「めでたいはずもない」

 新しい年が来たから、おめでとうと人が挨拶を交わしている。クリスマスから新年へと街のデコレーションはあっという間に変わった。TV局は空虚な特別番組を朝から晩まで並べている。去年よりも格段に減ったものの、めでたいはずもない我が家のポストに年賀状の束が投げ込まれる。クリスマスにも、お正月にも、節分にも、ひな祭りにも、小学校の入学式にも気がつかないままに季節をやり過ごせたらどれほどいいだろう。ただ、いつもと同じ朝が来るだけだ。涙とため息の一日が始まり、そして暮れるだけだ。

 私は髪の先から足の先まで、悲しみに満ちている。そして、私が見るもの、手に取るものもすべてが悲しみに染まり色あせてしまう。かつて、私が好きだったもの、欲しかったもの、楽しみにしていたもの・・・それらは、今の私にはもう何の意味もない。

今日だけを何とか精一杯生きようと思い、いつかあの子のいるはずの世界に確実に行けると自分に言い聞かせて暮らしていても、時々、いつまで今日という日を重ねればならないのかと、めまいがしそうになる。自分を励ますことに疲れてしまうことがある。

 私はたったひとりで綱渡りをしている。足の下には真っ暗な、底の見えない谷。見えるのは足元の細い一本の綱。不安になって何かにすがりたくて手を横に伸ばしても、手は宙を泳ぐだけ。ここから落ちればどうなるのだろう。落ちてしまったほうが楽なのかもしれないという思いが頭によぎりながらも、一歩一歩、足元だけを見ながら足を進める。この綱の行く先がどこであるかもわからない。