びて、青い実は色づこうとしている。
  たった5年11ヶ月、それでも綾の咲かせた花は、友達の心の中で実を結ぶかもしれない。思いがけず折れて土に落ちる若葉もまた、土に還り、いつしか花となる。
  私が生きたという事実、綾が生きたという事実・・・命をつなぐ糸は縦糸だけではないのかもしれない。